第8話
そのサルーンのことは良く知っていた。懐かしい匂いがした。安い酒、安い料理、安い女に薄っぺらい客。紫煙が天井に吹き溜まって簡素な照明とともにゆらゆらと揺れている。
グラスに注いだ安い酒は簡単に人を酔わす。そんな酒を浴びるように飲んだウォレスはとうの昔に酔いが回っていた。そろそろ呂律も回らなくなるころ、ウォレスは不意に酒の入った瓶を掴み、テーブルの上に注ぎだした。
「おいおい、何やってんだウォレス。グラスの位置が違うぜ」
今よりも皺の少ない現役時代のフランクはそんな彼の手を掴んでやめさせようとしたが彼は構わずテーブルに酒を注ぎ続け、ビンが空になると音を立てて机の上に置く。
「おいフランク。俺は明日から酒をやめるぜ」
「おいおい。酒をやめるだと?お前が?ニック、聞いたか?酔っぱらった人間が酒をやめるだとよ」
「朝日が昇るころには全部忘れて明日の夜にも潰れてるに五ドル」
フランクの隣に座るニックは頬を赤らめて目をつぶったまま言う。
「ニック、それじゃあ勝負にならねぇ」
「・・お前らなぁ!人を馬鹿にするのもいい加減にしろよ!!こいつはただ酒をやめるって宣言じゃあ断じてねぇ!!俺はもう父親になるんだよ!息子ができるんだ!!酒をやめるなんてわけねぇさ!!」
「・・ったく、今頃若い娘捕まえて子供出来て立派に父親面かよ。お前と同世代の奴の息子は随分でかくなってんだろ」
「よせよニック、少なくとも俺とお前よりも人間としてできてた証拠だ。おめでとうウォレス。改めてあんたに乾杯だ」
「・・乾杯」
「おう!てめえらもじゃんじゃん飲め!俺とフランクのおごりだ!」
ウォレスは立ち上がって他の客に声をかける。勇ましい男たちの歓声が小さなサルーンに生まれた。
「・・なんでそうなるんだよ」
「お前この前B・D兄弟とっ捕まえたばっかだろうが!賞金はいくらだったか!?七千はもらったんじゃねぇか!?」
「五百だよ。あいつらにそんな大金かかってるわけねぇだろ・・・・まぁ祝いの席だ。金くらい出してやらんでもねぇよ」
「聞いたかお前ら!ここにいる最強の賞金稼ぎフランク様が金を出してくれるそうだ!」
「お前も出すんだよな?」
「悪いが金を持ってねぇんだフランク!!」
「お前、最初からそのつもりだったんじゃねぇか」
サルーンの空気は最低で、それでも活気は最高潮になる。酒は次から次に客席へと運ばれ、ウエイターもマスターも程よく酔っぱらうほどに。誰かが下手な楽器を弾けば誰かがそれに合わせて下手な踊りを踊った。そこかしこに香る酒の匂い。懐かしい匂い。
「おい!フランク!」声をあげたのはどこかのテーブルに座る酔っ払いだった。
「お前普段からウォレスには世話んなってんだろぉ!?今夜の酒代だけじゃ不十分じゃねぇか!?」
「んなこたぁねぇよ。てめえらが飲む酒ひと月分の会計を一晩でしなくちゃならねぇんだからな」
「いいや!不十分だな!」ウォレスも続く「俺がいなきゃお前なんざただのガンマンさ。賞金稼ぎで食っていけるのは俺の手引きがあってのことだろう!」
「そうだそうだ!」全員がウォレスの言い分に乗っかる。酷い言い草だ。フランクは思う。しかし彼らの気持ちを汲めば当然だろう。彼らから見たらフランクはとてつもない大金持ちだ。これで普段から豪遊なんてしていたらフランクは大量の顰蹙を買い、今この場にいるはずがない
「しょうがねぇ。おい、ウォレス。今しがた、あんたがいなきゃ俺はただのガンマンって言ったよな?」
「ああ、そうさ。文句あるか?」
「あるさ。あんたが酔ってると分かっていなきゃその面ひっぱたいてたぜ」
フランクはそう言ってテーブルの上にある空のボトルをカウンターまで持ってくるとマスターにテキーラを二つ注文する。
「何してんだフランク」
「見てろよウォレス。あんたの言うただのガンマンがどれだけ立派なもんか教えてやる」
フランクはテキーラをワンショットあおり、続けざまにもうワンショット一気に口の中に押し込む。店はそれだけで大きく沸き上がる。
「・・・さぁ、こっからが腕の見せ所だ。いいかぁ!お前ら瞬きすんじゃねぇぞ!!」
瞬きなど誰がするものか。ここにいる誰もがそう思っていた。あのフランクが何かをしようとしている。それが何か分からないからこそ誰もが目を見張る。
二階からは娼婦まで階段の手すりから身を突き出してフランクに注目していた。酔っ払いが数十人いるのにも関わらずサルーンは誰もいないかのように静まり返っている。
フランクが動く。カウンターの方を向いたまま右手でボトルを後方へと高く投げる。ボトルはクルクルと回転し、弧を描き、宙を舞い、床めがけて落ちていく。フランクはその瞬間を逃すまいと振り返り銃を抜いて引き金を引く。
すべて一瞬の出来事だった。ボトルは床に落ちて砕け散る前に粉々になり四散する。銃声による耳鳴りは未だ大きくサルーン内にいる人間すべてに反響している。
「うおお・・おおおお!!」
誰かが叫んだ拍子に一気に静まり返ったサルーンに活気が戻ってくる。拍手と歓声の嵐。だがフランクは右手をあげて酔っ払いどもを静める。
「まだだ、まだ終わっちゃいねぇよ。ウォレス。あんたしっかり見てたよな?次はあんたの番だ」
「・・・は?」
「は?じゃねぇよ。俺が喧嘩を売ってんだ。いや、まず俺があんたの喧嘩を買ったのか。だから次はあんたが俺の喧嘩を買う番さ」
「じょ・・冗談じゃねぇ。俺にそんな真似はできねぇよ」
「いーや、たとえできなくても喧嘩は買ってもらうぜ。こんな大勢の前で尻尾巻いて逃げ出したらこの町で保安官はやってられないだろうな」
「そうだウォレス!!やれよ!!男だろ!!」
当然のように酔っ払いたちは酒臭い息を吐きながら囃し立てる。
「頑張ってーシェリフ!!」
娼婦の黄色い声もあがる。歓声は先ほどのフランクよりもずっと大きい。
「ほら、もう逃げられねぇぜ」
「ああ・・・クソ。・・分かった!やるよ!やってやるよ!」
「それでこそだウォレス。・・あんたが勝負に勝ったら・・そうだな。毎月二百ドル、あんたがいいって言うまで送ってやろう。あんたが長生きした分だけ大金持ちになれるぜ」
「言ったなフランク!!覚えてろよ!毎月だ!!毎月って言ったからな!!」
「出来たらの話だ」
「分かってるよ!ああ・・クソ。絶対やってやる!!」
手拍子の中、ウォレスは先ほどのフランクと同じようにカウンターへと千鳥足で向かっていく。誰が見ても彼は歩くのがやっとのようだった。
「おいおい、あれじゃテキーラはいらないんじゃないのか」
「うるせぇ!!マスター、テキーラを寄越せ!三つだ!舐められちゃたまらねぇからな!俺は、この町の保安官なんだぞ!!!」
ウォレスの声に当然のごとく歓声があがる。あまりの盛り上がりに民家から人が出てきて何事かとサルーンの窓からのぞきに来るほどだった。
ウォレスはテキーラを三杯、半ば噴き出しそうになりながらもすべて胃の中に収める。自分が火山になったかのように体も頭も燃え上がっている。歓声にも燃料を注いだかのようだ。何が起こるか分からない店の外にいた人たちも店の中に入りウォレスの動向を見守った。
「何かすごいことが起こるらしい」気づけば町の人間がほとんど集まっている。ウォレスにその姿は見えない。今ウォレスの目の前にあるのは茶色いボトルだけだ。周りの景色さえぼんやりと浮かんで見えるはずもない。
息を吸い、ボトルを宙に投げる。後方に飛んでいくそれを誰もが息を呑んで見上げる。
そしていつも銃を撃つときのように短く息を吸って振り返り、拳銃を抜き、引き金を引く。
そしてこのサルーンに、この町に、一発の銃声が響き渡った。
懐かしい匂いがした。顔に乗せていた帽子を取り、目をこすってウォレスは浅い眠りから覚める。随分とはっきりした夢を見た。自分はまだ息子が生まれる前で、まだ賞金を稼いでいたころのフランクが目の前にいた。夢というよりは、過去の記憶を見ていたといった方が正しいのかもしれない。すでに夢の大半を忘れてしまっていたが、郷愁にも似た切ない感情が年甲斐もなく彼の胸を締め付けた。
窓の外は思った通り真っ暗闇だ。雨が窓を叩いているのも変わりはない。先ほどよりも弱くなったのだろうか。首を客席に向けるとそこにはステファンしか座っておらず、リックとビリーの二人の姿はなかった。
「二人はどこか行ったのか?」
「ええ。ビリーは先ほど外の空気が吸いたいと言って。そちらに座っていた男性はビリーよりも前に席を立ってからまだ帰って来てないですわ。でも、そろそろ戻るころでしょう。・・この嵐の中ですし」
「ああ、そうだといいが」
ウォレスには二人が気がかりだった。嵐の真っただ中を走っているということもあるが、もしかしたら知らず知らずのうちに野盗に襲われているのではという考えすら頭によぎっていた。
だがそれは心配のし過ぎだ。この嵐の中で列車を襲いに来る野盗はいないだろう。・・フランク以外には。いや、あのフランクでさえこの嵐の中では少しタイミングが悪いだろう。
今夜、嵐が止むまでは襲撃はないはずだ。それでも再び安心して眠りにつくことができないのはなぜだろうか。目を閉じていても不吉な予感はキリキリとウォレスの心臓を冷たい手で掴んでくる。
「汗をかいてるみたいですけど」
ステファンはハンカチをウォレスに差し出す。
「ああ、これはこれは、お構いなく」
「いえ、少し汚れてしまっているけれど」
淑女にもらうハンカチならそっちの方が逆に使いやすい。ウォレスはハンカチを受け取って軽く額の汗を拭った。
「保安官でもこの嵐を不安に思うんですか?」
ステファンは静かに笑いながら言う。
「・・さぁね。嵐なんてこの年まで生きていれば慣れるものさ。でも身体はそうじゃないのかもな。少なくとも女性でありながらも勇敢なあなたとは違うらしい」
「実のところ、嵐は今になって少しだけ怖いと思うようになりましたわ。雨の音も風の音も雷の音も光も実際に近くで感じるとドキドキしているもの。でも、私は作家だから。怖いことでも醜いことでも文章に書き起こして誰かの楽しみになると思えばそれはすべて喜びになるの。本の中にはいつも素敵なことが詰まっているもの」
「それは素晴らしい考えだ。ぜひ君の本を読んでみたいよ」
「ふふ。ほら、これをどうぞ。まだ目的地までしばらくありますし、それにきっと定刻通りには着きませんから」
そういってステファンはビリーの鞄から水筒をウォレスに差し出した。
「いや、いいんだ。そこまで気を使わなくて。それに、弟さんがいないうちに飲むのは気が引ける」
「いいですよ。あの子全然水を飲まないんです。いつもこればっかりだから」
彼女の手には赤い果実が握られている。ビリーの髪の色によく似たみずみずしい果実だ。
「なるほど。では彼が戻ってきたら礼を言わなくてはな」
ウォレスはありがたく水筒を受け取り水を飲む。フローディアの一部の水源から湧くと言われているほのかに甘みがある水だ。シディアの町でも高値で売られているのを見たことがあった。
「これはいい水だな。水に良いも悪いもないとは思うが・・少なくとも俺が子供だった頃は水の存在自体が価値あるものだったよ」
「フローディアの水源がまだ一部しか見つからなかった頃ですか?」
「ああそうさ。今でも野蛮なフローディアがもっと野蛮だった。今この地にいる有力者の親やその親は殺しで得た水源を守って、息子や娘にその地位を与えている。それから水源は増え、まだまだこの地で見つかるらしいが貴重なことに変わりはない。ゆえにそういう人間が減ることは無いがね」
「でも、時代は変わるものですわ」
「その本質は変わることはないだろう。奪い合うものが違うだけだ。その証拠に土地を奪い合っていた西部は今じゃ
「確かにそうですわね。けれど、どこかでその本質が変わるときが来ますわ。それが五十年後か、百年後か・・それは分かりませんけれど」
「そうだといいがね。どのみち俺は明日死んでいてもおかしくない仕事についてる。明るい未来なんて知らないまま死にゆくだけさ」
「・・それはそうなのかも知れませんわね。この地に住む多くの人が歳を重ねないまま死んでしまう。もうすぐ先にあるアカツキを見ないままに」
「・・ちょっとまってくれお嬢さん。今なんて」
聞き慣れない、それでも良く知っている言葉が聞こえたウォレスは彼女に問いかけようとした。しかしウォレスは強烈な眠気と脱力感に襲われて椅子に体をもたげる。
やられた。
後悔が彼の頭で反響し続ける。睡眠薬を使うのはヴィンセントの執事で分かり切っていたことだった。ミスノーバディ、それが目の前に座った女性だとどうして気づけなかったのか。決してありえない話ではない。人に、ましてや女性に何かをもらったのなら警戒すべきだったのだ。
必死に腕を伸ばし彼女の腕を掴もうとしたが指先さえ一ミリも思うように手は動かず深い闇がウォレスを襲う。
「おやすみなさい保安官殿」
闇に突き落とされたウォレスは最後に彼女の言葉を聞く。
カナリアのように繊細で心地よく、蛇の毒牙のように激痛を伴う声だった。
「リックさん、ちょっとした問題があって」
席に戻ろうとするリックの目の前に現れたのは警備会社の人間だった。明らかに自分よりも逞しい彼が普段ボスに仕える自分と同じような態度をとるのがリックには少しだけおかしかった。当たり前か。リックは思う。自分は今誰もが恐れる砂塵のハモンドの代行なのだ。
男は「こちらへ」と言うと足早に客室を抜けて貨物室の方へと向かっていく。ふいに視界に映った自分の席にいたのはおとなしく座るステファンと眠りこけている保安官の姿だった。そこにあの赤い髪の青年の姿はなかったが戸惑う間もなく男についていく。
「それで」リックはできるだけ声を太くしようと一息置いてから男に話しかける「問題って?」
「侵入者です。・・そんな大層なものでもないですが」
侵入者と聞いて急に心臓の鼓動が早くなる。ここにきて厄介ごとが起こるとは。腰に下げた銃を意識せずにはいられなくなった。
「奴がそうです」
男が指し示す先には屈強な男に取り囲まれたあの赤い髪の青年の姿があった。リックはホッと息をつく。
「・・大丈夫だ。問題はない。僕の向かいに座っていた男の子だよ」
「・・なんだ。てっきり俺は外から侵入されたのかと」
「心配ないさ。最初からこの車両にいた。それにこの雨だから外から侵入したらずぶ濡れのはずだろう」
リックは彼に手を差し出して「戻ろう」と声をかける。彼は手こそ繋ぎはしなかったがおとなしくリックの後へとついていった。もうそういう歳でもないか、とリックは思う。彼の見た目はどこか女性的で実際の年齢よりもどうしても幼く見えてしまうのだ。姉のステファンも年齢が分からない。若くはあるが他の若い女性よりも大人びた印象の所為だろう。
「どうしてここに?」
「・・外に出たかったんですけど、車両を移動していたらいつの間にかこっちに来てて」
「そうか。でも今はこの嵐だ。それでも外に出ようと思ったのかい?」
「・・・室内は苦手なんです。窮屈でいろんな人の匂いがする」
そんな回答を聞いてかリックからは乾いた笑いが零れた。彼は自分の幼いころによく似ている。
「分かるなぁ。僕も苦手だった。駅馬車で乗り合いになると少し不快になるんだ。着慣れも見慣れもしない高価なドレスやスーツがこすれあう音とか嗅ぎ慣れない香水の匂いだとか。そういう時は決まって父のコートに鼻をうずめた。葉巻の煙だとか他の人にとっては不快な匂いがしたけど僕にはそれが一番心地よかったんだ」
ビリーは静かに頷いた。小さな明かりに照らされた彼の表情は少しだけ柔らかくなったように見えた。
「僕もさっき外に出たよ。車掌室に続くデッキの方だけど。おかげで少し濡れちゃったけどね」
「・・あなたはどうしてここに?」
リックは一瞬立ち止まる。先ほど自分が彼らに何と言ったか、忘れたわけではない。貨物とは無関係、そう言い切った。そして彼に見せてしまったのだ。警備会社の男に指示を出す姿を。
「ああ・・」リックは自分の中では大きな決断を下す。父にとっては取るに足らないものなのだろう。「ごめん、さっきは嘘をついてたんだ。僕はこの貨物の輸送に関わってる」
「・・・・・・そうなんですね」
リックは次の質問を待っていた。「どうしてそんなウソを?」聞かれるに決まっている。その回答を必死で編み出そうとした。しかし何かを言いあぐねているのはビリーの方だった。
「・・分かるだろう?」リックはつじつまの合うよう続ける「大切なものを運んでるんだ。それを狙っている人間だってこの列車にいるかもしれない。下手に情報を流すのは危険だろう?」
「・・そうですね。でもそれが、例えば俺だったらリックさんはどうしますか?」
「な・・」その一言でリックの口の中が一瞬で乾く「冗談だろう?」
「例えばの話ですよ」
「・・・そういう冗談はよしてくれよ」
リックは手すりに手を掛けて大きく息をついた。その手はこわばり、足は震えている。
「見てくれよ、こんなんなっちゃたじゃないか。・・・向いてないんだ。こういう仕事は。でもやらなくちゃいけない。仕事だから文字通り命に代えてもこの貨物は守らなきゃいけない」
「なら、俺がこの貨物を取りに来たとしてリックさんはどうするんですか?」
「それ・・どうしても答えなくちゃいけないかい?」
ビリーは頷く。興味本位というわけでもなさそうだった。彼は純粋に自分が果たすべき仕事について聞いている。自分が父親の所業を知ったとき「どうしてそうするのか」と聞いた時のように。父から答えはなかった。殴り飛ばされた後でいずれ分かると言われたがそもそも父とは人間が違う。父の出した答えは永遠に分かりそうもない。
「君が僕の障害になるというのなら・・・銃を抜いて・・引き金を引くだろうね。あまり自信はないけど、自信の有無で片付けるべきことではないから」
ビリーは言葉の意味を理解したのかそうでないのか小さく頷くと客室へと戻っていく。
「向いていないのなら、そうするべきじゃない」
去り際、背を向けたままでビリーはリックに言う。
「・・仕事が仕事なんだ。失敗をすれば死に直結する。向いてないと思うなら銃を取るべきじゃない」
「・・・みんな同じことを言うよ。でも、それができるほど器用な人間じゃないのさ。それに、そんな道理が通るのは子供のうちだけだ。大人になればそれは関係ない。君もいずれ分かるさ。それが大人になるということだから」
ビリーはそれ以上は何も言わずに去っていく。彼が何を思ってそんなことを言ったのか、リックに分かるわけはなかった。
豪雨の中、ゆっくりと確実にドルムドへ向かう列車はまもなく給水塔へと差し掛かろうとしていた。
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