第6話 月に向かってガチで吠えろ
ㅤ車道の真ん中に、彼はいた。
「許さんぞ!ㅤ絶対に許さんぞ!」
ㅤそんな言葉を叫びながら、そんな言葉が書かれたボードを一人夜空に掲げ行進している。
「やあ。今日も頑張っているーノねーノ」
「許さんぞ!ㅤ絶対に許さんぞ!」
ㅤ反乱軍に会いに行くという話だった。この世界での、これまでの経験からすれば、反乱軍は反乱していないと思っていた。ところが、しっかりと反乱していた。ただ、何に対して反乱しているのかわからない。軍だというのに一人しかいない。
「許さんぞ!ㅤ絶対に許さんぞ!」
ㅤ話を聞いてもらえる雰囲気じゃない。車が通る雰囲気もない。街灯に照らされた車道に、男の低いわめき声がひたすら響くだけ。歩道沿いでは、暗い畑が小さく揺れるだけ。
「おい、ヅッチーノ。今回は会話すら出来ないんだが」
「それでいいーノ。これが彼の生き様なーノ」
ㅤ生き様って言われてもなぁ。すぐ近くに住宅がないようだから、騒音迷惑はかけていないのかもしれないけど。でも、車がここを通らないのは夜中だからではなく、この人がいるせいなのかもしれないし。
ㅤ何にせよ叫ぶ相手がいないのに叫ぶって。仲間もいないのに叫ぶって。やっぱり、どうかしているんじゃないか。
「そう決めるのは、まだ早いーノ。アレを見るーノ」
ㅤヅッチーノが指をさしたわけではないが、ヅッチーノの声がする方に顔を向けると、そこにはまん丸金色に輝くお月様があった。
「月に向かって吠えているってか?」
「よくわかっているーノ」
ㅤそれに何の意味がある。月は話を聞いてくれないぞ。仮に月と会話できる人がいるとしても、それはその人がそう思い込んでいるだけで、実際は話せていないんだ。人類が月に移住でもしていれば電話でも出来るようになるかもしれないが。
「そう。月は話を聞いてくれないーノ。それはこの世界でも同じなーノ」
「許さんぞ!ㅤ絶対に許さんぞ!」
「つまり月からしたら、みんな一緒なーノ。吠える人も吠えない人も同じなーノ」
ㅤ人の価値は、人が決める。だけど人に興味のない月からしたら、どれも価値は変わらないというわけか。オレは物分かりがいいな。だけど現実でそう思って自由に生きるというのは、なかなか難しいな。
「許さんぞ!ㅤ絶対に許さんぞ!」
ㅤ意味のあることをしないと。失敗することにも意味があるからって。知らない誰かにずっとそう言われていた気がする。しまいには、全てのことに意味があるって。
「許さんぞ!ㅤ絶対に許さんぞ!」
ㅤ叫ぶ彼にも、叫ぶようになった過程があるかもしれない。叫ぶ言葉にも、何か特別な意味が含まれているかもしれない。なんて思っちゃいそうだけど、叫び産まれた赤ちゃんの頃の延長線上を、彼は今も行進し続けているだけなのかもしれない。
「許さんぞ!ㅤ絶対に許……ゴホッゴホッ!」
ㅤだ、大丈夫か?
「ゅるさんぞ!ㅤ絶対に許さんぞ!」
ㅤどうかそのまま、許さないでほしい。あるいは突然、許してあげてほしい。
「次は、モブキャラクターに会いに行くーノ」
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