第4話 やれやれ

「ところでどうして、オレを姫に会わせたんだ」


 ㅤ姫に当たる照明が、心なしかオレに当たる光より眩しく感じる店内で。光に当たろうが当たるまいが関係ないヅッチーノに説明を求めた。


「姫はこの世界で最も美しい存在なんだ。なのに何も、感じないでしょ」


 ㅤ確かに。姫は身長が高く、ほっそりしているが、出るところは出ている。顔も笑うと愛嬌があるが、口を閉じると凜とした顔つきで。現実の世界だったら、緊張して何も話せないかもしれない。だけど今は、そんな気持ちも、変な気持ちもない。気がする。


「ここはそういう世界なんだ」

「わたくしに魅力がないわけではないですわ」


 ㅤただこの姫が現実にいたとしても……いや、何でもない。それにしてもこれからオレはどうすればいいんだ。いくら夢の世界だとしても、何の目的もないんじゃな。恋をするわけでもなく、魔王と戦うわけでもなく。退屈に時間が過ぎていってしまいそうだ。


「そんなことないよ。それはキミの気の持ちようなんだ。姫はこんな楽しそうにしてるだろ?」


 ㅤヅッチーノにそう言われると、姫はカウンターの向こうでニッコリ笑う。オレたち以外は誰もいない店内。そりゃそうだ。こんな欲のない世界では、コンビニへ買い物に来る客もそんなにいないだろう。それでよくやっていけているよな。って、やっていける必要もないのか。生きるためにやっているわけじゃないんだし。


 ㅤどうでもいいけど、もしかして姫ってこのコンビニの店長?ㅤあるいはもっと偉い人?


「いえいえ。ただのバイトですわ」

「そうですか、すみません」

「それ以上掘り下げても特に何もありませんわ」


 ㅤなるほどね。オレはちょっと理屈で物事を考え過ぎなのかな。


「じゃあ次は、ドラゴンに会いに行こうーノ!」

「えっ、ドラゴン?ㅤ楽しそう」


 ㅤちょっとテンションを上げてみた。実際、人間じゃない、伝説の生き物に会えるのがこういう世界の醍醐味だいごみじゃないか。ただ「行こうーノ」って何だよ。そんな言い方さっきまでしていなかっただろ。やれやれ。

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