第13話 レポート
『ワールド・イーターに関するレポート』
『これは、私の友人が行方不明になってから二週間後に観測された生物に関する記述である。
私の友人、神楽正紀は、宇宙観測部にて星の観測を行っていた、夏休みの合宿でみんなと星を観測しに行った帰りに行方不明になった。
警察にも操作を頼んだものの発見されたのは、当日彼が持っていたカバンと観測に必要な物だけだった、そして、昨日、私は不可思議な星を観測した。
その星は、不規則に動き、何かを観察するように、動き回っている、よく見るとそれは目にも見える、私の知るどんなものより奇妙だ、このまま観測を続けよう』
『星の観測を続けて、もう十何年立つ、私は人としての人生を送ってきた。星には何の変化もなかった、それよりも家庭の問題が起き、それどころではなくなってしまったのでここ二か月ほどはきちんといた観測はできていない』
『何という事だ、私の見間違いではない、奇妙な星はほかにもあった。
確認できるだけで四つ、これは、何かの前触れだろうか・・・。
四つの星を発見した二日後の事だ、正直、今も頭は追いついていない』
『なんと、行方不明になっていた、神楽正紀は生きていた。
彼が言うにはあの星たちは、この世界を滅ぼそうとしているらしい
忠告のつもりだったのだろうか、それは定かではない
もし、これが本当なら、この世界は彼らに食われ消滅する、そうなれば今生きている、すべてが失われる、貴彦も、あの子の未来も・・・』
『政府があの星を観測していたと、何者かから、連絡が来た。
だが、そんなことはどうでもいい、かの捕喰種たちに対抗するための物を用意しなければならない、ココ最近体調が悪い、どうにも変だ。』
『政府との交渉が決まった。それと同時に私は絶望した。
私の中にこの世界の物ではない虫が入り込んでいた、取出しには成功したが、蝕まれた体はもう、治らない。
あの虫を解析して、対抗兵器に役立てよう、私にできる事はあれを完成させることだ』
『レイヴン、ああ・・・完成した。
あの虫から解析できた、謎の技術も応用した。
ワタシは、悪魔だろうか、これを制作している途中で女子が迷い込んでいた、私は彼女に生きるすべを教えたつもりだったのに、あの子は戦う術を身に着けてしまった。
きっと、彼女がレイヴンに乗るのだろう・・・』
『最後の時だ。
観測した四つの星は私の予想をはるかに超え、もしかしたら予測時刻より早めに彼らはこの世界を喰い始めるであろう、もしかしたら、四つだけでは済まないかもしれない。今のままでは華純がレイヴンを扱える日はもっと後になってしまう、これでは、人類をこの世界を守ることはできない、こんな時に貴彦の事を思い出してしまう、私はあの子をこの戦いに巻き込むつもりか?
それでは、私が今までやってきたことがすべて無意味になる、それにもう彼は私の事を覚えてはいないだろう、あの人が覚えておかせるはずもない、貴彦・・・、ああ、私の愛しい息子、最後まで母親になれなくてごめんなさい、貴方のためと言いつつ私はこの研究に逃げていたのだ、私の命はもうじき尽きる。』
『この想いがあの子に届くのなら、どうか、愛していたと悲しい思いをさせてすまなかったと伝えてほしい、貴彦、愛してる、どうか、君を生んだことに後悔はしていていない、きっと私にはもったいない息子に成長しているのだろう、最後に君の顔を見たかった。』
レポートと言いつつ日記と化しているそのノートは、間違いなく母の字で、俺が知らない母の日々が書きつづられていた。
「母さん・・・・」
母は観測できた星にもほかにあるかもしれないと危惧していた。
その予想は当たっていた、そして、母が死んだ原因はレイヴンを生んだ技術、奴らと同じ生き物によって殺された、おそらく仕組んだのは、神楽正紀だ
あの男が母に虫を入れたんだ、その事実を知って、奴に怒りを抱くのだろうが、なぜだか何も浮かんでこない、何より母は、彼女は俺の事を忘れていないでくれていた。
愛しているとも言ってくれた。
父はずっと母の悪口ばかりを言ってた、母が俺を生んで後悔してるとも、だが、これでその言葉が戯言だったと証明できたことの方が何よりうれしかった。
覚えていない母の顔が今ならはっきりわかるような気がした。
想い出した、あの時見つけた絵は、俺が幼いころに書いた落書きだ、こどものただの夢物語を描いただけの俺の想像物だ、あれに乗ってヒーローになりたいとでも言ったのだろう
母さんはレイヴンのデザインをあれにしたのは、心のどこかで俺の事を思っていてくれていたからだろうか、いや、無意識だったかもしれない、ここに俺を呼んだのは間違いなく母だ
巻き込みたくないと思っていたが奴らが早く来てしまうという事が確信に変わったとき、あの手紙を出したのだろう、そして、俺はここに来た。
神楽正紀、あの男は攫われてから何があったのだろうか、その点に関しては母もわからなかったようで一切記述されていなかった。
だが、ヤツの目はもはや生きているという目ではない、あれはもう、気が違い、死んだ方がましだと思っている、奴には一切のためらいもなくあの恐ろしい化け物どもを動かすはずだ、
ならば、こちらも覚悟を決め、一切のためらいなくすべて破壊するのみである
「躊躇うな、敵はこちらを殺しに来るのだから、殺意には殺意をだ・・・」
祖父の教えを口に出していた時、部屋の通信機が鳴った。
「はい、」
「貴彦!!指令が!!指令が倒れたって!!」
「・・・・・はぁ!?」
小鳥が慌てた様子でそう言った。
急いで、医務室に行くと頭に包帯を巻いて、頬にガーゼを張り付けられた竜崎の姿があった。
「・・・・やぁ!おはよう、貴彦君」
「・・・・いや、おはようじゃなくって、何があった!!」
何事もないようにいたっていつもの調子で竜崎は言った。
なんとなく、心配して損した気分だ
「で、ホントに何があったんですか?」
「いやぁ・・・・転んだ?」
「ウソだろう!?」
どう考えても転んでできる傷ではないのに竜崎は陽気に答えた
何故疑問文で言ったのかとか、そもそもどうやって発見されたのかだとかいろいろ聞きたかったが、母のレポートを読んだ後だったので、コレをやらかした奴に心当たりができた。
「神楽正紀か・・・」
「・・・・・」
その名前を言うと一瞬だけ、体を強張らせた。
「あたりか・・・」
「アハハハ・・・」
「奴はなにしに来たんだ?」
「無駄な抵抗はやめろって、人間にもこの世界にも価値はないだろうって・・・」
「・・・っ」
「まったく、実に哀れな男だよ」
呆れたように竜崎は言う、その表情は少し悲しさを持ってた。
「人間に価値はあるのかなんて、数百億年も前から議論されてきたというのに、答えの出ない論議ほど、意味はないのにねぇ、結局答えとして出るのは命を繋ぎ、生き継いで行くというその行為が、実に健気だと言うだけさ」
「・・・・・」
「難しいことはわからないけど、少なくとも私は、そいつの意見に同意はしないわ!」
「フフフ、華純は素直だねぇ、いいのさ、たとえ少数だろうが多数だろうが、自分の意見を持つというのは大切だ、たとえ分かり合えない物だったとしても、知ってもらうというのは大事なことさ、それを知っているか知らないかで探している答えは変わってくるのだよ」
「ふーん」
「人は集まったとしても所詮は別個体だ、完全な理解などはできないのだよ」
子供に聞かせるように竜崎は話す。
きっと、こんな事、誰も言わないんだろう、この人はほんとに何者なんだろうか
「あんた、一体、何者なんだよ・・・」
この人が分からない、母のレポートにも詳しくは乗ってなかった。
協力者とだけ、何を思ってここにいるのか、この人が一番分からない
「・・・・・」
「ちょっと・・・どうしたのよ、指令は・・・・!」
「いいんだ、華純、少し席を外しなさい」
「しかし・・・!!」
「いいから・・・・」
「・・・・・はい」
そう言って、竜崎は華純を部屋から出て行かせた。
「さて、何だっけ・・・・?」
「あんたは何者だ、なぜここにいる・・・!」
「・・・ふむ」
竜崎は少し考えるそぶりをして、口を開いた。
「私がここにいるのは、義務のようなものだ」
「はぁ?」
「何者かと、聞かれるとちょっと困るが、まぁ、政府の諜報員とでも思ってくれ、私がここにいるのは、時雨から引き継いだ意志と願いをかなえるため、そして、私の家の定めみたいなものさ」
「・・・・・さだめ・・・?」
「そう、世界の命運を見届け、時には導く、それが私の家の定めだ」
明確な答えなのか、ただ茶化されているだけなのか判断はできなかった。
が、警報はその空気を読まずして鳴り響いた。
「まさか・・・っ!!」
「・・・・・行き給え、君の覚悟を、奴らに示して来なさい」
「・・・・・竜崎さん」
「ん?」
「・・・ごめんなさい」
俺はそれだけ言って部屋を後にした。
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