第10話 宇宙観測部

竜崎は、一つのアルバムを開いていた。

それは、まだ、貴彦たちが生まれる前の物だった。


「まさか・・・・そんな・・・生きていたのか・・・」


一つの写真には数人の学生たちと竜崎、時雨、そして、もう一人が写っていた、その男は金髪でシャツにサングラスを引っ掛けていた。


昨日の戦闘後、レイヴンの中で眠ってしまった、貴彦は外に出て、食堂へと向かった。


「おはよう、貴彦」


「お、おはよう・・・」


「あんた、どこで寝てたの?」


「レイヴンの操縦室・・・」


「似たような物ね、私も小鳥と戦車の上で寝てたわ」


たまたま空いていた席の斜め向かいに華純がいた。

名前で呼ばれたことに戸惑いながらもいつものように受け答えした。


「危ないところで、寝てたんだな・・・」


「まぁ、弾はつけてなかったから平気よ」


「小鳥は?」


「起きた時にはもう、整備の仕事に取り掛かっていたわ」


「早いんだな・・・」


「ええ、ホントに頭が上がらないわ、あの子には・・・・」


そう話していた時、思い出して、ポケットの中から、四つ折りにした紙を取り出した。


「これ、必要、なくなったな」


「一応、持ってなさい、いつ消えるとも限らないし、念のためよ」


「・・・・・あと一体・・・ホントに次で終わるのかな・・・?」


一抹の不安がよぎる、予測できたのは確かに四体、だが、もしかしたら、観測できなかった物たちがいるんじゃないかと不安になった。


「別に関係ない」


「え・・・?」


「あと何匹来ようとも、打ち殺せばいいんだから」


「やるの俺なんだけど・・・・」


「なんなら、変わってあげてもいいわよ」


「いや、変わらないしやらせない、決めたから、俺がやるって」


からかったつもりだったが真剣に答えられてしまった。


「そうね、お母さんに託されたことだもんね・・」


「・・・・・」


「ごめんなさい、今のは失言ね」


「え・・・そんなこと・・・」


そんな風に思ったから黙っていたわけではなかったのだが、華純は謝った。


「いえ、昨日の発言も、貴方に向けて言う言葉ではなかったわ、ごめんなさい」


「え・・・いや・・・・そんな・・・」


そう言って、立ち上がり、席を離れて行ってしまった。

そんなに変な顔をしたのだろうかと考えながら昼食ならぬ朝食を食べた。


食堂を出た後、小鳥のところに行って手伝いでもしようかと思った時だった。


「あ!貴彦君!!」


「ん?」


名前を呼ばれ振り返ると、三野がいた。


「三野・・・・さん?・・・くん?」


背が小さなので年下か年上か判断しにくい


「三野でいいよ、君と変わらないから」


「マジっすか・・・」


見た目からは想像できなかった。

まさか近しいとは、ちょっと見た目を変えれば女の子にも見えなくもないのだ、些か心配になる


「で、俺に何か用だったの?」


「あ!指令が呼んでいたよ!」


「なんだろう?」


「さぁ?話したいことがあるからって言ってたよ」


話したいこと、というのがなんなのか、見当もつかなかったが行ってみることにした。

指令室の戸を叩くと、どうぞと声を掛けられ、扉を開き中へと入った。


「失礼します・・・・指令、なにか・・・?」


「ああ、君に敵の事を教えた男の事でね」


一枚の写真を持って、応対用の椅子に座った。


「これを見てほしい」


「ん?」


向かいの椅子に座り、机に置かれた写真を見た


「この写真に写っている人の中に、君と接触した男はいるかね?」


「・・・・・・あ!」


その中の一人、見覚えのあるサングラスを持った男がいた。


「こいつ!・・・・こいつ?・・・・でも、この人が持ってるこれ!!」


「・・・・やはりか・・・」


「え・・・?」


竜崎は背もたれに体重をかけ、天井を仰いだ。

一呼吸をしてから、重い口を開いた。


「その男の名前は、神楽 正紀 《かぐら まさき》かつて、君のお母さん、時雨の大学時代の同級生で同じ部に入っていた男だ」


「・・・・え」


「だが、卒業をまじかに控えていたある日、その男は研究のため山に行ったきり、帰ってこなかった」


「どうして・・・・」


何故いなくなったのか、竜崎はその質問に首を横に振った。

彼もどうして、いなくなったのか知らないようだった。


「研究って、なんの研究を・・・?」


理由があって山に入った、なら、その研究とやらはなんだったのか気になった。

竜崎は話してくれた。


「神楽と時雨は、宇宙観測部という、部に入っていた、まぁ天体観測を主において、まだ発見されていない、宇宙を研究するというちょっと変わった部だったんだ。

神楽がいなくなった日は、確か、珍しい星が見える日だったらしい、時雨も行きたがっては居たんだが風邪を引いてしまってな、彼と数人の部員が行くことになった、だが、帰ってきた者たちの中に神楽はいなかったんだ・・・・。

部員たちは帰る間際まで確かにいたと言っていた、警察に頼んで探してもらったが、彼のバックが見つかっただけで遺体も何も見つからなかった、だから、皆、彼が死んでしまったと思っていたんだ・・・・君の話を聞くまでは・・・」


「・・・・・でも、本人かどうかは・・・!!」


「ああ、分からない、だから、気を付けてほしい、また君に接触してくるかもしれないから・・・」


知らなかった、母の過去、何のために彼は現れたのだろう、

そのあとは、雑談を少しした後、司令室を出た。

疑問ばかり出てくるが、答えをくれる者は、一人もいなかった。


気分転換に、基地のそばにある丘へと登りに行った

景色も美しく、一人で考えるのには最高の場所だった、ボーっと空を眺めていた時、一つの足音が聞こえた。


「――っ!!」


「おや、先客がいたのか・・・」


立っていたのは、夕日のような紅い髪の初老の男だった。


「・・・・あなたは・・・・?」


「はっはっは・・・星を見に来ただけの、ただの傍観者だよ」


不思議なその男は肩に背負っていた、双眼鏡を広げはじめた。


「星・・・?」


「ああ、ここからの眺めはいいぞ、双眼鏡があってもなくてもな」


「あの・・・珍しい星が見える日っていつですか?」


「珍しい、星?はて・・・・星に珍しい、珍しくないなどと、区別ができると思うかね?」


「・・・・っ!!」


最もだった、何十年に一度とか訪れる流星や月食などと同じような物だったら、見に行くというのは分からなくもない、だが、星ひとつのために山に登るなどとあることなのだろうか、

そもそも、広大な空にある、星すべてが珍しいと言っても過言ではないだろうか。


「おじさんは、空から何か来るって、予知できますか?」


「はて・・・何のことだい?」


「あ・・・・えーっと・・・・」


言ってはいけなかったかもしれないと思ったので、ごまかしも考えた。


「お兄さんは作家か、何かかい?」


「え・・・あ!そ、そうなんです、まだ、見習いで・・・・」


「おお、そうかい、そうかい、良ければその話、聞かせてくれないかい?」


そう言われたので、これまでの戦いを物語として語って見せた。


「って、感じなんですけど・・・どうですか・・・?」


すべて話し終えて、感想を聞いてみた。

何かのヒントになればと思った。


「ふーむ・・・・一つ設定を加えるのなら、そのワールド・イーターというものが、神楽という男を誑かして、その世界に存在を欲した、とかは、どうだね?」


「・・・・っ!どうして、誑かしったって・・・・」


男の言ったこと驚いた。

なぜそう思ったのか、逆に聞きたくなった。


「なぜ、誑かしったって、思ったんですか?」


「ふむ、敵がこの世界では存在を保って居られないのなら、他の方法で世界を喰らうしかあるまい?しかし、この世界の人間が一人いれば、自分たちの存在を固定させるための媒体を作ってくれるやもしれんだろう、まぁ、人間が操られているか、自らやっているかは、この際置いといて、適当に珍しい物が見られるとでも言って餌を垂らして、捕まえたのがその男だったとかな?」


「・・・・・操られているという事ですか?」


「さぁ?、人間というものは理解を超えたものが目の前に現れるとそれを神と崇めてしまう、精神に異常をきたして、盲目的に信仰してしまっていたら、自らやっているのと変わらないだろう?」


不思議な老人の助言、それは考え付かなかったことだった。

あの男がなぜ目の前に現れたのか、その理由は不明だが、彼の言葉には多少の諦めが見て取れた。


「なら、改心の・・・余地がまだある・・・?」


一つの希望のように見えた。

だが、老人は首を振った。


「それは、君を絶望に落とす、過ちの光だよ」


「え・・・」


「狂気に堕ちたものには、言葉など届きはしない、また、光に溺れたものは闇を見ようとしない、人間というものは実に不便な場所にいる、だが、人がいる限り未来はある。

よーく、観るのだ、君が、倒すべきものと護るべき世界ものを、でなければ、君が持っている剣は、脆く崩れてしまうよ」


「え・・・・それは・・・どういう・・・・」


そう言いかけた時、強い風が吹き抜けていった。

思わず目を閉じてしまうほどの強い風だった。


「頑張りたまえ、少年、世界の選択は、君に託された」


風邪によって舞い上がった草の中に夕日のような紅い髪の老人は消えて行った。

不思議な光景に呆然としていた時、携帯が鳴った。

表示されていたのは指令という文字、通話ボタンを押し、耳にあてる。


「貴彦君か!」


「はい・・・」


「敵が来るぞ、観測できた、最後の敵だ!」


「竜崎さん・・・」


「・・・何かね?」


「宇宙観測部は、神楽 正紀は、彼らに目を着けられていたのかもしれません・・・」


「なにっ!!では・・・」


「奴らは、餌を垂らして食いつくやつを探してたんだと思います。あくまで推測なので、確信はないですが・・・もう、神楽正紀を助けることはできないかもしれません・・・」


「・・・・・・、そう・・・か・・・」


「でも、戦わないと・・・全部、意味がなくなってしまう・・・すぐに向かいます!」


そう言って電話を切って、基地へと足を向けた。

母が予測できた、最後の一匹、もし、そいつを倒してもまだ続くかもしれない、

人には限界がある、切り捨てなければならない物も、時には存在する。

そうしないために人は集まる。

自分は大丈夫、なぜなら、自分が取りこぼしたものを代わりに受け止めてくれる人がいる、

おそらくこれらの人を仲間というのだと、今、実感できている気がした。

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