七個目*浴衣 de パントマイム*

 突然の出逢いという出来事は、本当に困った事件だ。

 一般的な人間共は決まって出逢いを求めやがるが、それは出逢い自体の恐ろしさをわかっていない愚かな証拠だ。出逢いが幸せを運ぶとは限らないというのに。

 またたちが悪いのは、決して望んでいるわけでもないのに、その事件は何の前触れもなく起きてしまうということだ。後にどんどん続いていき、人生そのものを大きく動かし兼ねない。


 まったく出逢いとは、心底困らせる事件だ。


 そんな出逢いを全否定する俺――麻生あそうやなぎは、五月の登校中、事件に再び巻き込まれていた。


「……なんだあれ?」

「なんでしょう?」


 歩みを止めて見つめる俺とカナの数メートル先には、何故か外壁の影で染まった道中に、うつ伏せで倒れている女子がいた。


「うう……誰かー……助けてー……」


 見た目からして中学一年生程度の背丈である女子は短いツインテールを浮かせ、纏ったピンクの浴衣をアスファルトに広げている。さっきから、わざとらしい他者の助けを求めていた。

 こういう展開、つい先日もあった気がする……。


「どうします、やなぎさん?」

「無視でいいだろ……」


 心配げなカナに尋ねられた俺は迷いなく、転がる女子を見過ごそうと再び歩き出したが。


「いけません!! やなぎさん!!」

「んでだよ……?」


 隣で浮遊するカナは登校を阻止するかのように叫び、俺は歩き続けながらも振り向く。すると目の前では、自称悪霊から潤む瞳を視せられてしまい、無意識に足が止まった。


「か弱い女の子が倒れているんですよ!? それを見過ごすなんて、あまりにもひどすぎます!! 世直しため、漫遊まんゆうするやなぎさんのやることではありません!!」


 ここは、水戸ではないのだが……。紋所もんどころさえ持っていないのに……。


 茨城県笹浦市という、ありふれた町に住まう俺はコイツに落ち着いてもらおうと、得意の冷たい目で返事をしようと試みた。が、対照的なカナの熱など冷ますことができず、背を向けられてしまう。

 するとカナは早速、倒れて微動している浴衣少女に一歩近づき、遠いながらも観察し、状況を見極めようとしていた。


「いやな~カナ……」

「まずは救急車を呼びましょ! きっと重症かもしれません!」

「なぁ、カナ……?」

「いや、もしかしたら持病が突然悪化したのかもしれません! ここは救急車ではなく、ドクターヘリにした方が良さそうです!!」


 そんな金ねぇよ。マジ高過ぎクリニック……。

 悩める俺はカナにやめてもらおうと、女子高校生の華奢きゃしゃな背に何度も呼び掛けた。しかし、苦しむ少女を見てばかりで、振り向くどころか返答すら返ってこないことに、呆れた気持ちは次第に苛立ちへと変わっていた。


「カナ……?」

「いや待てよ。もしかしたら、日本では治せない難病の可能性だって予想できます……。す、すぐに海外へ飛べるよう便の予約も必要です!!」

「カナ!」

「はい!!」

「お座り!」

「はい!! ……へ?」


 やっと俺の声に耳を向けたカナは空中正座を始めたが、繰り返すまばたきからは不思議がっている様子が視て取れる。

 どうやら説明しなくてはいけないようだ。てか、なぜ幽霊のお前がわからないのか、俺の方が不審でならない。


「よく視てみろ……」

「はい! よく見てます!」

「じゃなくて、視ろ」


 俺は未だに助けてと呟く少女に、あえてあご先を向けることで、カナには周囲の様子までしっかり焦点を当てさせた。


「明らかに、おかしいだろ?」

「なぜ、ですか……?」


 しかしカナは疑念を抱きながら、俺に無知な顔を向けて返した。これでもわからんのか、このアホ霊は……。


「……だって、さっきからあの女子の周りを歩いている生徒、誰も見てないだろ?」


 今は朝の登校時間。しかもここは多くの学生が訪れる通学路でもある。道路とはいえ、現在は生徒たちが車が通れないほど横並びしているのだ。


「……人間とは、非情な方が多いってことですか?」

「そうじゃない……」


 まぁ、あながち間違ってはいないのだが……。

 しかし今注目すべき点はそこではないと、俺は呆れたため息を漏らしてから言葉をつむぐ。



「あの女子は、誰からも見えていないんだよ……お前みたいにさ」



 他人の気持ちなどどうでも良いと思っている俺すら、視点を置く状況。

 道端に人が倒れている。

 しかも、まだまだ幼さ残る女子だ。

 一般ぴーぽーなら心配して近づいていくのが自然の摂理。だが、周囲の生徒は誰一人として声を掛けず、むしろ空気のような存在として扱っているのが否めない。それに加え、涼しい日陰で倒れている辺りも怪しさを増している。


 これ以上説明するのがめんどくさくなった俺だが、どうやらカナも悟った様子で助かった。


わたくしたちにしか見えていない……じゃあ、彼女は……」


 わかりきっているため言うまでもないが、俺は静かに頷いて口を開ける。



「――お前と同じ、幽霊だ……」



 正直、幽霊だとしか思えなかった。

 誰にも聞こえていないわめき声。

 姿が透けてしまうため、光を嫌い日陰にいる辺りから。

 俺たちは、倒れている女子を幽霊と断定することができたのだ。


「ど、どうしましょう、やなぎさん?」


 相変わらず正座をしているカナの表情は最初と比べて悲壮は薄れていたが、同じ幽霊として気にしているようだ。


「別に関わることないだろ……けて通るぞ」


 人間側から幽霊に近づく必要性など皆無。たださえ害を及ぼす存在なのだから。コイツみたいに……。

 冷静な俺は再度歩き始め、倒れている女子の傍を通り過ぎようとした。


「誰かー……助けてー……」


 近くで聞くと改めて棒読みで、嘘っぽいうめき声を上げる浴衣女子。

 もちろん俺は首も顔も目も動かさず、幽霊女子を無視して背を放ちながら進む。


 人間を驚かしてコトダマを得ることが、天国を望む幽霊の定め。


 しかし、霊感無き者からは無論視てもらうことができず、まさに骨折り損のくたびれ儲けだ。幽霊もなかなか辛い生活を送っているようだ。

 恐らく今、人間としてあの女子を視ることができるのは、俺だけだろう。少しばかり、かわいそうにも思えてならないが、こちらが苦労を背負ってやるまでの優しさは持ち合わせていない。


「アイツ……いつまでやるつもりなんだろうな……あれ?」


 学校に向かう俺はカナに言ったつもりだった。が、気づけば隣にいなく、どこにいるのかと辺りを視回する。


「カナ? ……っ!?」


 俺は息を飲まされた。

 確かにカナが背後にいる姿を発見したのだが、共に悪寒に襲われてしまい、三度登校を阻止される。



「ホントに、大丈夫ですか……?」



――なぜなら膝を着いたカナが、せっかく無視した女子の前で声を掛けていたからである。あっの、アホっれ幽霊がっ……。


「あの、もしも~し……?」


 恐る恐る声を震わせるカナは倒れている女子に囁いていたが、引き連れようとした俺が歯軋りを見せながら近づくと、視知らぬ女子は起き上がろうと四つん這いになる。



「うぅ……ありがとう、お姉さん……」



 幽霊のカナをお姉さん呼ばわりした女子は地を向いたまま、嬉しそうにも感謝を漏らした。

 反応を返されたカナも喜ばしげに見つめていたが、その刹那、少女が顔を上げる。



「ダズガッダよ……」



 その顔には、二本の牙を伸ばし、鋭い眼光を放った赤鬼のお面が着けられていたのだ。


「――ッ!! キャアァァァァ~~~~ッ!! デタァァァァア゛!!」


 不意に驚かされたカナは尻餅を着き、すぐに俺の肩を掴んで、背に隠れるようにして身を潜めた。一方で鬼のお面少女はフフフと不気味な笑みを漏らしながら立ち上がり、素顔を明らかにすると共に、周囲を見回し始める。



「ヨッシャー!! コトダマゲットだぜッ!! ……あれ?」



 お面を頭頂部に置いた女子はあちこちとコトダマを探したが、もちろん一個も見つけられず、飛び移りながら不思議がっていた。


「無い……なんで!? あの驚き方なら出るはずなのに!!」


 ついには日向にも飛び出し、アスファルトに目を凝らす少女。その姿を霊感あるがゆえにはっきりと視える俺は、呆気に取られてしまった。



――マジかよ……アイツ、驚かした相手が幽霊だって気づいていないのか……。



「おい……」

 我慢の限界が訪れた俺もついに声を放つと、その女子からは必死な表情を向けられる。視た目に応じて童顔なみすぼらしいツインテール少女。案外眉が細いことは意外だったが、額を覆った毛先がボサボサと整っていない点、ギャルのように荒あっぽい口調からは、最後まで綺麗に変身しきれていない、お転婆中学生であることがわかる。


「なんだアンタは!? さ、さては! アンタがコトダマを取ったのか!? ドロボー!! 猫ババ!! ……いや、猫ジジ!!」

「んな言葉ねぇよ……。てか取ってねぇし、そもそもコトダマなんか落ちてねぇよ」

「ハァァァァァ!? なんでよッ!?」


 うるせぇヤツだ……。

 怒りなのか焦りなのか、浴衣少女は鋭利の瞳を向けながら目の前に来た。しかし、怖さを感じられない俺は反ってため息を漏らしてしまう。


「……お前が驚かしたコイツは、幽霊だ。コトダマなんて出てくるわけねぇだろ」

「え? ……エ゛エェェェェ~~~~!?」


 やっぱ、気づいてなかったんだ……。

 アホ霊を人間だと思い込んでいた少女は、浴衣をなびかせながら驚愕すると、すぐにムッとした表情に変え、俺の背後で隠れるカナに指を差して覗き視る。



「ちょっとォ!! 何アタシの邪魔してくれてんのよ!?」

「いや、助けを求めていたので……」

「あんなの演技に決まってんでしょうがッ!!」 

「ご、ゴメンなさい……」


 もろい声を漏らしたカナは完全に押し潰されかけており、ついには静かに謝ってさえいた。しかし、中学生少女の怒りは収まる所を知らず、今度は俺の顔に人差し指を放つ。


「それとアンタ!! アンタはなんで驚いてないのよ!? 驚きなさいよ!! 人間でしょうがッ!!」

「……」


 もはやため息を出すことも面倒になった俺は、老けた顔を見せたままきびすを返し、もとの登校状態に移る。

「……カナ。遅れるから、行くぞ……」

「あ、はい」

「ちょっとアンタたち!! 待ちなさいってばァ!!」


 正直俺はビックリした。


 何にビックリしたかって?


 そりゃあ、決まってんだろ……。



――だって、悪霊が悪霊に、まんまと驚かされてたんだぜ。しかも、叱られてたし……。



 中学生の荒々しい声はしばらく続いてしまうが、俺とカナは一切後ろを振り返らないまま、嫌いなはずの学校へ早歩きで向かっていった。



 ***



 笹浦第一高等学校。

 俺の教室。

 俺は困っていた。

 それはそれは、非常に困っていたのだ。



「なぜ、ついてきた……?」



 窓際後方の席に着いた俺は、カナのすぐ隣にいた浴衣女子中学生に苦い顔を見せた。しかし依然としてかたくなな表情のコイツは、細い眉を片方だけピクピクと動かしながら怒号を放つ。


「知らないわよ!! コッチが聞きたいっつうの!!」


 なんか怒られたんですけど……。

 怒り狂い気味な幽霊の台詞せりふが意味不明だった俺は、頬杖を着きながら、とりあえず詳しい事情を聞いてみることした。もちろん嫌々だが。


「お前の意思で、着いてきた訳じゃねぇのかよ?」

「じゃあ、視てなさいよ!!」


 すると女子中学生は俺から離れようと背を向け、俺から徐々に距離を取り始めた。このまま去ってくれと祈るばかりだが、ふと奇妙な光景を目撃する。



――ゴンッ!!



「痛ァッ!!」

 ふと何か当たったような音を鳴らしたお転婆娘は、額を押さえてもだえていた。ただ、俺には何に激突したのか視えなかったため、明らかな引目で窺う。


「な、何やってるんだ、お前……?」

「それは、パントマイムですねっ! 御上手ですぅ!」

「おでこでパントマイムするヤツがいるかァ!!」

「ヒィッ!! ゴメンなさいッ!!」


 額を赤くした浴衣娘にげきを飛ばされたことで、興味津々だったカナは再びづき、瞬時に俺の背後へと隠れた。悪霊が悪霊を怖がるという怪事件に巻き込まれながら、正直ウンザリしている。保育園の先生って、こんな気持ちで苦しい勤務にえているのだろうか。

 そんなことをおもむろに感じていると、視えない何かにぶつかったお転婆娘から、再び罵声を受けてしまう。



「まだ、わかんないの!? この鈍感男!! レディーの気持ちをわかってくれないなんて、ホンットにサイテー!!」



 なんでさっき会ったばかりの年下女に、ここまで言われなきゃいけないの? 俺、何もしてないのに……いや、何もしてないからなのか?

 当面女性の気持ちなどわからないと察した俺は、更に表情を悪化させしぶめる。


「だったら、もっと詳しく、言葉で教えてくれよ。一体お前に何が起こってんだ?」


 俺も嫌々ながら聞いてみたが、するといらついている浴衣中学生は両手の拳を震わせながら、やっと真実を言葉で明かす。



「なんか知らないけど、アンタを中心に変な壁が張られてんのよォ!!」



「結界……もしかして、お前は……」

 俺はふと、背後で身を潜めているカナの顔を覗く。まだ怖がっているためか、うるうると瞳の光をちらつかせ、普通に話せる状態ではなかった。

 おびえるカナに呆れつつ、再び中学生に顔を向けた俺は気持ちを切り換え、珍しく真面目なトーンで声を鳴らす。



「――カナと同じ、憑依して脅かすタイプの悪霊なのか?」



「え……わ、わたくしと同じだったんですかぁ!?」

 俺は女子中学生に言うと、後ろでカナは大きく驚いていた。


 今一度説明しておこう。カナが言うには、幽霊はそれぞれの特徴によって種類分けされているらしい。

 今の時点で俺が遭遇したのは二種類。

 一つは、俺がカナに出逢う前に驚かそうとした、片目を失った幽霊の特徴――誘因ゆういん型である。人間を引き寄せて驚かすというシステムで、魚釣りにもよく似たやり方だ。

 そしてもう一つは言わずもがな、このカナの特徴である憑依型だ。驚かそうと決めた人間に近づき、当人だけに姿を視せることができる。しかしその代償として結界が張られ、コトダマを取り出すまでは半径五メートル以内が活動範囲になってしまうらしい。幽霊にとっては、ハイリスク・ハイリターンと称すべき特徴だろう。


 つまりこのお転婆娘は、カナと同じく憑依型の特徴を持った幽霊なのだ。さっき額にぶつけたのは、俺中心から広がる視えない結界に当たったからに違いないが。



 え……?



 俺は今、二匹から取り憑かれることになるの?



 またまた面倒事が増えたと感じた俺。しかし中学生幽霊からは怒涛の表情が消えており、何故だかまばたきを繰り返した無表情に変わっていた。


「……ひ、憑依……何それ?」

「へ……?」


 女子中学生は初めて聞いたように応答していたことに、俺は驚きのあまり起立してしまう。


「はぁ? もしかして、お前自分の特性わかってなかったのか!?」


 俺は珍しく声を大にし、周囲の生徒から不審目を向けられていた。しかしそれも致し方ない。だって、このお転婆娘は、今まで自身の特徴を理解せずに過ごしてきたと知ったから。


「特性? なに、そんなものあるのか?」

「ダメだこりゃ……」


 次いってみよう! などの気分になれたものではない。

 肩が落胆した俺はまた、とんでもないアホ霊に取り憑かれたことに恐怖した。幽霊っていうのは、こんな愚かなヤツらばかりなのだろうかと、抱く霊感を今すぐにでも捨てたい思いだ。


「やなぎさん大変です!!」

「今度はなんだよ……?」


 突発的なカナの叫びに、俺は気怠けだるく返事をすると、ずいぶんと困った表情を視せられた。



「まだ、彼女に名前を付けていません!! このままではわたくし、このをなんて呼べばいいかわかりません!!」



 知らねぇよ。今困惑するところ、そこじゃねぇだろ。もう勝手に決めてくれよ……。

 俺は大きなため息でカナに応えると、早速アホ霊の僅かな知能が振り絞られる。


「どうしましょう……ち、ちなみに、御名前は覚えてますか?」


 まだ怯えているせいか、カナは畏敬いけいの念を抱いたように女子中学生に聞いていた。すると、浴衣の袖から白い肌を出した腕組みを視せられる。


「う~ん……正直、全然覚えてないんだよねぇ。死んだ理由とかも、全く……」

「困りましたねぇ……」


 中学生が苦笑いをしている一方で、カナの表情は悲壮色に染まっていた。他者のために真剣に考える人格の良さが視受けられるのだが、俺は決して感心など抱かず、冷たい視線で観察していた。


「名前……っ! じゃあ、お面を着けているようですので、オニさんなんて、どうですか?」


 カナは上手く閃いたように自身の瞳を煌めかせていたが、反って中学生からは呆れたように笑われてしまう。


「お姉ちゃん、それはないわ~。いくらなんでも、センス無さすぎ~」

「お、お姉ちゃんっ……」


 俺にはよくわからなかったが、カナはなぜか赤く染めた両頬を手で隠していた。お姉ちゃんと呼ばれたことが、そんなに嬉しかったのだろうか。少なくともけなされているのは確かなのに。だってアイツ、お前より明らかに年下だぜ?



「どうしたの? お姉ちゃん顔真っ赤だよ? インフルエンザ?」

「――ッ!! お姉ちゃん、わたくしが、お姉ちゃん……?」

「だって、お姉ちゃんじゃん。アタシより背高いし、高校生みたいだし」

「お姉ちゃん……お姉、ちゃん……」



「うるせぇな~」

 アホ霊同士のじゃれあいに嫌気が差した俺はこめかみを摘まみ、仕方なく話の輪に入った。もちろん会話をしたかったためではない。鬱陶うっとおしい愚行を今すぐに阻止したかったからだ。



「……お面なんだから、フクメでどうだ?」



 女子中学生を視下ろしている俺は、気が気でないカナの代わりに、名前をフクメと称してみた。理由としては、お面を覆面と変換し、その頭三文字を取ったが故にフクメである。


「フクメ……まぁ、悪くないかな」


 少しはにかんだフクメも、どうやら納得したようだ。名前を付けてもらうことは、幽霊であってもこころよいらしい。それがたとえニックネームであろうとも。


「さすがやなぎさん! ということで、わたくしはカナと申します! フクメさん、よろしくお願い致します!」

「おぅ! よろしくね! カナお姉ちゃん!」

「か、カナお姉ちゃん……」



 再び顔面を赤リンゴ色に変えたカナだったが、一方の俺は全く嬉しさを感じられなかった。むしろ、ここまで何度も漏らしたため息が、いっこうに止まる気配がない。肺活量に自信が持てるくらいだ。

 先が思いやられる……。

 だってさ~……。


 俺、この章から……


 

――カナとフクメっていう、アホ霊二匹の世話、視なきゃいけねぇんだぜ……?



「ぶっちゃけ、ありえない……」

「ん? どうしましたか? やなぎさん?」

「そっか! お前、やなぎって言うんだな! アタシはフクメ!! よろしくね!!」

「言われなくてもわかるわ~……」


 俺が名付けたんだもの~……。

 窓から見える外の校内景色は今日も、嫌いな太陽のせいで鮮明に広がっている。まるで俺の気持ちなど全否定するかのように明々と、青く澄み渡った空を背景にしていた。

 もう一度、言わせてくれ……。


 ぶっちゃけ、ありえな~い……。

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