第11話 確信

指令に呼ばれ、基地へと帰ってきた。

すぐにレイヴンに乗り込む、そして、現れたのは、四角い黒い物体だった。


「ずいぶん、シンプルなのが来たわね・・・」


「ああ・・・、武器は構えとけよ」


だが、警戒しているのにもかかわらず、四角い物体は、動かなかった。


「・・・・・・」


「ねぇ、何で動かないの・・・」


「俺が知るわけないだろう・・・」


「埒があかないわ、こっちから仕掛けましょう・・・・」


「いや、無闇にやらない方がいい、弱点をさらしていない以上、こちらから仕掛けるのは、危険だ・・・」


何もしてこない物体、動かないからこそ不気味だった。

だが、我慢強い者は意外に少ない事を、貴彦も華純も見落としていた。


「ちっ!あー、もう面倒くせぇ―!!やらね―なら、こっちからやってやる!」


一部隊が銃を構えて弾を撃ち放った。


「ちょっと!!」


「ばかが!」


弾はすべて四角い物体に吸収された、だが、カバッと、上の部分がズレた気がした。


「・・・・・・・」


そこをじーっと、見た、観察した。

暗闇の中に何かがうごめいている気がした。

また、がたんとフタが動いた、その瞬間、貴彦は叫んだ。


「全員、退避――――――――――っ!!」


「――っ!!」


その声と同時に、すべての舞台は見た。

まるで、びっくり箱のように札が開き、中から折り紙のように平たい黒い何かが大量に現れたのを、全員が箱から距離を取った。

レイヴンも後ろに下がった、だが、ガンっと何かにぶつかった、振り返るとあの小さな紙の蟲が壁のようなものになって壁になっていた。


「貴彦!!」


「レイヴン!!」


黒い髪の蟲はお互いをくっつけるように大きな四角い黒い壁になって、レイヴンを包んでしまった。


「うわああああああああっ!!」


「こんどはなにっ!!」


突然の叫び声が上がる、その方を見ると、地面に大量の赤い液体が地面にしみこんでいた。


「な、なんで、血が・・・俺の部隊は、みんな生きてるのに・・・なんで・・・・血が・・・」


「おい!、この銃を持っていた奴を知らないか!誰かのが、血まみれで落ちていたんだ!!」


「・・・・・・、そんな・・・・」


上がる報告の声で察した、その血がなぜそこにあるのか、なぜ、銃だけが残っているのか


「・・・・・吞まれたんだわ・・・誰かは分からないけど、何人いたかも思い出せないけど・・・・何人か・・・・喰われたんだわ・・・・」


恐ろしい事実、死んだ者がいる、その誰とも知れない血が何よりの証拠だった。

それは、まぎれもない現実で、改めて自分たちの目の前にいる化け物が、恐ろしい物なのかという残酷な理解だった。


「・・・・レイヴン」


吞まれた、彼の者もいずれ、自分の記憶から消えてしまう、

そう思うと自然に口から出た、だが、それは望んでいる人の名前ではなかった。


「・・・・・―――――っ!いやああああああああああああ!!」


覚えてる、まだ顔が浮かぶ、まだ消えていない、それでも名前を口にはできなかった。

暗闇へと消えた、彼の名前がいつか呼べなくなる、その単語の意味を忘れてしまう、その恐ろしさが華純の身体を支配していた。


誰かの声が聞こえた気がした。

ゆっくりと目を開けると、畳の上で眠っていたらしい、ふと遠くの方へ視線を動かすと背を向けて座って何かをたたんでいる女がいた。


「・・・・母さん・・・?」


光がさすと薄くだが青色に見える髪の女性、見覚えのある後姿に手を伸ばす。

まどろむ頭で母を呼ぶ、声が聞こえたのか、女性はこちらを向き、微笑む


「あ、起きたの?」


懐かしい声が耳をくすぶる、その声に安心を抱いて、もう一度目を閉じてしまいそうになった。


「母さん・・・・・・・母さんっ!?」


うつ伏せだった、体を起き上がらせる、だが、そこにはもう懐かしい女性は居なかった。


「・・・・・・」


「やぁ、少年」


「――っ!!神楽・・・・正紀・・・・っ!」


背中の方から、声が聞こえ、体ごと振り返ると金髪のサングラスをしたあの男だった。


「ほう、竜から、聞いたのか・・・まぁ、隠したって意味ないしなぁ」


「・・・・・」


驚きはしたがすぐに、警戒を強めた。

この空間は、おそらく幻覚だろう、ワールド・イーターを使って自分の脳内に干渉しているのだろう、つまり、ココは自分の夢を具現化された場所などだと思った。


「そう警戒するなよ、おまえにいい事教えてやる、お前が守っていた、軍隊数人、死んだぞ」


「―――っ!・・・・あんたは、操られているのか!?それとも・・・」


「・・・・っ!!な、なぜそれが分かった・・・」


「え・・・」


確認のため放った言葉、それを聞いた瞬間に男は表情を変えた。


「そ、そうなんだ!?体は奴らに乗っ取られてしまった・・・!!だが、まだ、反逆の意志があるとバレたら何をされるか分からない、だからこうして、君の意識の入り込んでいるんだ!?」


「・・・・」


「た、頼む、もうこんな事をしたくない!!だから、私を助けてくれぇーっ!!」


すがるように男は言う

身体は乗っ取られたが、意識だけはまだ、こうして嘆いている。

最初の予想は当たっていたのかもしれない


「どうすれば・・・この戦いは、終わらせられるんですか?あの箱野郎を倒せば終わるんですか!?」


「いいや、まだだ・・・まだ、あと、二体残っている!!」


「二体・・・」


「ああ・・・だから、気を付けるんだよ・・・・」


その時、パーンと、何かがはじける音がした。


「ぐ―――ッ!!」


左肩に痛みが走った、その衝撃で体は床に倒れこんだ


「フフフ、フハハハハハハハハハハハハ―――――っ!!」


「・・・・・いっ!!」


「バッカだなぁー!!お前よォー!!ンなわけねーだろうが―!!アッハハハハっ!!破滅は決定済みなんだよ!!お前のちっぽけな抵抗なんて、何の意味もないんだよ!!

あきらめろ!それが救いだっ!!それが唯一救われる術だ!!アハハハハハっ!!」


男はそう、あざ笑った。


「そうか・・・・大方、予想通りだな・・・」


「アー?何の話だよ」


だが、貴彦は左をかばいながら、起き上がろうとしたがうまくいかず、何とか、体を神楽の方へと向けることができた。

貴彦は神楽を睨んで、不敵に笑っていた。


「・・・・なんだよその眼は、死にたいのか!!」


そう言って、神楽は銃を向けた、だが、貴彦も神楽に向けて銃を構えた。


「っ!!おまえ!!」


「ここは、俺の意識の中らしいな・・・つまり、俺が想像すれば、同じものを取り出すことは可能だってことだよなぁー・・・・」


「このっ!!おまえ・・・俺を・・・・!!」


「ああ・・・はめたぜ・・・なるほど、敵は後二体か・・・意外といないんだな・・・・」


「何故だ!!何故、なぜ抵抗する!!なぜおまえは破滅を受け入れない!!」


神楽はそう叫んだ、その声を聞いて、初めてあの老人が言ったことを理解した。

この男は狂った上にあの化け物を救いの光のように崇めている。

何を言っても通じない、彼には本当の光は見えていない。


「なるほど・・・あんたはもう、救えない・・・・」


「はぁ、何言ってんだ、おまえ・・・・?」


「よかったよ、これで心置きなく、あんたとやり合える・・・」


「なに・・・・?」


「あんたは世界を破壊する俺の敵だ、そして、俺は世界を守るあんたの敵、はっきり分かれたわけだ、あんたの、手の込んだ自殺にみんなを付き合せたりはしないぜ」


葬るべき敵が目の前にいる、貴彦の目には何の迷いもなかった。


「お、おい・・・まさか、おまえ・・・・俺を殺すんじゃあないだろうな・・・・おまえ、ヒーローだろう!!哀れな俺を助けるんじゃあないのか!?」


「はぁ?何度も言うが、あんたはもう、救えないし、俺はヒーローじゃない、あんたを救う義理もない、それにさっき言ったじゃん、破滅こそが救いだって・・・」


「・・・・・・お前・・・・頭イってんのか?それが、どういう意味か、分かってんのか・・・・?」


「あんたに言われたくないよ・・・・」


迷いのないその眼に神楽は怯えた。

だが、その怯えがどこから湧いてくるのか、変わらなかった。

貴彦は話しながら、壁に背を預けて座っていた、銃は向けたまま、ただ、睨んでいた。


「おまえ・・・・どういう、育ち方をしたんだ?何をどう育ったら、そんな思考になるんだよ!!お前の方が俺より悪魔だぜ!!アハハハハ・・・・・・」


「別に、笑いたきゃ笑えよ、自分の思考が人とずれているって自覚してるし、ヒーローより悪役の方がかっこいいって思うことが多いもん、いまさら何言われたって、気にしないよ」


「・・・・・・なら」


「でも、あんたの事は理解できない」


はっきりとした、否定、慈悲も何も与えるつもりはないというようにはっきりと言った。


「いや、理解したくない、あんたの考えだけは、あと、いい加減俺の頭の中から出て行け――――ッ!!」


「ぐっ・・・・・・!!」


貴彦がそう叫んだ瞬間、強い風のようなものが神楽にぶつかり、弾き飛ばした。

それと同時に貴彦の意識はその場から消えた。

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