6thG 麒麟のバレンタイン作戦
第60話 シーズンイベント
「という話がテキサスファイアであったんです」
「だーからさー、なんで平山ちゃんってそういう羨ましい事件に巻き込まれるかなー」
「そうですか? 僕あの後データを消したことすっごい怒られましたよ。警察からも事情聴取とかでデータの提出求めまれましたし、大変でした」
「真面目に生きてる拙者らがバカらしくなる内容でゴザル」
「そーそー社長娘の次はアメリカンスターとか、次何にする気だよ」
遼太郎が高畑と岩城に突っつかれていると、そこにプレゼント用の包装をしたピンク色の箱を持った麒麟がやってくる。
「あっ、平山さん、お話があるんですけど」
「はい、なんですか?」
「おや、姫その箱はなんでゴザルか?」
岩城が箱に気づき、指をさす。
「いいところに気づきましたね。これは今から話をしようとしているシーズンイベントのものです」
「シーズンイベント決まったんですか?」
「ええ、ばっちり」
「バトリングが始まる前に何かやるんですよね?」
「これ見て気づきません?」
麒麟はハート型の箱をずいっと見せる。
三人のぼんくらはなんだこれと首を傾げるが、高畑がいち早く気づく。
「あー、バレンタインデー」
「うっ、拙者昔好きな女の子から貰った義理チョコを拙者だけのものと勘違いして自慢しまくったら、男子全員に配ってると聞いて赤っ恥をかいた嫌な思い出が蘇るでゴザル」
「僕も昔、桃火ちゃんから貰ったチョコを母親からのだと勘違いして、しこたまぶん殴れられましたよ。ホワイトデーが酷いことになりました」
「どちらも同じ勘違いなのに、前者は涙を誘うのに後者は嫉妬をさそうな」
「それでですね。多分ゲーム内でチョコを配布してもなんじゃこりゃってなると思うんですよ」
「それはそうですね。メタルビーストの世界観にいきなりチョコがやってきてもどうすんだこれってなりますよ」
「だから、それを平山さんになんとか考えてもらいたいんです」
「姫、ぶん投げたでゴザルな……」
「チョコ、チョコですか……バレンタインチョコと言えば」
「まぁプレゼントでゴザルな」
「つか、このゲームの男女比率どうなってんの?」
「7対3です。他のロボゲーに比べれば圧倒的に多いですが、それでも周りは野郎しかいないよって人の方が多いでしょうね」
「ホワイトナイツといい、女性は女性だけでかたまる傾向があるでゴザルからな」
「じゃあチョコ貰えないじゃん」
「いえ、別に女性から男性と限定しなくても、男性から男性でも渡せるようにすればいいです」
「しかし、正直男からチョコ貰えても微塵も嬉しくないでゴザル」
「そ、それはそうなんですけど~」
麒麟が珍しく地団駄を踏んでいる。どうやら相当入れたいイベントらしい。
「もうじき結婚システムも入りますし。このゲームのコミュニケーションの少なさをなんとかしたいんですよ」
「確かにやるならコミュニケーションの起爆剤になるものにしたいですよね。でも岩城さんの言った通り男性からチョコ貰っても嬉しくないし、このゲームで使い道のないチョコを貰うよりリペアキットや、弾薬セットのアイテムを貰った方がユーザーさんは喜ぶんじゃないかなと思います」
「そうかもしれませんけどぉ。チョコはチョコって名前だけでアイテムの属性を変更してもいいですから」
「てことはチョコって名前のマシンガンとかブレードが出るわけだ」
高畑と岩城は巨大なポッキーを装備したシュールなメタルビーストを想像する。
「でもそれ面白いですよね、チョコマシンガンで相手の機体をまっ茶色に染め上げるとか」
「違うんですよ、そういうネタ的な遊びじゃなくて」
「あっ、閃きました。低レベルの雑魚にカカオというアイテムを持たせて、それをユーザーさんに集めてもらいましょう。たくさん集めると景品として交換できるようにして、チョコとは無縁の方は集めたカカオを消費アイテムと交換してもらいましょう。プレゼントする場合はカカオをチョコレートに交換し意中の相手に渡す。またチョコレートでしか交換できないチョコソードなんかを交換品として実装してみたらどうですか」
「ふむ、いわゆる収集系と呼ばれるイベントでゴザルな」
「それ男から男でもチョコに交換して渡すことできるよね?」
「できますよ。女性から男性だけだと不公平ですからね」
「チョコ交換されちゃうんですか?」
「さすがに食べられないチョコを置いておいても渡された方も困ると思うので、それならイベント装備として装備してもらったほうがよくないですか?」
「まぁ確かに。あっ、でもチョコを渡すときは必ず手渡しに設定して下さいね!」
「別にメールで送れるようにしてもいいのでは?」
「ダメです! 手渡しです! 後そのイベント結構めんどくさいのにしてください」
「しかしシーズン系のイベントで手間がかかるのってあんまり評判よくな……」
「ダメです! あとチョコ装備はチョコの数だけ強くなるようにステータス設定してください」
「デスキャノンより強いチョコブレードができあがるわけでゴザルか……」
「たまにありますよね、ネタ武器のくせに異常に強い武器……」
「でもそれやるとチョコ剣外せなくなるユーザー出てくるんじゃないの?」
「出るでしょうね……」
「いいんです、その人はモテモテってことなんです! あっ、こうしましょう同性からプレゼントされたチョコ剣は黒にして、異性からプレゼントされたチョコ剣はピンクにしましょう」
「それ、男同士でプレゼントし合った人たちは一発でバレますね」
「相当寂しい奴って言われるな」
「しかし姫、収集系装備を強くするとボットがわくでゴザルよ」
「私が全部殺します。AI系は全部殺します」
「姫がボット絶対殺すマンになってるでゴザル」
「ボットって勝手にアイテム収集するプログラムだよな。あれ人間とちゃんと識別できんのかな」
「麒麟さんなら多分できるんじゃないですか?」
翌週
かくして麒麟のノリと勢いと、遼太郎の閃きにより決定したバレンタイン収集イベントはあっさりと実装され、バレンタイン1週間前からの開催となったのだった。
ネット界隈でも告知を見た時はネタ装備だなと言われていたが、実際の装備ステータスを見ると非常に有用な武器であるとわかり、このイベントを走らない奴はエアプとまで言われるようになった。
だが、まずイベントを走るには彼女をつくるところから始まるなと最大のハードルにユーザーたちは戦々恐々とするのだった。
1 メタルビースト今度のイベントチョコ剣強すぎワロタwwwww
2 チョコ剣強すぎくね? イベント走らなきゃ(使命感)
3 じゃあまず彼女か嫁作るところからだな。
4 >>3で終わってた。終了~~一生とれねー
5 嫁にくれって言ったら、
6 汚い、さすがメタルビースト運営汚い
7 俺の母ちゃんくれねぇかな……
8 VR母ちゃん課金まだですか
「だってさ」
高畑が掲示板の内容を読み上げると、遼太郎はう~んと首をひねる。
「正直バトリングより盛り上がってるところが僕としてはなんともコメントしづらいですね」
「いいじゃん、平山ちゃんチョコ剣かチョコシールド貰えるんでしょ? 装備のモデリングデータできてんの?」
「ええ、この話聞いて天城さんが意気揚々とデザインしてくださったので、良いデザインの装備になってますよ」
遼太郎は出来上がったチョコ剣、チョコマシンガン、チョコシールドを見せる。どれもハートと天使の羽がふんだんに装飾に使われており、どちらかというと女性が欲しそうなデザインになっていた。
「これホワイトデーで色替えでだすんでしょ」
「ええ、女性も欲しがるデザインだと思うので。ただ、これ真田さんが言った通りかなり取得をきつくしたので多分クレームくるくらいつらいですよ」
「ちなみにレートどうしたの?」
「スナップバグから一定確率で落ちるカカオ1000個で武器一本交換できるラブパワーチョコ1個と交換ですから、正直バレンタイン期間中ずっとバグ倒してないと武器は取れないですよ。これユーザーさんに怒られそうで凄く怖いです」
「ちなみに姫様はどうしてんの? 姿見ないけど」
「ボットが出た瞬間殺す、キラープログラム作ってますよ」
「……ちっともコストカットできていなじゃん」
「ま、まぁボットキラーはシーズナル関係なく使えますから」
「後さ、またfaiceb〇okの話なんだけど、ホワイトナイツとテキサスファイアがスナップバグのいる地帯を焼け野原にしてるってスクショ上がってきてるぞ」
「あーあー聞きたくない、聞きたくないです」
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