第8話 救出

「それにしてもだいぶ倒したな、指示出しただけなんだけど」


 空太の冒険者証の裏面に刻まれているゴブリン討伐数は10を超えていた。しかし空太が自分の手で倒したのは1体のみで、残りは召喚した砂塵の大鷲に指示を出して倒していた。


「まあいっか。それより、俺も空から探せれたらな。ん?あの大きさなら俺でも乗れるかも。砂塵の大鷲、戻ってこい」


 空太は砂塵の大鷲に戻ってくるよう叫ぶ。するとはるか上空から急降下して空太の近くで羽ばたく。


「相変わらず速いな。砂塵の大鷲、もしかすると俺を乗せて飛ぶことってできるか?」


 空太が砂塵の大鷲に問いかけると、砂塵の大鷲は羽ばたくのをやめ地面に降り立つ。すると、どうぞと言わんばかりに地面に伏せ始めた。


「乗ってもいいのか?それじゃあ乗るよ」


 空太は恐る恐る砂塵の大鷲の背に乗り首元に手をまわし落ちないよう体を密着させる。翼があるのでまたがるというよりかはほとんど寝たような状態だが飛び立つ準備が終わる。


「よし、ゆっくり羽ばたいて飛んでくれ」


 空太の指示通り羽をゆっくりと羽ばたかせ宙に浮かぶ。徐々に地面から離れていくが、空太は気にすることなく初めての体験にワクワクしていた。


「おお、浮かんでる。地面がだんだんと遠くなっていくな。ゆっくりだけど飛ぶのってこんな感覚なんだな」


 大分遠くまで見渡せるまで上昇すると次は移動するように指示を出す。すると普段歩くくらいの速度で全身を始める。


「ゆっくりだけど進んでる。もうちょっと速く進んでみて」


 徐々に進む速度が速くなり、受ける風の抵抗も強くなる。時折横風にあおられるが砂塵の大鷲が空太を落とさないように姿勢を保つ。


「気持ちいい。飛ぶのってこんなに気持ちいいんだ。ありがとう」



 しばらく空を飛ぶことを楽しんでいた空太は本来の目的を思い出し、飛ぶのを楽しみつつゴブリンを探し始める。すると遠くの道に停車する馬車と人影、その周りを動き回る小さな緑の点が見えた。


「なんだあれ?馬車と人影はわかるけど緑の点?ゴブリンか?砂塵の大鷲、あの馬車に近づいてくれ」


 砂塵の大鷲へ指示を出し、馬車の近くへと移動する。するとそこには、助けを求めて叫ぶ一人の少女と、それをニヤニヤと笑いながら囲むゴブリンの姿があった。



「誰か助けてください」


 少女は周りに人がいないことが分かっても叫ぶしかなかった。目の前には醜く笑うゴブリンが3体、ゆっくりゆっくり近づいてくる。あと一歩というところで棍棒を振り上げる。


「ここまでなのかな。認めてもらいたかっただけなのにこんなことになるなんて。今までごめんなさい、ありがとう」


 少女は運命を受け入れて目をつむる。しかしすぐに来ると思った衝撃がなかなか来ない。すると強い風と羽の羽ばたく音、そして何かが落下する音がすぐ近くで聞こえる。「あれ?助かったの?」と思いつつ目を開けると目の前には光の粒子となっていくゴブリンが1体、空を見上げるゴブリンが2体。


「あれ?1体減ってる。誰か助けに来てくれた……の?」


 少女はゴブリンの見る方へ目をやる。するとそこには少女よりも大きな大鷲が羽ばたきながら少女を見ていた。


「え?なんでガルーダが私を見てるの?」


 そう叫ぶと少女は意識を手放した。



「馬車がゴブリンに襲われてる。とういか持ち主すでに追い詰められてるし」


 馬車の近くまで来た空太は一目見て状況を理解する。そこには馬車を背に追いつめられる少女と、それを囲む3体のゴブリンの姿があった。


「助けなきゃいけないよな、見ちゃったし。とりあえずゴブリンを1体つかめるか?」


 砂塵の大鷲へゴブリンをつかむよう指示を出す。すると1体だけゴブリンをつかみ持ち上げる。


「よし、そのまま地面にたたきつけろ」


 叩きつけられたゴブリンは光の粒子へと変わる。すると少女の叫び声がこだまする。


「ん?ガルーダ?どこに……もしかして砂塵の大鷲が?まあそれは後で聞くとして、あと2体。もう1体つかめ」


 空太が指示を出すと砂塵の大鷲がゴブリンへと近づく。地面に一番近づいたとき空太は砂塵の大鷲から飛び降り、ナイフを抜く。


「アシストなしの初めての実践か。やるしかないな」


 空太がゴブリンとの距離をつめ、ナイフをふるい、すぐに離れる。


「攻撃を受けたくないから、ヒットアンドアウェイで。痛いのは嫌だし素早さでは有利だからいけるかも。砂塵の大鷲はさっきと同じようにたたきつけて」


 空太はゴブリンの攻撃をよけつつ指示を出すとゴブリンが叩きつけられる。


「もう一発」


 そう叫びナイフをふるうとゴブリンは光の粒子へと変わる。


「何とか倒せたな。それより、大丈夫ですか?」


 ナイフをしまい少女のもとへ走っていく。そこには気絶した少女が馬車に寄りかかっていた。


「息は……しているみたいだな。気絶しているだけか。気絶した人をそのまま放置しておくにはいかないし、目が覚めるまで近くにいた方がいいかな」


 空太は目が覚めるまでそばにいることを決め、倒したゴブリンの魔石を回収し始めた。

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