第9話 街へ

「ん、ここは……。たしかゴブリンに襲われて、それからガルーダが。私生きてるの?」


 少女は目を覚ますと自分の今の状況を整理し始める。すると一人の男が近づいてくる。


「よかった、目を覚ましたんだ。いきなり意識を失ったからちょっと心配で見てたんだ。街の外だしね」


「そうだったんですね。ありがとうございます」


「それに聞きたいこともあったし」


「聞きたいこと……ですか?」


 空太は目を覚ました少女と会話を続け、落ち着いたところで本題に入る。


「うん。意識を失う前にガルーダがどうとか聞こえたから」


「ゴブリンに襲われて、それから目の前にガルーダが現れて。私もうだめなんだなって思いました。でもなんでそのことを知ってるんですか?」


「えっと、なんというか意識を失う前にみた大きな鳥がそれなら、俺はその上に乗ってたから」


「ガルーダの上にですか。失礼なんですけど人ですよね?」


「もちろん人だよ。ちょっとここにその鳥を呼んでもいいかな?」


 空太は少女からの問いに少し声を強めて答え、砂塵の大鷲を呼んでもいいか尋ねる。


「すみません、魔物に乗る人なんて聞いたことがなかったので。危害とかは加えませんよね?だったら大丈夫です」


「絶対にそれはないから。砂塵の大鷲、降りてこい」


 空太の言葉に上空から降下し、空太の横に着地した。


「ガルーダってこいつのこと?」


「はい、どこからどう見てもガルーダです。でも砂塵の大鷲って……」


「なるほど、ごめん。いきなりこいつと一緒に行ったら怖いよな。もうちょっと考えて行動しないと」


「もしかしてゴブリンに襲われていたところを助けてくれたのってあなたとガルーダですか?」


「一応はそうなるかな。ほとんど砂塵の大鷲がやったけど」


「ありがとうございました。えっと、お名前は?」


「自己紹介がまだだった。俺は相田 空太です。なりたてだけど冒険者をやってます」


「すみません、私から名乗るべきでしたね。私はカーミルです。商人見習いです。相田さん、危ないところを助けていただきありがとうございました」


「いえいえ、間に合ってよかったよ」


「すみません、相田さん。この後王都に行く予定ってありますか?」


「王都?それって城のある街のこと?そこだったら今から戻るけど」


「はい、そこです。アーレ・クラウドに城は1つしかありませんので。すみません、ここから王都までと王都から副都まで護衛していただけませんか?副都に入ったら護衛の依頼金と今回のお礼をしますので」


「大丈夫ですよ、また襲われたら大変ですしね」


「ありがとうございます。すみません、よろしくおねがいします」


 そう言うとカーミルは馬車に乗り込み、空太は再び砂塵の大鷲の背中に乗る。


「それでは行きましょうか。よろしくお願いします」


 準備が出来た空太とカーミルは王都へと歩を進める。途中何回かゴブリンと遭遇したが、その度に砂塵の大鷲がつかんで放り投げていた。


「あ。王都が見えてきました。あと少しですね」


「本当ですね。砂塵の大鷲どうしよう。カーミルさん、こいつって街の外で待機させた方がいいですよね?」


「はい。その方がいいと思います。多分なんですけど、門番から街に入るなって言われると思います」


「なるほど、砂塵の大鷲ちょっと降ろしてくれ」


 空太がそう指示するとゆっくりと地面に着地する。


「すまないが、砂塵の大鷲は街の外で待機してくれないか?」


 空太が砂塵の大鷲から飛び降り待機するよう伝えると、「グルッ」と鳴きながらゆっくりと飛び立った。


「すみません、おまたせしました。行きましょうか」


 空太とカーミルは再び王都へと進んでいく。


「おう、坊主。冒険者証を確認するぜ。今日の依頼は達成できたか?」


「はい。今日は大分順調ですよ。どうぞ」


 いつもと同じように空太は話をしながら冒険者証を見せる。


「よし、入っていいぞ。次は商人の嬢ちゃん」


 そう言われカーミルは冒険者証ではないカードを取り出し見せる。


「よし、大丈夫だ。長旅お疲れさん」



「カーミルさん、さっきのカードって、商人用のものですか?」


「はい。商人ギルドのカードです。見習いなんですけど一応作ってました」


「なるほど。すみません、冒険者証しか見たことなかったので」


「大丈夫ですよ。これからどうしますか?王都からの出発は明日になると思うのですが」


「明日の朝門の前で待ち合わせにしませんか?このあとちょっとやることがあるので」


「わかりました。それでは明日よろしくお願いします」



 カーミルと別れた空太はすぐ冒険者ギルドへと向かった。


「すみません、依頼の報告と魔石を買い取ってもらいたいのですが」


 冒険者ギルドへ着くとカウンターの前に行きマリーに話しかける。


「お疲れ様です、相田様。冒険者証と魔石をお見せください」


 空太がマリーに冒険者証を渡すと、朝と同じように奥の部屋へと入っていく。その間別の職員が魔石の数を数え始める。


「お待たせいたしました。ゴブリン討伐23体と魔石23個で合わせて4銀貨と6大銅貨です。お確かめください」


「ありがとうございます。それで朝言ってたギルド長の件なのですが」


「はい。案内しますのでついてきてください」


 空太はマリーに連れられ1つの部屋に通される。マリーがドアをノックすると、中から「どうぞ」という声が聞こえる。


「相田様どうぞお入りください」


 空太は開けられた部屋にゆっくり入ると、そこには1人の男が椅子に座って空太を見ていた。


「初めまして、君が相田君だね。私はここのギルド長をやっているフォーレンだ急に呼び出して済まない」


「初めまして。いえ、大丈夫です。それで話って何ですか?」


「ああ、昨日の夜王城の兵士が君を討伐対象にしようとしていたのでな。もちろん断ったが、そのことを今朝王様と話をしに行っていた。その結果を伝えておこうと思ってな」


「なるほど、ありがとうございます」


「で、話し合いの結果だが、変わらず街からは追い出したいみたいだった。一応国の中心だから危険分子は排除したいんだろう」


「そうなんですね。大丈夫です」


「それともう一つ、王城で相田君と一悶着あった兵士だが、あれは魔族の1人だった」


「え?魔族ですか。なんで王城に?」


「異世界から召喚された勇者を殺して反応を楽しむためらしい」


 フォーレンの言葉に空太の背筋が凍る。


「私からの話はこれだけだ。相田君から何かあるか?」


「いえ、ありません」


「そうか。今日はすまなかったな。ただギルドとしては相田君と対立だとか敵対関係になりたくない。冒険者ギルドは冒険者が何か問題を起こさない限り力になる。向こうが理不尽に攻めてくるなら、冒険者を募ってそれを討伐する。それを伝えたかっただけだ。今日はお疲れ様」


「ありがとうございました」



 空太はギルド長との話を終え宿屋へと歩いていく。そしてそのまま部屋へと入り、ベッドに横になった。

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