第4話 戦闘

「おう、坊主。街の外になんか用か?」


 空太が街の門へと近づき、通ろうとすると、門番らしき人が話しかけてくる。


「はい、薬草採取の依頼を受けたので、街の外へ出たいのですが」


「冒険者だったか。すまんな、とてもそういう風に見えなかったもんで。冒険者証を拝見するから出してくれないか」


 空太は門番に言われた通り冒険者証を取り出し見せる。


「ありがとう、もういいぞ。一応街へ出入りする人には全員見せてもらっているんだ」


「なるほど、お疲れ様です。ちなみに冒険者証がないと街へは入れないのですか?」


「いや、通行料を払えば一時的に入ることができる。三日ほどしか滞在できないから、街へ入った後に冒険者証を取得するのを勧めているがな」


「ありがとうございます」


 冒険者証を戻し街の外へと足を進める。


「すごい、見渡す限り草原だ。元いた世界だと町と町の境目なんてわからなかったのに」


目の前に広がるのは一面の草原だった。門からまっすぐに一本の舗装されていない土の道が通っているが、道の続く先を見ても町の影は全く見えない。


「感心してる場合じゃないな。薬草を探さないと」


 依頼のことを思い出し薬草を探し始める。


「見つからないな。街の外に生えているって言ってたけど、どういうところに生えるとかは言ってなかったからなぁ。地道に探すか」


 しばらく歩いていると、ふと水の流れる音が聞こえてきた。


「ん?近くに川があるのか。水辺に生えていてくれないかな」


 淡い期待を抱き川へと近づいていく。


「おお、ちょっと生えてるじゃん。1、2……、5本か。ちょうど依頼の本数だな」


 空太が薬草の採取に取り掛かる。その背後で静かに動く影が2つ、少しずつ空太へと近づいていく。


「わう、ぐるるるる」


 影の存在に気づいた火炎の子犬が威嚇を始める。


「どうしたんだ?急に吠えて。 ってなんだこいつら」


 空太が火炎の子犬の方を見る。すると棍棒を持った子供くらいの大きさをした緑色の生き物が近づいてくるのが見えた。


「明らかに人じゃないよな。でも一応『解析』」


 人ではないと確信しつつも解析を使用し緑色の生物の片方のステータスを見る。



ゴブリン

Lv.3

HP:38/38

MP:6/6

攻撃力:26

防御力:10

素早さ:7

スキル:振り回し



「やっぱり人外、しかもゲームでよく見るゴブリンか。攻撃力は高いけどそれ以外はそうでもないな。スキルの振り回しはあの棍棒での攻撃かな」


 空太はゴブリンのステータスを確認しどのように戦うかを考える。しかしこの世界にきてから戦闘の特訓は行ってきたが、実際戦ったことはないため少し体が震える。


「初めての戦闘、やっぱり怖いな。ステータスでは互角以上なんだけど」


 戦い方が思いつかない空太の前へゴブリンが近づく。あと3メートルほどと迫ったところで空太とゴブリンの間に火炎の子犬が割り込む。


「そうだ。マジックタクティクスのカードが呼び出せるんだったら、同じように戦えるかもしれない。マジックタクティクスはターン制カードゲームだから固有のスキルと通常攻撃を1回ずつ使用して戦う。何とかなるかもしれない。まずは火炎の子犬に『解析』」


 戦闘時の火炎の子犬のステータスを確認するため解析をかける。


「火炎の子犬のスキルは火球Lv.1が1つ。敵1体に30から40のダメージを与えるスキルだったな。火炎の子犬、火球を繰り出せ」


「わう」


 空太の指示に従い、火炎の子犬の口に小さな火の玉が現れる。火の玉は徐々に大きくなっていき口と同じくらいの大きさとなるとゴブリンの方へと飛ばされる。


「グギャッ!」


 火の玉はゴブリンの片割れに直撃する。直撃したゴブリンは叫び声をあげ倒れこみ地面をのたうち回る。やがて動きが鈍くなっていきピクリとも動かなくなり体が光の粒子と小さな石に分解される。


「まずは1体倒したのか? 火炎の子犬、続けてゴブリンに攻撃」


 空太は火球の直撃したゴブリンの行く末に疑問を持ちつつ火炎の子犬に指示を出す。


「グッ!」


 ゴブリンは顔を歪めつつも持っている棍棒を振り上げ火炎の子犬へと殴り掛かる。火炎の子犬は吹っ飛ばされるが倒れることはなかった。


 空太は戦闘を続ける2体のステータスを見る。


火炎の子犬

コスト:6

Lv.1

HP:54/80

攻撃力:35

スキル:①火球Lv.1



ゴブリン

Lv.3

HP:13/38

MP:6/6

攻撃力:26

防御力:10

素早さ:7

スキル:振り回し



「なるほど、ライオリックさんの行ってた通り、防御力はダメージを確実に減らしてくれるんだな。火炎の子犬は防御力の概念がないからゴブリンの攻撃が直接ダメージになる。けれどゴブリンは火炎の子犬の攻撃を防御力の分だけ減らしている」


 火炎の子犬は空太の指示を待つ。


「マジックタクティクスだとスキルを使用しなければ通常攻撃は繰り出せなかった。実際の戦闘はどうなんだろう。スキルなしで攻撃を指示してみるか。火炎の子犬、ゴブリンに攻撃」


 マジックタクティクスだと戦闘時カードの固有スキルを発動してから直接攻撃に入る。この場合、ゲームだと火炎の子犬は必ず火球を使用しなければならない。しかし、


「わう!」


 火炎の子犬はゴブリンへと直接攻撃を繰り出す。


「なるほど、スキルは自由に使用できるんだな。ゲームと違いある程度は自由なんだな」


 空太が考えをまとめる中、攻撃を受けたゴブリンは1体目と同じように光の粒子と小さな石に分解される。


「終わった。勝ったってことでいいんだよな?やったぁ、ありがとう火炎の子犬」


 空太は初めての戦闘を終え喜びながら火炎の子犬の頭をなでる。


「でもゴブリンから出てきたこの石は何だろう。物に対して解析って使えるのかな。『解析』」


 空太は石に向かって解析を行う。しかし空太の目の前には何も表示されない。


「物に対しては使えないんだな。とりあえず持って帰ってギルドの人に聞くか」


 空太はゴブリンの残した2つの小さな石を拾いながらつぶやく。


「とりあえず薬草も採取できたし、今日はもう戻るか。まだ宿屋にも行ってないし、帰って泊まるところの確保が先決だ」



 通ってきた道を引き返すとだんだん街の影が大きくなっていく。街の門へと近づくと再び


「おう坊主、薬草は採取できたか? 冒険者証を出してくれ」


「はい、依頼の本数は採取できました」


 空太は冒険者証を出し街の中へと入る。


「とりあえず冒険者ギルドが先かな?依頼の報告と石が何か気になるし」


 


「相田様、お疲れ様です。依頼の報告でしょうか?」


「はい。薬草を5本採取してきました。確認お願いします」


「はい。かしこまりました」


 空太はマリーに薬草を手渡す。マリーが確認をしている間ギルド内を見渡すと、ギルド内は出発前と変わらない活気であふれていた。


「お待たせいたしました。薬草の採取ですが無事達成となりました。こちらが達成報酬の銅貨5枚と大銅貨1枚になります」


「ありがとうございます。ところで1つ聞きたいことがあるんですけどいいですか?」


「はい?なんでしょうか」


 空太は渡された貨幣をしまい、ゴブリンから入手した石を取り出しカウンターの上に置く。


「この石なんですけど。ゴブリンとの戦闘の後入手したのですが、何なのか分からなくて教えてもらえませんか?」


「はい、これは魔石です。魔物の核となる石で、魔物を倒すと石としてドロップします」


「ありがとうございます。魔石って何かに使ったりするんですか?」


「魔石は種類にもよるのですが、武器や防具の材料にしたり、魔道具にも使われたりしてます。特に強度を上げる魔石は武器職人の間ではよく取引されています」


「ありがとうございます。ちなみに魔物によって取れる魔石って変わるんですか?」


「はい。高い防御力を誇る魔物からは強度を上げやすい魔石が、魔法を多用する魔物からは魔力を帯びた魔石が得られます。強い魔物からはより質の高い魔石を得ることができます、その分危険が伴うのですが」


「ありがとうございます。なるほど、素材になるんですね」


「ギルドでも買い取っているのですがどうしますか?魔石が小さいので高くはならないんですけど」


「お願いします。どこで買い取ってもらえるかもわかってないんで是非」


「わかりました。魔石2つで大銅貨2枚になりますがよろしいですか?」


「はい、お願いします」


 空太は魔石と引き換えに大銅貨2枚を受け取る。


「今日はありがとうございました」


「こちらこそありがとうございました」




「さて、依頼も報告したし次は宿屋だな」


 地図を開き位置を確認しながら宿屋へと足を進める。


「この路地を入ってっと。ここだな」


「いらっしゃい、泊かい?」


 宿屋の中へ入ると中にいた女将に声をかけられる。


「はい、すみません。ここって1泊いくらになりますか?」


「1泊4大銅貨だよ。ご飯はついてるから安心しな」


「4大銅貨か……今日の稼ぎよりも高い。でも泊まる所ここしか知らないし」


「どうする?」


「うーん。2泊お願いします」


「あいよ、ここに名前を書いとくれ。部屋の鍵をとってくるからちょっとまっといてくれ」


「わかりました」


 空太は言われた場所に名前を書く。名前を書き終わり宿屋の中を見渡していると


「部屋は階段を上がってすぐの部屋だよ。ご飯の準備はもうできてるから、いつでも好きな時間に食べに来な」


「ありがとうございます」


 鍵を受け取り部屋へと歩いていく。部屋へ入ると真っ先にベットへ横になった。


「今日はいろんなことがあったな。まさかお城から追い出されるとは思ってなかったけど、お前を召喚して後悔なんてないしむしろワクワクしてる」


 そういい火炎の子犬をなでる。


「それに初めての戦闘も間に入ってくれて嬉しかった。ありがとう」


 空太の目に少し涙が浮かぶ。


「そろそろ召喚してから1日がたつな。魔法の説明だと召喚したカードは1日たつと消滅するらしい。消滅するけどこれが最後の召喚じゃないよな」


 火炎の子犬をなでていた手が少し止まる。なでられることに体を任せていた火炎の子犬は突然なでるのが止まったため空太を見上げ悲しそうな声でなく。


「1度召喚したカードは召喚出来なくなるなんて書いてなかったし大丈夫だよな」


 そう言い空太は火炎の子犬を抱きかかえた。

 それから数分後、空太の腕の中で火炎の子犬は光の粒子となり消えていった。

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