第16話 負傷戦士

ふと目を覚ます。

そこはきれいな草原が広がる見知らぬ場所だった。


「・・・・ここは?」


夢なのか、現実なのか、分からない、すると、背中に何かがぶつかる


「うわっ!!な、なに!?」


背中にぶつかった者はそのまま、貴彦に抱きすがる、右腕を上げその隙間から、その姿をとらえる

見慣れた軍服に黒髪の少女、間違いない華純だ。


「華純?おまえ・・・どうしてここに?」


「・・・・・」


彼女は何も答えなかった。


「おい・・・戦いはどうなった?俺は今、何をしている?」


そう質問した。


「もう、いいの」


ようやく答えた、聞きなれた彼女の声だった。


「もう、いいの戦わなくて」


「え・・・・だって、まだ・・・・」


「もう、終わったの」


「え・・・・?終わったって・・・・」


嫌な何かがよぎった、彼女がおそらく来たであろう方に目を向ける。


「・―――――っ!・・・そんな・・・・」


そこに広がっていたのは、赤い川だった、その中に見覚えのある人たちがうつろな目で水の中で浮いている、もっと奥にある、街は煙が上がり、高かったビルは真っ二つに折れて、民家は半壊していた。


「もう・・・・終わったんだよ・・・・」


「そんな・・・・・嘘だ・・・華純っ!」


ずっと顔を隠していた、彼女の顔が見えた。

だが、そこに彼女の面影はなく、死者のそれだった。


「もう・・・・終わるの・・・・・」


「あ・・・・・あ・・・・・ああああああああああああああああああああああああああ――――――っ!!」


目を覚ました。

そこは穏やかな光の入る場所だった。


「ハァー!!ハァー・・・・・ハァー・・・・」


悪夢だった。

現実ではない、夢の者、だが、生きは荒く、体は動かない

唯一動く首と目を使い、あたりを見渡すと自分の挟むように右には小鳥、左側の壁に華純が座って寝ていた。


「・・・・・・・・生き、てる・・・・?」


どうやら、自分はまだこの世界で死んでいないようだった。

がらりと音が鳴り、そちらを向くと指令が顔を出していた。


「おや、起きていたか」


「竜崎、さん・・・・おれ・・・・」


寝ているのは失礼かと思い、起き上がろうとするも、竜崎に止められる


「ああ、安静にしてなさい・・・生きていることが奇跡みたいなものだったんだから・・・」


「・・・・一体、なにが・・・・」


「覚えてないのかい?」


「すみません・・・」


なぜ自分がここにいるのか、いまいち記憶があいまいだった。

包帯だらけのこの状態も不思議だと思っている。


「ああ、ひし形のあいつに踏みつぶされそうになっただろう」


「・・・・・・はい」


かすかに覚えている、敵の行動

上に上がったと思ったら、下へと自分目掛けて落ちてきた事までは、なんとなくだが思えている


「ギリギリ、アイがレイヴンの左腕で君を庇ったんだ、軌道がちょっと変わったのと君の回避行動も相まってつぶれることはギリギリなかった、それでも重症たが・・・」


「そう、ですか・・・・」


「華純も小鳥も、君を心配して、看病の手伝いをしていてね、今は、寝かしといてあげて」


「はい」


右腕と左足は包帯でぐるぐる巻き、左手右足は包帯が少ない物のガーゼだらけ、頭にも包帯が巻かれて、左半分はガーゼで埋まってしまっている。

身体の節々が痛むのも合わせてどれだけの被害だったか、一目瞭然だった。


「アイは?」


「私のパソコンの方で休ませている」


「イーターは?本体はどこに!?」


この質問には竜崎は首を横に振った。


「まだ、見つかっていない、姿を隠しているのか、まだ表れていないのか、分からないが、それらしいものは発見されていない・・・」


「そう・・・・ですか・・・・」


「今は、休みたまえ、君の身体の方が心配だ・・・」


「レイヴンは・・・」


「修復は難しいそうだ、どうするかは、考え中だそうだ」


「・・・・・すみません、俺が未熟なばかりに・・・・こんな・・・・」


悔しかった、もっといい方法があっただろうに、それができなかった。

レイヴンは壊して、アイにまで迷惑をかけてしまった、もっと自分が強ければと悔いた、が、竜崎は傷に触らないように貴彦の頭を撫でてやる。


「いいや、君は未熟ではないよ、もう立派な戦士だ、君の勇敢さは称えられるものだ、もう、きみは十分強いよ、私ではあんな敵を見た瞬間逃げてるよ」


「えー」


竜崎は貴彦を元気づけようとして茶化して見せた。

思わず疑念の声を出したが、思わず笑ってしまう


「お、やっと笑った」


「え?」


「ここに来てから、笑ってくれなかったから」


「・・・・すみません」


「ああ、謝らないで、いい事だよ、もう、ここは君の家と変わらない」


竜崎は優しく頭を撫でてから、部屋を出て行った。

見送ってから扉から窓の方へと目を向けたとき、小鳥と目があった。


「お・・・きて・・・・たの?」


「さっき、起きたの」


恥ずかしい場面を見られたと思ったが、何も見ていないようだった。


「ごめんね」


「え?・・・・なんで?」


小鳥が急に謝ったので聞き返した、いつも明るい彼女はその目を伏せて俯いて答える。


「私がもっと・・・ちゃんとレイヴンを・・・・」


「こ、小鳥は謝ることないって!!悪いのは俺だし・・・!俺が、ちゃんと・・・」


「ぷっ・・・・」


「っ!」


「華純ちゃん!起きてたの!?」


二人のやり取りを聞いていたのか、寝ていたはずの華純が起きていたことに驚いた。

小鳥の質問に答えるわけでもなく、そのまま腹を抱えて笑っていた。


「あー、フフフっ、あんた達、面白すぎ・・・・!!」


「もー!!」


「・・・・」


「ごめん、ごめん・・・・クク・・・・あー、元気そうね貴彦、生きててうれしいわ」


「ああ・・・俺もだよ、お前らに会えてうれしいよ」


「どこまで聞いた?」


「敵の本体がまだ見つかってないって、レイヴンも直すのが難しいほど壊れてるって・・・・」


「そう、そこまで聞いたのならいいわ、どこにいるのかは分からないけど、どうするの?あんた、本体のイーターを倒す気あるの?」


「・・・・・」


華純の質問に少し考える。

姿も形もわからない、だが、おそらくやることは変わらない、きっとコアがある、ないのなら切刻むまでだと考えた、だが、立てるのだろうか、自分に自答する。


「分からない」


「・・・・・は?」


「華純ちゃん、貴彦君はっ!」


貴彦の答えに華純は眉をゆがめて苛立ちの声を出した、それに小鳥が止めようとした、が、貴彦はさえぎった。


「でも、立つよ、どんな奴なのかは分からないけど、怖いって言えば怖いけど、でも立つよ、滅ぼして見せるよ、どんな敵だろうと立ちはだかって見せるよ」


「・・・・・貴彦君」


「そう、それが聞けてよかったわ」


「悪いな、心配かけて、今は、こんな姿だし説得力がないかもしれないけど、やるよ」


「・・・・・」


華純は何も言わず部屋を出て行った。

小鳥は、複雑な表情をした。


「小鳥…?」


その異変に気づき、声をかける


「私は・・・・なんか、二人だけ強いみたい・・・」


「え・・?」


「私じゃあ、二人を守れない・・・私だけ・・・・」


戦うわけでもない、ただ、みんなが使う道具を整備するだけの自分が置いて行かれている気がしたのだ、だが、貴彦はそれを否定する


「そんなことないよ、小鳥がいてくれるから、安心して戦えるんだよ、小鳥が整備した、武器があるから戦える、小鳥にならレイヴンを任せられるんだよ」


「・・・私は、何をしたらいい?どうしたらいい?」


小鳥は自分にできる事はないかと聞く、すると貴彦は少し考えてこう言った。


「なら、一つ、レイヴンの修理のついででいいんだけど、足回りを強化してほしい、それから、武器も・・・・」


貴彦のお願いを聞き逃さないようにメモしながらこうした方がいいかとか、意見を出し合った。

管制室、から指令に連絡が入った


「指令、ワールド・イーターを発見しました!!」


「なに!?どこだ!」


「宇宙です!!地上に向けて降りてきています!!」


「なん・・・だと・・・・!?地上に到着まではどのくらいだ!」


「およそ、一週間後です!!」


「・・・・・・政府に連絡!各組織にも通達しろ!!レイヴン修復までには時間がかかる、それまでの時間稼ぎができるように武器をかき集めさせろ!!」


竜崎はそう指示をした。


男は笑う、美しい青い星を見ながら、その中で生きる人間たちをあざ笑う


「神様は一週間で世界を作った、なら、世界をこの宇宙を滅ぼすのに一週間はかかるらしい、クっクック!まぁ、別にいいがな、さぁ、破滅の七日間を始めよう!」


星を見下げる男は笑う、巨大な使徒を従えて、破滅に嘆く人の声を楽しみにしながら、ただ笑っていた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る