十二個目*タイムカプセルも土になっちまうわ!!*
「そんな……フクメさ……
現在迷子センターテント内にいる俺たちに、フクメ――いや、
まぁ、無理もないだろう……学校からも、彼氏からも、そして世界からも棄てられてしまった人生だったのだ。聞いていたコッチからしてみれば、掛けてやれる言葉が全く見当たらない。
「これが、アタシが思い出したこと……つまり過去だよ。ゴメンね、変な空気にしちゃったよね……」
俯きながら呟いた天童は肩まで深く落としていたが、大きな悲しみを背負っているようにしか視えなかった。
目の前には、今現在老人となってしまった神埼透が、
そうなると幽霊となった者は、どうやら歳をとらないようだ。本来ならば同い年のはずなのに、心だけでなく年齢まで離れてしまうとは。現実世界の残酷さは、幽霊の立場でも同じのようだ。
元気を無くした天童を、カナは何とか取り戻してほしいと、励ましの言葉を送り続けていた。が、いっこうに顔は上がらない。むしろ後頭部に着けている鬼のお面が、上の空を向いたままだった。
俺は悩んだ。果たして、幽霊となってしまった天童彩にとっての、一番の幸せは何なのかと。
神埼透と会話をさせることなのだろうか?
だが、話を聞いた限りでは、天童は浮気されている側。望ましい再会だとは、到底思えない。
ならば神社に訪れて成仏をしてもらうことか?
しかしそれは水嶋啓介の二の舞で、魂すら消されて天国に逝けなくなる。コイツの存在自体が、跡形もなく……。
じゃあ、四十四個のコトダマを、地道に集めるしかないのか?
でもアホで怖さを感じられないコイツに取り憑かれた俺としては、マジで驚けず解放してやれないのだが……。
――どうすれば……?
「……なぁ水嶋」
「はい?」
「ちょっと、トイレ行ってくるわ……」
「わかった。じゃあここにいるね」
悩みに悩んでいた俺はそのまま水嶋の隣から離れ、カナと天童ごとテントから去る。
すぐそばにあった建物の物影に入り、まずは辺りに誰かいないかを確認する。もちろん御手洗いなど本当の理由ではない。
「や、やなぎさん? トイレは、この辺りにはないのでは……」
「あぁ。公衆トイレなんて、行く気ねぇしな……」
「えッ!? じ、じゃあ!」
しかし驚き声を上げられた俺は不審ながら振り返ってみると、カナが顔を真っ赤にしながら、今度は両手で顔を隠していた。
……え? ま、まさかお前……。
「ひ、ヒャなぎさん! こ、こォんなところで用を足しては……」
「……違う違う! 誰がこんなとこでするかぁ!!」
カナは完全に勘違いをしていた。俺がこの場で御手洗いを済ませるという愚考を膨らませていたため、一気に槍で破裂させてやった。
本当にとんだ勘違いを招くアホ霊だ。俺も作者も下ネタが嫌いなのだから、ちゃんと上品に
「はぁ……よし、誰もいないな……」
何とか切り換えた俺は再度、周囲に人がいないのを確認してから、まだ動揺しているカナと、未だに足下を見つめる天童へ顔向けする。
「フクメ……いや、天童彩?」
「なに……?」
しかし暗黒の俯きを
「……聞こえたぞ。お前の昔話」
「だから、それがなによ……?」
相変わらず天童の喪失気味な顔が垣間見えたが、他者の想いに興味などない俺は、俺として抱えていた問題の解答を求める。
「お前は今後どうしたい? 一応過去は思い出したんだろ……?」
「や、やなぎさん……?」
まるで空気を読まない発言ではないかと、カナがしかめた表情で語っていたのがわかる。しかし俺の中では予想通りだった。何せ憂鬱な過去を思い出した天童を、更に追い込もうとしているのだからな。立派な悪役してるに違いない。
「さぁ……成仏でもすれば、いいんじゃん……」
天童の瞳からは完全に輝きが消えていた。幽霊として
「そうか……じゃあ、神社に向かう……」
すんなり受け止めた俺は天童に背を向け、これ以上コイツの顔を視るのを
正直、視れたものではなかったからだ。
人格が変わってしまったかのように、はっちゃけたお転婆娘の一面は、もはやどこにも残っていない。
それに成仏は、天童彩のためでもある。
嫌な過去を思い出して、さぞ心は潰れてしまっているだろう。きっと天国に逝くモチベーションだって、また意味すら皆無のはずだ。大切な他者の存在も無ければ、誰かを待つ訳でもないのだから。
ならばこのまま魂ごと消えてもらい、天童彩としての時間を停めてやりたい。
それが熟考の末に導きだした、俺の答えだ。残忍と叫ばれても、後悔するつもりはない。
「……行くぞ?」
悪く思わないでくれよ、天童彩。これはお前の意思に習って、そしてお前にこれ以上苦しんで欲しくないが故の行動なのだ。
俺は天童に一目も置かず歩き出し、前回と同じく小清水神社に向かおうとした。
だが、ヤツが俺を食い止める。
「会わせてあげましょうよ!!」
突発的に鳴らされた大音は、俺と天童にしか聞こえないカナの叫びだった。
俺は立ち止まり振り返ると、すぐにカナの涙が頬を伝っていく素顔が視える。
「カナ……」
「せっかく会えたのに……こんな気持ちで成仏なんて……あんまりですよ!」
意外に思えてしまった俺は、開いた口が塞がらなかった。なぜならカナの大きな瞳から、大粒の涙が次々に溢れていたからだ。
感情移入ってやつなのだろうか?
にしてもなぜ、カナはそこまでして、天童彩を神埼透に会わせたがるのだろうか?
誰かを愛する心を、誰よりも知っているかのように……。
「彩さん! もう一度、もう一度透さんとお会いしてみませんか?」
俺が考えている最中、カナは止まらない涙と共に、天童の闇に染まった顔を覗き込む。すると呆れたような微笑が現れ、ピンクの浴衣が久々に揺れる。
「……お姉ちゃんさ、アタシの話ちゃんと聞いてた?」
天童は下を向きながら、そして無気力のまま続ける。
「アタシはフラれたんだよ? それなのに、なんで会わなきゃいけないのよ? ホントのバカみた……」
「……フラれてなんかいません!!」
すると裏返る大声で言葉尻を被せたカナに、天童はやっと顔を上げてみせる。だが表情の曇りはいっこうに晴れておらず、花火なんか打ち上げられても隠れてしまうほどの、厚い暗雲を抱いていた。
「なんで、そんなこと言えんのよ……?」
「きっと透さんも、彩さんと会いたがってるはずですから!」
「はぁ? 意味わかんないんだけど……」
再び顔を地に落とした天童彩。しかし眺めていた俺もコイツとは同意見だった。女の勘だとも聞こえる無茶苦茶な論理を投げたカナが告げた真の意味が、全くもって理解できなかったからである。神埼透のどこを窺って、六十年も前に亡くなった天童彩を未だに愛しているのかと。
「
言い切ったカナは涙を拭き取り、目を合わせてくれない天童を真剣に見つめる。もちろん言葉は返されず、ピンクの浴衣が再度静止した。
早く
それとも、女の勘否めないカナのいい加減な提案に従うか?
霊感抱く人間として選択権を持つ俺は悩み考えたが、ふと思い付いた策を抱きながら、財布の中身を覗いてみる。見えたのは千円札一枚と、数枚の錆び付いた硬貨たち。独り暮らしとしては余裕の無さが具現化していた。
「英世が一人か……よし、じゃあ行くぞ……」
「行くって、どこにですか?」
「……」
「や、やなぎさん!?」
素っ気ない言葉を置いた俺はカナの叫びを無視しながら、お祭り本部の広場から離れ、人だかり溢れた道へ踏み入れる。相変わらず好めない、群衆の愚かな騒ぎ声ばかりが耳を傷つけてくるが、時間は刻一刻と迫っているため止まる訳にはいかない。
「やなぎさん?」
すると少し落ち着いた様子のカナは、落胆した天童をおんぶしながら、俺の目の前に現れる。
「小清水神社は、こっちの道ではないのでは……?」
やはりカナは、俺が天童を成仏するのだと捉えていたようだ。勘違いといい、まったく世話が焼ける悪霊だ。
首を傾げたまま浮遊する、姉妹のような幽霊二匹が視界を邪魔してきた。が、俺は思わず小さな吹き出し笑いを起こし、唯一目が合ったカナに千円札を見せ放つ。
「――知らぬ仏より
「やなぎ、さん…………っ! はいッ!! そうですね!!」
笑顔に変わったカナは、やっと理解してくれたみたいだ。これから俺がしようと企む作戦を。
カナの背に乗せられた天童彩も少しだけ顔を上げていたが、時間を気にする俺は腕時計のみを見つめ、早足のままとあるの目的地へ進んでいった。 お祭り本部。
もうじき最後を飾る花火が打ち上げられる時間帯では、たくさんの人とテントが並ぶ中に、水嶋麗那は一人俺を待っていた。
「麻生くん、遅いなぁ……」
「あら、一人かい?」
「あ、神埼さん!」
寂しげな水嶋に声をかけたのは、本部迷子センター担当をしている神埼透だ。笑顔が似合う老人が傍に着くことで、不安を薄めていたように窺える。
「今、麻生くんを待っているところです」
「ハハハ。本当にカップルみたいだなぁ」
「だから、そんなんじゃありませんって。わたしは、狙ってませんから……」
眉をハの字にした水嶋は呆れ気味に笑っていたが、神埼は老いで細くなった瞳を夜空に向け始める。
「……今年も、もう少しで花火だねぇ」
「そうですね。わたし、お祭り最後の花火、毎年楽しく見させてもらってます」
「そうかいそうかい。それは何よりだ……」
神埼は確かに頬を緩めていた。しかし妙な間を置いたことが、水嶋に振り向かれる要因だった。
「ねぇ、神埼さん……?」
訪れた少しの沈黙の後、水嶋は戸惑いの表情を見せながら口を開く。
「神埼さんの昔話、よかったら聞かせてくれませんか?」
「老いぼれの話かい? ちょっと辛気くさくなるよ……?」
神埼は花火が訪れる夜空から目を背け、自身の足元を覗いていた。今日は晴れていたいたため、
「大丈夫です。わたし、聞きたいんです」
「……そうかい…………実はね……」
優しい微笑みを残しながらも、どこか鬱気味な神埼透。すると再び星空を見上げ、まるで空に語りかけるように喉を鳴らす。
「――失恋したんだよ。ちょうど、この場でね」
「失恋……?」
神埼の寂しさを込めた呟きに、水嶋は思わず聞き返していた。きっと辛い過去なのだろうとわかっていながら。
「まぁ、大切な人を失ったってところかな」
「……ご、ごめんなさい。無理な話をさせてしまって……」
「いやいや、気にしないでくれ……」
神埼の笑顔を苦笑いとして捉えた水嶋は俯き、聞いてしまった自身の罪悪感に駆られた様子だった。大切な人を失う辛さは、胸奥が僅かな風ですら裂けてしまいそうなほどだと、妹のコイツだって知っているからである。
「ボクは当時、大好きだった子と付き合っていたんだ……」
老人の穏やかな音で何とか顔を上げた水嶋は、再び神埼の横顔に目を向ける。春の大三角を描いた星たちが彼の目にも映っていることが、より儚さを感じさせるものだった。
「でも、その子は帰ってこないどころか、還らぬ人となってしまったんだ……」
「神埼さん……」
「でもこうやってお祭りの中にいると、何だか彼女に会える気がしてね。昔から信じて、お祭り関係の仕事を続けているんだ……」
亡くなった相手でも、内に秘めた愛を指し示す神埼透。たとえ半世紀以上経った現在でも、その形は以前と変わっていないようだ。
「あの子は今、どこにいるんだろうなぁ~……」
神埼は夜空から顔を逸らさなかったが、静かに瞳を閉じて、弱々しく老いぼれた独り言を鳴らす。
「会えないのかな~。もうボクらは……」
訪れない流れ星に願いを込めるように、ひっそりと。
「――それでも、会いたいんだけどな……彩」
――「ここにいるぞ……?」
「え……?」
「麻生くん!? いつの間に来てたの?」
神埼と水嶋は振り向いた先には、もちろん闇にまみれて盗み聞きをしていた俺、後ろにはカナ、そして表情が晴れない天童彩で並んでいた。
「麻生くん……てかそのお面、どうしたの?」
まず気づいた水嶋は、俺の頭頂部に載せた鬼のお面に不審がっていた。
「遅くなって悪い。ちょっと、訳あって買ってきたんだ……なぁ、神埼さん?」
俺は早速、神埼に声を投げて瞳を交わす。正直自腹で鬼のお面など購入したくはなかった。予定外の雑費だと否めない。領収書ごと差し出し、費用を返してほしい気持ちはやまやまではある。しかし、今は金銭よりも大切なことがある。
神埼にも、もちろん俺にも……。
そして誰よりも、天童彩に。
「天童彩は、ここにいる……」
俺は後ろで俯く天童に指を指しながら告げたが、やはり霊感を備えていない神埼の顔には皺が増える。
「な、何を言ってるのかね?」
「信じてねぇな……」
ここまでは想定の範囲内だ。視えない死人が傍にいると言われても、普通の人間ならば受け入れがたいはずだ。とはいえ、この前の水嶋はよくもあっさり受け入れられたなと、今更ながら思える。
どうしたら神埼が信じてくれるか?
それを考えた結果導いた答えこそが、この鬼のお面の購入理由だ。視えない仏を知らないならば、馴染みある鬼を見せてやろうという訳である。
「コイツが亡くなったとき、こんな鬼のお面を着けてただろ? 幽霊となった今だって、同じ格好だぜ?」
俺は神埼に自腹のお面を放ちながら、天童のお面に目を置き、他にもピンクの浴衣やツインテールの髪型まで、様々な身だしなみも伝えた。
俺が買った鬼のようなお面は確かにまるっきり同じ物ではないが、角や
現在高校二年生の俺が六十年前の出来事を、それも事細かに知っていることなど、恐らく神埼にとってあまりにも意外で驚いているに違いない。仮にニュースになった事故だとしても、あまりにも年月を重ねているため、世間からだって忘れ去られているはずだ。
ならば俺が知っている理由はなぜかと問われれば、昔の話を俺に教えていない神埼からしてみれば、実際に天童彩本人から聞いた以外考えられないことだろう。
場が整ったと感じた俺は不適な笑みを浮かべ、神埼へ近寄ろうと歩み出す。が、老人の震えた拳が見えたことで、すぐ停止してしまう。
「……違う」
「はぁ……?」
神埼が周囲で楽しむ人間どもの声に負けそうな弱い声を漏らし、聞き取りづらかった俺は首を傾げる。
決して挑発のつもりではかったのだが、すると穏和なイメージが強かった神埼は初めて
「――彩が着けていたのは! もっと昔の安っぽい鬼のお面だ!!」
「……あ、当たりめぇだろ!? まるっきり同じやつなんて、どこにも売ってる訳ねぇだろうが!!」
つい神埼に
先程はお面を購入するために売店に向かったのだが、やはり今の時代には昔のような、クオリティー低めな鬼のお面など見当たらなかった。しかも終盤を迎えたお祭りの時間帯でもあって、選べる数も相当限られてしまったことも懸念材料と言える。
そこで俺が購入したのが、天童が着けているお面に一番近かった赤い鬼のお面……いや、よく見てみれば、鬼というよりも特撮ヒーローに出演する、性格が救いようなく悪そうな怪人だ。たぶん序盤で敗北する、幹部の中で次第に距離を置かれる立ち位置だろう。
「そ、それでは、ボクは信じない! 彩がいるなんて……老人をバカにするな!!」
「じ……じゃあ
「フン! どうせ、ボクらが付き合っていた当時の写真でも見つけたんだろ? あれにはお互いの名前を書いたしね。ボクは騙されない!」
「……だ~か~ら~! 六十年前の物なんて、どっから取り出せっつうんだよ!? タイムカプセルも土になっちまうわ!!」
こんの、頑固ジジイめ……。
なかなか受け入れてくれない神埼と睨み合うよう身構える俺は、想定外のイライラを歯軋りで鳴らしていた。まさか、心の広い老人と思っていたコイツが、素直に認めてくれない頑固者だったとは。
確かに俺が言っていることはメチャクチャかもしれないが、天童彩がいるのは紛れもない事実なのに。これだから、自意識過剰な年輩の人間は嫌いなんだ! 老害なんて無駄言葉作りやがって。
「フン! 老いぼれたからと言って、そんなマルチ商法には引っ掛からんぞ!」
「売る訳で買ったんじゃねぇし、勝手にセールスマン扱いするな! 笑いながら人差し指ぶっ指すぞ!?」
俺と神埼は口論が続くばかりで、互いの想いは平行線を辿っていく。ついには背も向けられてしまい、完全に俺の話を無視されてしまう。
一体どうしたら、神埼透は天童彩がここにいることを認めてくれるのだろうか?
二人の思い出の品である林檎飴だって、わざわざお面まで揃えてやったというのに……。
これ以上の策が、アドリブ苦手な俺には毛頭思い付かない。
「チッ馴染みの鬼作戦、しっぱ……」
「……やなぎさん、貸してください」
「え、カナ……?」
するとカナは言葉尻を被せ、無気力な天童の左手を引きながら、俺から鬼のお面を突如かっ
「お、おい……?」
俺は挙動を示してしまったが、カナはそのままお面を顔に着け、天童と共に神埼の隣に立つ。
アイツ、何をするつもりなのだろうか?
普通ならこう思うべきなのかもしれない。しかし俺は、カナの突発的な行動と現状には幽霊として矛盾があることに気づき、あまりにも不思議で首も傾げることすらできなかった。
――実体を持たない幽霊は、物を持てないはずじゃなかったのか……?
「お、お姉ちゃん……?」
天童もさすがに困っていた様子で聞いていた。
当たり前のようにお面を着けているカナだが、幽霊事情に詳しくなった俺には、不気味でしかなかった。買ってほしいと願った林檎飴すら持てないと言っていたのに。
一体あのアホ霊に何が起きているのかと考えたが、人間と幽霊の間に立つカナは少し腰を下げ、頭の位置を天童の高さと同じに変えた。
そして神埼の手を、そっと包み始める。
「――っ! な、何……はっ! お面が、浮いてる!?」
カナに触れられた神埼は今まで以上に驚いていた。きっと身が凍るほどの思いなのだろう。なんせすぐ傍では、お面が宙に浮いてるよう見えているのだから。視えない幽霊がしている物だとも知らずに。
「カナ、お前……」
「やなぎさん! 作戦を続けてください!」
幽霊として幽霊らしくない状況を公開し、お面で顔を隠しているカナ。もちろんコイツの声は、俺と天童彩にしか聞こえない。
相手の声だけでは、相手が何を考えているのかなど不透明で、理解できる者など心理学者以外いないだろう。お面のせいで、表情だって視えない状況だ。
しかし俺は共に、お面のまま振り向いたカナの声からは、覆われた表情と想いまで自然と読み取ることができ、同じくつり上がった眉を神埼に放つことができた。
「――今、お前の手を握ってんのは……て、天童彩の手だ!」
「「――ッ!!」」
神埼と天童は同時に俺へ振り向き、全く同じの丸い瞳で驚愕を示した。これは俺も予定外だったことが否めず、つい言葉が片言になってしまったが、カナの考えには正直感心を覚えていた。
知らぬ仏より馴染みの鬼。
鬼すらわかってもらえないのならば、身をもって知ってもらう。肌に触れて、感じてもらうのだ。
会わせたい神埼と天童それぞれの手を握ることで、両者の架け橋となった、一匹の自称悪霊。
アホ霊のお前としては、なかなか
「さぁ天童、それに神埼、さん? これで場は整った。何か話したいことがあるなら、遠慮なく話せ」
天童の口を開けさせようと囁いた俺を応援するように、カナも戸惑う浴衣少女に頷いてみせた。だが、先に開いていた口から声を鳴らしたのは、未だに現実を受け受け止めきれていない様子の神埼透である。
「しかし、信じられないなぁ……」
「神埼さん? 麻生くんは、嘘なんてつきませんよ」
「れ、麗那ちゃん。どうして君まで……?」
すると水嶋も参戦し、天童と神埼の心をより近づけさせようと微笑みで促す。
「わたしも、彼には同じことをしてもらったから。視えないけど、信じて大丈夫ですよ?」
水嶋は神埼にそう告げ、最後には俺に振り向いて合図を送ってくれた。
さぁ、始めよう。半世紀を超えた、再会だ。
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