第7話 教わるーノ

「会いに行くのはいいが、この世界から出る方法ってあるのか?」


 ㅤ出るというか、目覚めるというか。オレはこの世界で、あと何人くらいの理解不能な人たちと出会うのだろう。


「ずっと出られないーノ」

「えっ」

「大切な何かを教わるまで監禁なーノ」


 ㅤおいおい。怖いこと言うなぁ。その大切な何かって何。


「教えないーノ。教わるーノ」


 ㅤそうかい。まあ時間が経てば自然とどうにかなるだろう。オレはいつからどこから夢を見ていたのか知らないが、よほど変な寝方をしたんだろうな。こんな世界に来るなんて。


「こんな世界で、悪かったーノ」


 ㅤいや、でも、こんな世界を見たいと思ったのはきっとオレだから。オレの意識のせいだから。


「何言っているーノ」


 ㅤ疲れていたんだろう。あまり寝る前の記憶もないが。目が覚めたら夢占いでもしてみるか。占いようがなさそうだけどな。


「好きに言えばいいーノ。さあ、着いたーノ」


 ㅤスクランブル交差点に、多くの人が行き交う。男も女もみんなオシャレな若者で、色とりどりな服装、帽子が目の前を星のように流れていく。空はいつの間にか明るくなっていた。


「これがモブキャラクターなーノ」

「確かにそうかもしれないが」


 ㅤみんなやけにカッコよかったり、可愛かったり。何となく思っていたのと違う。


「これじゃただの渋谷じゃないか。ちょっと誰かに話を聞いてみていいか」

「好きにするーノ」


 ㅤすみません。ちょっとお話いいですか。

「はい、いいですよ」

 ㅤそのベレー帽、よくお似合いですね。

「ありがとうございます!」

 ㅤこちらにはよく、来られるんですか。

「はい、週に一度は来ます」

 ㅤへえ。今日は何を目的に。

「買い物です」

 ㅤなるほど。何の買い物ですか。

「買い物です」

 ㅤなるほど。ところであなたのこと、タイプです。

「ありがとうございます!」

 ㅤ今日ここで会えたのも、何かの縁ですかね。

「はい、週に一度は来ます」

 ㅤすみません。ちょっと名前を教えていただいてもいいですか。

「はい、いいですよ」


 ㅤ以降、彼女との会話が上手く成立することはなかった。途中からすでにアレだったが。この彼女は見た目が綺麗でも、中身が空っぽだった。他の人にも声をかけたが、やっぱりこんな調子だった。


「単なる背景って切ないな」

「現実はこうじゃないーノねーノ」


 ㅤそうだ。現実の世界では単なる背景の一部みたいに過ごしても、そこには何かしらの物語はある。意味はなくとも。でもそんなことも、交わらず、すれ違うだけでは忘れてしまう。


「それじゃあ今度はシカバネに会いに行こうーノ」


 ㅤシカバネ?ㅤ死んだものに会えるっていうのか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る