第9話 同時破壊作戦

「急げ!浸食除去室に運べ!!」


「バイタルを随時チェックしろ!!」


医務員たちの声が廊下に響く、酒井は気を失っている華純をただ見守った。

気づけなかった、彼女の後ろから迫る奴らの触手を、近くにいたのにその悔しさが彼の胸を締め付けていた。


貴彦はレイヴン内で、写真のように先ほどの戦闘の映像をコマ送りしながら、見ていた。


「マスター?何かありました?」


真剣な面持ちで、じっと画面を見る、アイのかけた声にも反応しなかった。


「マスター?・・・・貴彦様!!」


「わっ!!あ、アイ・・・・」


「何か、気になることでもあるのですか?」


「ああ・・・あいつのコアを何回か叩いたんだけど・・・すぐに修復してしまっていたんだ・・・・だから、何かあるんじゃないかと思って・・・」


そう言ってまた、コマ送りの映像に目を向ける


「・・・・私も、お手伝いします!」


奴がいつ、網を破って進行をしてくるか分からない、少ない時間で少しでも倒す手立てがほしかった。

数分後、地上部隊を含め、貴彦たちは会議室に呼ばれた、壁に埋め込まれた大きな画面を目の前に並べられた机がある部屋にみんなが集まっていた。


「これより、第三の敵の撃破のための作戦会議を始める、戦っている最中、気づいたことはないかね?」


竜崎のその質問に答えられるものはいなかった。

そんな余裕はなかったのだから、皆、華純が捕らわれたことに動揺し、思考を一切行えなくなったのだから、そんな中、一つ細い腕が上がる。


「貴彦君、何か、気づいたことがあるのかい?」


「はい、まず見てもらいたいものが」


貴彦は、画面のある方へ、みんなの前へと出た。


「まず見てもらいたい物があります、アイお願い」


そう言うと、画面に貴彦がレイヴン内で見ていた映像が流れる、彼がコアに確実な一撃を与えているのに、傷はすぐに治ってしまっている。


「ヒビがなくなっている・・・」


「はい、撤退時、破壊を試みて何度か、叩いたんですが、その傷はすべて、治っているんです」


「なんだと!!」


「次にこれを見てください」


次に現れた画像は停止した敵の画像だった。

変わったところは何もなかった、口の奴のコアが目の前に見えている、まさに破壊のチャンスの場面だった。


「ここ、ココを見てください」


貴彦がさした場所は、隅に写っている目の左下の場所だった。


「ん?」


「これだと、分かりにくいので、拡大して画質処理したのがあります、アイ」


貴彦がさした場所が拡大され、荒く見えにくかったものが、きれいにピントの合ったものに変わった瞬間。


「あ!!」


「なんと・・・・」


「コアだ・・・・コアがありやがる!!」


全員が驚いた。今まで戦ってきた物たちはコアは一つしかなかった、だが、今回の奴は二つ持っている、異例の敵だった。


「奴らは二匹で一匹ではないんだと思います。」


「え・・・どういうことなの?」


貴彦は皆が思っていたことを否定した。


「これまでの敵、・・・・ワールド・イーターは、確かに一匹だった、今回の奴らも同じかと思ったのですが、おそらく違う、奴らは目の奴と口の奴はそれぞれ、独立した存在なんだと思います、つまり、この細い糸でつながっているだけで、二体同時に現れている、という事なんだと思うです」


「一つなのに・・・二人・・・」


「いや、それより、ワールド・イーターってなんだ?」


酒井がそう言った、レイヴンに乗る前にあった見知らぬ男が彼らをそう呼んでいた。


「実は、レイヴンに乗る前、ことりと買い物に行っていた時に居眠りをしていたんだと思っています、その時に、知らない金髪でサングラスをかけた男の人が、俺の意識の中に入り込んできたみたいでソイツが化け物の事をワールド・イーターと世界を喰らう者、破滅させるものだと言っていたんです・・・・」


「誰だ?そいつ」


「そういえば・・・名前、聞くの忘れてました・・・」


「まぁ、いい、で?どうやって奴・・・らを倒すんだ?」


起こった事が多すぎて整理ができなかったが、今はやるべきことをしなけえれば、今回は自分一人では無理だった


「奴らのコアを同時に破壊する、この方法しかないと思います。どちらかが残っていると回復されてしまう、なら、同時に破壊するしかない、俺一人では無理なので、皆さんの手を借りなければなりません」


皆の反応はおもわしくなかった、自分たちが戦闘に加わるなど考えもしなかったからだ、皆戸惑う井を見せていた。


「いいわよ」


「え・・・」


ここにいるはずのない声が聞こえた。

部屋の入口を見ると、小鳥に支えられながら立っている、華純がいた。


「華純、おまえ・・・・!!」


「私にやらせて、今の私なら、耐えられる・・・・!!」


皆がうなずかなかったのは浸食を恐れていたからだ、必然的に近づくことになる、そうなればどうなるか想像ができなかったからだ、華純はそれを受け入れられると言った。


「・・・・小鳥、用意できる?」


「え、ええ・・・少し時間をくれるなら・・・・」


「おい、お前!!華純を行かせる気か!!」


貴彦の質問に小鳥は答えた。

その意味は華純を戦場へ出すという意味も含んでいた、酒井はそれに反論した。


「じゃあ、貴方がやってくれますか!?みんなが怖がっている理由はわかります、俺だって頼みたくないです!でも、誰かがもう一方をやってくれないと、奴らを殺せない!!華純を止めるのならあなたがやってくれますか!?」


「・・・・っ!・・・・・」


危険なことは百も承知だ、本当なら自分一人でやりたい、だが、それが無理だと分かったからこそ、こうして作戦を立てているのだ、非道と言われようとなんだろうと華純の勇気に感謝していた。

酒井はもう止めようとはしなかった。


「海上の捕縛網の限界は午後七時までだ、それまでに整備班は人が使える対ワールド・イーター用の武器を、レイヴンは外で敵を見張っていてくれ」


準備が整うまで、レイヴンで待機を命じられて、沈む夕日を見ながら、敵の様子をうかがっていた。


「ありがとう」


「―――っ!!華純!?」


急に声がして、上を見るとレイヴンの肩に華純がいた。


「ありがとう、私のわがまま通してくれて」


「・・・いや、お礼を言うのは俺の方だよ、こんな無茶な作戦を引き受けてくれて・・・ありがとう・・・」


「・・・いいのよ、やれることはやりたいの」


「身体、大丈夫?休んでた方がいいんじゃあ・・・・」


「平気よ、こんなの、医療チームは優秀だから、あれくらいで支障は出ないわ」


「・・・そうか・・・・・・・・・・華純は強いな・・・」


「え?」


思わず出てしまった声に驚かられる


「あ・・・いや・・・・その・・・・あんな目にあったのに・・・怖くないのかな、なーんて・・・」


「怖いわよ」


思っていたことが否定された、でも、彼女の目はワールド・イーターから外れていない。


「華純・・・・?」


「私ね、時雨博士に救われたの・・・私の両親火事で死んじゃって、引き取られた孤児園は最悪な場所だったの、友達とそこから逃げていた時に博士・・・あなたのお母さんに助けてもらったの、レイヴンに乗りたかったのは、博士の役に立ちたかったからよ」


「・・・そう、だったんだ・・・知らなかった・・・」


華純は初めて自分自身の事を語った、いろいろあってゆっくり話す時間はなかったが、彼女にそんな過去があったとは知らなかった。


「母は・・・母さんは、どんな人だった?」


想い出したかった人、自分の知らない母を知っている、聞きたいことがうまく出てこなかった。


「うーん、優しくて、とても博学な人だったわ・・・ちょっと、ドジなところがあったけど・・・あの人の作る料理はおいしかったわ」


「・・・・・・・そうか」


聞かなければよかった、そう思ってしまった。

でも、いいなとは言えなかった、母がいなければ彼女はどうなっていたか、分からないのだから、羨むなんて、馬鹿馬鹿しいとずっと思っていたのに、そう思ってしまいそうになった。


「二人とも武器ができた、準備が整い次第、作戦を決行する」


「はい」


「了解しました」


指令からの通信がそれを断ち切ってくれた、貴彦はレイヴンのコックピットに入ろうとした。


「貴彦!!」


華純に名前を呼ばれた、すると、何かを投げられた。


「うわっ・・・・とっと・・・?」


「今は、あんたの役に立ちたいと思っているわ、それ持ってて、もし私が消えても、あんただけは忘れないでね」


何とかとれたものを開くと彼女の顔写真と名前の書かれた紙だった。


「な、なにを!縁起の悪いことを!!」


「そんなことにならないように頑張るわ、だから、私を信じて・・・・」


そう言って、華純は下に降りて行った。

貴彦は操縦席にドカリと座って、ため息を吐いた。


「マスター、レイヴンはいつでも行けます」


「・・・・・ああ、絶対に成功させるぞ」


そう言って、操縦レバーを握った。


下に降りた華純は、部隊の方へと歩いていた。


「華純ちゃん!」


「小鳥」


「これ、レイヴンに使おうと思っていていた、施策の槍を小型化して人が使えるようにした、勢いがほしかったから、バズーカに装填できるように改造したの、後ろには支えがあるから、負担はそこまでないと思うけど・・・・」


「ええ、ありがとう、頼りにするわ」


「華純ちゃん・・・・私も、行くことになってるの」


「は!?なんで・・・」


「まだ、調整が万全じゃあないの、だから、ギリギリまで私が調整することになった」


小鳥の言葉に驚いたが納得はした。


「わかったは、危ないと思ったら、逃げなさいよ」


「うん!」


レイヴンには小型のナイフ型の武器が装備された


「これは・・・・?」


「リング・ダガーって言う武器を参考に作ったの、同時なら大ぶりの剣よりは小回りの利く短剣の方がいいだろうって、小鳥が」


柄にの先にリングと呼ばれる由縁の輪っかがある短剣、この短時間に用意してくれた小鳥には頭が上がらない


「全員配置につけ!!網が切れた時点でレイヴンはコアの誘導、お互いのコアが目の前に出た時点で、破壊せよ!!」


指令から指示が出て、息をのむほどの緊張状態の中、午後七時ちょうど、捕縛用の網がイーターたちの身体を自由にした、それと同時にレイヴンは口の部分に攻撃を仕掛けたが、うまく舌で回避された、リングダガーを逆手にもってもう一回、切り返す

それを繰り返した、あと、ついにコアが目の目にでた


「いっけええええええええええええ!!」


レイヴンとは反対側にコアは出現していた。

華純はバズーカを持つと、彼女の乗っていた戦車の上に支えが伸びて安定させる


「打って!!」


「いっけえええええええええ!!」


小鳥の合図とともに発射した。

短剣を刺したコアにヒビが入っていく、行けると思った。だが、そのヒビが少しずつ塞がってきたのだ。


「なっ!!」


「そんな・・・!!」


「足りなかったんだ・・・距離と威力が・・・!!」


レイヴンが下に押し下げてくれていたから命中はしたが、人が使うに当たって限界ギリギリの威力だったために通用しなかった。

小鳥と華純はそれに絶望した、だが


「華純いいいいいいいい!!」


「――――っ!!」


貴彦の声が聞こえた。

華純は立ち上がり、槍の柄を持った、それを力の限り押し上げた。


「うおあああああああああ―――ーっ!!」


「華純ちゃん・・・・」


貴彦に信じてくれと言った。

彼は自分を信じて、任せてくれたのだ、それに答えなければ


「かっこがつかないでしょがああああああああ!!」


すると、もう二つの手が槍の柄を持ってチカラを加えた。


「小鳥!!」


「わたしだってえええええ!!」


もう一つの手は小鳥だった。

成り行きでここに来てしまった彼女だったが、逃げる気はなかった。

武器やレイヴン、部隊が使う、装備を整えてやることしかできないのをいつも悔しいと思っていた、手伝える、今、ここにいる自分がやられねばと思ったのだ。


華純たちとは反対側にいるレイヴンは治り始め、短剣を押し返そうとするコアに負けないように短剣を押し止めていた。


「ぐっ・・・・・こ、の――――っ!!」


「マスター、もう!!」


「まだだ!!華純が信じてって言った、だから、ここで引くわけにはいかない!!」


限界マジかだった、敵は触手を伸ばし、レイヴンの身体を締め付けてバランスを崩そうとしていたがそれを必死に耐えていた、それも、もう限界だった、が、その時。

ピッシッ!というヒビが入る音がした。


「押せええええええ、レイヴン!!」


「くたばれえええええええ―――ーっ!!」


パリンっとコアが割れた。

単語にならないような叫び声をあげて、イーターは塵になって消えたのだった。


「・・・・・や・・・・・った・・・・?」


目の前にいた化け物が消え、反対側にいたレイヴンの姿が見えた。

疑問は確信に変わった。


「やったああああああああああ!!」


周囲から歓声が上がった、それと同時にレイヴンは膝をついた。


「うわああああ!!」


「ちょっと!!危ないでしょ!!」


「ご、ごめん、ちょっと、レイヴンが限界なんだ・・・回収を・・・お願いして、いい?」


予想以上のダメージを負っていたようで立つのも無理な状態だったようだ。

意外と時間がたっていたようで朝日が昇っていた、帰ってきた瞬間、部隊のほぼ全員が食堂で寝ていた。

貴彦も疲労によってレイヴンの操縦室で眠ってしまったのだった。






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