10#15センチの風船達よ、死にゆく雌キョンの命に届け。
「カイムさん・・・助けて・・・坊やが・・・」
どたっ。
「ドゥスさん・・・ドゥスさん・・・ドゥスゥゥゥゥーーー!!!!!」
雄キョンのカイムの傍らで、愛する雌キョンのドゥスが息絶えた。
「チクショウ!!チクショウ!!人間め!!『外来種』も『在来種』も関係ねえ!!
何で俺達を生きさせないんだ!!」
雄キョンのカイムは、雌キョンのドゥスが死に際に前脚で指した場所に駆けていった。
「なっ!!?」
そこには、くくり罠にかかった子キョンのピナの姿があったのだ。
「わが子よ!!今助けるからな!!」
雄キョンのカイムは血相を変えて、口や偶蹄で何度も何度も、子キョンを羽交締めにしているくくり罠を外そうと試みた。
カチャカチャカチャカチャ・・・
ダーーーーーーン!!
きゅんーー!!
「いたっ!!」
至近距離から、ハンターがライフルでカイムを狙い打ちしてきた。
カチャカチャカチャカチャカチャカチャ・・・
ダーーーーーーン!!
ダーーーーーーン!!
ダーーーーーーン!!
ダーーーーーーン!!
きゅんーー!!きゅんーー!!きゅんーー!!きゅんーー!!
カイムの身体に、何発も何発も何発も何発も、ライフルの銃弾は撃ち込まれ、まるで蜂の巣のようにダラダラと身体中にカイムの鮮血が流れこんだ。
ダーーーーーーン!!
パァンーー!!パァンーー!!
「!!!!!!」
今度は、死んでいった仲間の角から採った風船の束に銃弾が撃ち込まれ次々とパンクしていった。
「チクショウーー!!もう許さねえ」
バリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリ!!!!!
雄キョンのカイムは、渾身の力で息子キョンのくくり罠を噛み砕いた。
左後ろ脚、
右前脚、
首筋・・・
ぎゅううううう!!
「チクショウ!!取れない!!」
ガリガリガリガリガリガリガリガリ・・・
ダーーーーーーン!!
パァン!!パァン!!パァン!!
「ぐぅっ!!」
銃弾は、耳を貫通して角の風船を3個割った。
「あぶねぇ!!あぶねぇ!!」
ダーーーーーーン!!
きゅんーー!!
雄キョンのカイムのこめかみに銃弾が命中した瞬間だった。
ぷちっ!!
「きょーーーーーん!!」
身体中のくくり罠が外れたカイムの息子は、大きくジャンプすると、追手のハンターの飛び交う銃弾を交わして、草葉の闇の中へどんどん駆けて逃げていった。
「これで・・・これでいいんだ・・・走れ・・・走れ・・・息子よ・・・ピナよ・・・逃げて・・・逃げて・・・逃げ延び・・・」
ダーーーーーーン!!
雄キョンのカイムは絶命した。
ハンター達が、カイムの死体に駆け寄ってきた。
「なんなんだ?このキョンの奴は?!」
ハンター達は、この奇妙なキョンの姿に目を疑った。
キョンの角にくくりつけられた夥しい数の風船の束。
殆どが銃弾に割られていたが、割れずに残った風船は、全部直径15センチに膨らんでおり。まるで死んでいったキョンの仲間の無念の命が宿ったように微風にフワフワと揺れいた。
・・・・・・
「アーメン・・・」
この『外来種』であるキョンの無惨な運命を、崖の上から覗いていた者がいた。
かつて、雄キョンのカイムをからかって喧嘩をおっ始めた『在来種』ニホンジカの『ムウ』だ。
ニホンジカのムウはキョンより遥かに逞しく立派な角には、あの大木から取ってきて自らがパンパンに息を入れて膨らませた赤い風船が結んであった。
ムウの角の風船は、無数に転がるキョンの亡骸を撫でる微風と同じ風に揺れていた。
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