第20話 最後の一撃

強大な赤い球、この艦の中心、これを破壊すれば、すべてが終わる。

壁にナイフに刺さっている、頭脳イーターは狂った笑いを上げている、それを無視して、レイヴンはコアに近づき、剣を振り上げ傷をつけようとしたが、弾かれた。


「なっ!また・・・バリアか・・・・」


「フハハハハハ―――、無駄だ、おまえにはできないぞ!!」


「アイ、何かわかる?」


「はい、おそらく周囲にある、機材がバリアを作っているのかと思われます」


アイが示したのは、コアに繋がっている、コードやパイプ、ホースの先にある機会だった。

貴彦は銃でそれらを破壊した。


「これでいいのかな?」


「はい、バリアの消失を確認しました。」


「じゃあ、改めて・・・・っ!!」


さっきより勢いよく、剣を振り降ろした、がカーンと鉄が響くだけだった。


「な・・・に・・・っ!!」


「ふ、ふふふ、、ふははははははははは―――――――っ!!我らの中心がそう簡単に破壊できるわけがないだろう!!」


「・・・・・やってやる!」


剣を叩きつける、何度も、何度も、壊れるまで、何度も、何度も、叩きつけた。

だが、一向に傷がつく気配がなかった。


「くそっ!!」


「なんて、硬さなの・・・・っ!マスター!」


その時、アイが叫んだ。

敵発見のアラームが鳴る、貴彦はコアから目を離し、あたりを見回った、だが、どこにも敵の姿は見えなかった。


「・・・・敵なんて・・・・・・っ!!」


発見できず、作業に戻ろうとした瞬間、何かに後ろへと引っ張られる、留まることもできず鉄の壁に叩きつけられる。


「ぐっ・・・・!!な、なにが・・・・っ!!」


「拘束されています!」


どこからか現れた、触手がレイヴンの自由を奪った。

振り払おうとするも、それはどんどん増え、身動きが取れない


「あはははははははははっははは――――、残念だったな、そうさ、最初から答えはあったんだ、おまえを消し去れば、我らの勝利だ!そのまま、我らの餌となれ!!」


「ぐ・・・・ふざけっ!!」


「マ・・・・・ス・・・・・マスタ・・・・・き・・・・」


アイの声がノイズに消えていく、レイヴンも触手に埋め尽くされ動けなくなる。

まだ残っていた右手をコアへと伸ばすも届かない、まだ見えていた視界も、音もすべてが闇に埋め尽くされていった。


「くそっ!!動けええええええええええ――――――――――っ!!」


貴彦は叫んだ、だが、下からヤツの一部が入ってきた。


「なっ・・・うそだろ!?――――っ!!ぐっ!?」


ドロドロだった、液体が急に塊に変化し、操縦席を貫く野になって勢いよく伸びた。

危うく刺さりそうだったが、右によってその槍を回避したが、左に来ていた槍にぶつかったせいで意識を失ってしまった。

レイヴンは停止した。


「ぬっ!貴彦・・・・」


何かを感じ取ったように老人は目を開く、立ち上がり縁側へ移動し、黒く染まった空を見上げた。


「そういえば、あの子は縁側が好きでしたねぇ~」


いつの間にか道場へはいってきていた、老婆がお茶を出しながら老人に言った。


「フンっ、おまえが甘やかすからだろう」


「フフフ、今度はいつ、帰ってきますかねぇ~」


「来るわけないだろう・・・あの子はワシらが嫌いなんだぞ」


「そうですねぇ~でも、優しい子ですから・・・きっと」


長年連れ添った夫婦だが彼女の前向きさはたまについて行けなくなる、と呆れたため息をついた。


「ハァ~、まぁ、アイツが帰ってくるときは、晴れているといいな」


そう言うと彼女は微笑む、今はどこかにいる、孫の顔を思い出しながら、妻に見えないように微笑んだ。


夢を見た。

そこはきれいな丘の上だった。


「・・・ここは?」


「きれいだろう?」


「え!?」


声がして振り返る、そこには、女の人が立っていた、見覚えのある女の人、ずっと会いたかった人がそこに立っていた。


「・・・・・・」


「きれいだろう?」


「母さん・・・・」


そう言うと彼女は微笑んだ。


「なんで・・・・」


「負けちゃうのかい?」


「え・・・・うわっ!!」


彼女がそう言った瞬間、強い風が吹いて思わず目を閉じる、次に目を開いた時、きれいだった丘は荒れ果て、空が赤黒く染まっていた。


「・・・・・っ!!」


「負けちゃうの?」


「・・・・もう、手がないんだ・・・俺が使える技術ではあれは切れない・・・拘束もされてる、もう、打つ手が・・・・」


膝をつき、絶望に沈む、自分の限界を知っているから、これ以上の手がないと思っている、もし、拘束から抜け出せたとしても、コアを破壊できるほどのチカラが残るが分からない、負けた、もう終わったと思った。


「ほんとに?」


「え?」


「君ならできるだろう?」


「何を・・・・」


「君は強いだろう?」


何を言っているのか分からなかった、否定するように首を振る。


「強く無いよ、俺は弱いよ、未熟者で弱虫だ、気合でここまで来たけど、やっぱりだめだよ、僕には誰も守れない・・・・」


後ろにいてくれる人たちがいた、自分の培ったチカラを役立てることができてうれしかった、でもそれもここまでだった、自分の強さは所詮、張りぼての強さだったと思い知った。


「そんなことないさ、君ならできる、私は、信じてる、だって君は        」


「・・・・・母さん・・・・・」


彼女の笑顔を初めて見た。

何よりも見たかった笑顔をもう、会えない彼女にようやく会えた気がした。


「――――っ!!」


暗闇の中、目を覚ます。


「アイ?アイ!・・・・・」


どの画面も真っ暗で、アイも返事がない。

ただ一人、残された、黒い槍をへし折って、操縦レバーを握った。


「生きている・・・俺はまだ、ここにいる!起きろ!起きろレイヴン!!まだ、敵はいるぞ!俺たちはまだ、終わるわけには行かねぇぞ!!レイヴン!!」


機材を叩く、動かないレイヴンを呼び起こすために、何度も、何度でも、たたき起こそうとする。


「起きろよ、レイヴン――――――っ!!」


全力で一発入れた。

すると、操縦席が明るくなり、機材は活動を始めた。


「・・・・っ!!」


アイは居なかったが、これで動ける

操縦レバーを握り、右手に力を入れる。


ギギギという音がした、頭脳イーターは驚き、動きを止めた塊の方を見た。


「なん・・だと・・・!そんな、バカなっ!」


右手を捕えていた、触手がちぎれ始める。


「邪魔だアアアアアアアーーーーー!!」


その声と共に触手がすべて千切れる、後ろのホバーを使い、すべての触手をすべて焼き切った、落とした剣を拾った。


「なぜだ・・・なぜ、生きている・・・・っ!!」


拾い終わって立ち上がったレイヴンに頭脳イーターはそう質問する。


「なぜおまえは、生きている!!どうやって・・・取り込まれずにいたんだ!!」


「さあな、おれにもよくわからねぇよ、でも、負けられない理由ってのがあるんだよ」


「なんだと・・・・?貴様、何を」


「黙れよ雑魚、集中できないだろう」


「無駄だ、おまえでは我らの心臓は貫けない、破壊することもできん!!」


「・・・・・そうだな、だが、一つだけあれを破壊できる物がある」


「なに・・・!?」


そう言って、レイヴンは右手を後ろへと引き、腰を少し落として構える。


「そんなものがあるはずがない!、でたらめを言うんじゃあない!!」


音が最初に聞こえなくなった。

その次に周りの気配が消える、自分だけが立っているような気がしてくる。

すべてがなく、ただ一人で立っているような、自分の息遣いさえ聞こえなくなる,

すべての感覚が消えていく、ただあるのは自分という断固たる意識のみが自分だと分かるだけだった。


「暗忌源流型、最終奥義、・・・・闇に咲け・・・・」


地面と平行にコアとは垂直にただ、剣を突いた、カーンという音が静かな空間に響くだけだった。

静かにレイヴンは剣を引いた、そこに傷はない


「フ、フフ、ふはははははははははははははは――――――――っ!!何をしようと無駄だ、それに傷一つつける物か!!あーはっはははははははははは――――――っ!!」


「・・・・・」


剣を振り払い背を向ける、そのまま出て行こうとする。


「おい!壊さなくていいのか?まだ我らは死んでいないぞ?フハハハハハーーーーー・・・・・・あ?」


異変はすぐに起こった、頭脳イーターの身体が形を失って行く


「なっ!!なぜだ!!なぜ・・・・体が・・・・おまえ!・・・なにをした・・・・・!!」


「闇桜、殺しにとって求められてきたのは、傷をどれだけ残さないか、暗忌術は暗殺の原型、つまりすべてが未完成の技と言われてもしょうがない、でも、この技は絶対に完成しない、すべての感覚を遮断して、完全な無の領域を超えなければならない、これをやって平然と立っていられるのは・・・・じいちゃんぐらいだよ・・・・」


そう言ってレイヴンはその場に崩れ落ちた。

地響きのように艦のすべてが揺れる、それと同時にピシッとひびが入る


「そんな・・・・人間に我らの命が破壊されるだと・・・どこにも・・・傷はないのに・・・・」


頭脳イーターはそう言ってその姿はとうとう消え去った。

最後のチカラを振り絞って、コアの方を向く、もう、体は動かなかった。

壁に背を預け、巨大なコアが崩れていくのを眺めていた。


「・・・・・・・もう、つかれた・・・・なぁ、レイヴン・・・・お前ももう限界だろう?・・・・・みんな、大丈夫かな・・・・」


驚異的な集中力を必要とする技、ただ聞いてみただけのものだったがうまくいってよかったと思う、正直、賭けだった。

だが、最後の一撃にはふさわしい技だろう、レイヴンも至る所にダメージの警告が出ている、アイもいない、レイヴンと二人きり、時期に消えていく戦艦の中で休息を取った。


「お疲れ様、レイヴン、もう、寝ていいぜ、俺も・・・少し寝るよ・・・・」


貴彦はそう呟いて、目を閉じた。


ニュースが入った、空を覆っていた化け物が消えていくと世界は救われたと大喜びした。

華純たちは空を見上げていた、徐々に形を失っていく戦艦イーターを見て大喜びをした、だが、彼は帰ってこない、それに不安が募っていた。

その時。


「あ!・・・あれ!!」


「・・・・あれは・・・・!」


「レイヴンだ!!でも・・・なんか・・・・」


「おい・・・ヤバくねぇか?」


空から落ちてくる物体を発見した。

双眼鏡でそれを確認するとレイヴンだと分かった、だが、何の反応も示さず、ただ落ちるのみだった。


「全員、レイヴンの救出を!!いそげ!!」


崖元の一声で全員が、海上の方へと走っていく、華純はレイヴンと通信を取ってみる


「貴彦?貴彦!!返事して!!貴彦!!」


返事はない、華純はその場に崩れ落ちた。


「マ・・・・マス・・・・・マスター!・・・っ!!マスター?」


ようやくレイヴンに帰ってこれたアイが見たのは操縦席で眠っている貴彦だった。

レイヴンの状態を見て自分がいない間に壮絶な何かがあったのだと思った、その時。


「クエ――――――!」


「・・・・っ!!あなたは無事なんですね!!お願いします、手を貸してください!!」


レイヴンの背に着けた飛行ユニットが声を上げる、アイは協力するように信号を送る、すると、鳥は羽を広げる、アイはホバーを噴射し、少しでも落下を和らげようとする、だが、レイヴンの身体の方が持たないようで左足と右手が吹っ飛んだ。


「お願いです、レイヴン!!マスターを、貴彦様を守ってください!!」


体制が悪いのか、勢いは変わらない、このまま落ちればレイヴンもろとも貴彦も死んでしまうと思った、その時、ギギギときしむ音を立てながら、レイヴンが大勢を変えた。


「え・・・!」


勢いは少しずつ、抑えられる、海の上に右足がつくが、バランスが取れず、左に倒れ、海に斜めに倒れる、辛うじて左手で支えになり何とか水没は免れた。


「しょーねーん!!!」


「貴彦!!」


海上部隊の船に乗り、隊員たちが来た、ぷしゅーという音を立てて、操縦室の扉が開かれた。


「少年!!」


「貴彦!?ねぇ!!」


華純は一番に操縦室に入り貴彦の無事を確かめる、意識を失っているせいでぐったりとしている貴彦を抱き上げる


「息はしているな・・・担架急げ!!」


「起きてよ!貴彦!」


酒井の指示で担架がつく、貴彦はそれに乗せられ、医務室へと運ばれていった。


「これは・・・」


「いったいどんな戦いをしたら、こうなるんだよ・・・・」


「ああ・・・死んでてもおかしくなかったぞ・・・」


「・・・・よかった・・・・よかったよぉ・・・・」


、回収されたレイヴンの惨状を見て、整備班は唖然とした。

小鳥は彼が生きていてよかったと泣きながら喜んだのだった。


こうして、七日にも及ぶ戦いは幕を下ろした。

彼が目を覚ましたのはこの戦いから一か月後の事だった。




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