5#在来種と外来種

 「す・・・すいませ・・ん!!」


 「おい・・・御免で済んだらハンターは要らねえんだよ・・・」


 雄のニホンジカは、立派な角を怯える雄キョンのカイムに向けて突き立てて、前肢を威嚇でガシガシと前掻きをしていた。


 「ど、どなたですか・・・」


 「お前みたいな邪魔な『外来種』には教えねえェェェェェェ!!」


 雄シカは、角を奮い立たせて空きだらけのカイムに向かって突進してきた。


 「うぁァァァァァァ!!」

 

 カイムは慌てて頭の角を突き立てた。



 ききーーーーっ!!



 雄シカは、キョンのカイムの目と鼻の先で急に止まった。


 「やーめた!!やーめた!!キョンのちっちゃな角に風船いっぱい付けちゃって、『武装』のつもいかい?

 馬ァァァーーーーー鹿!!」


 雄シカはアッカンベーをすると、ポカン!と雄キョンのカイムを後ろ蹴りしてその場を立ち去ってしまった。



 どさーっ!!


 むにゅっ!!



 パァーーーン!!パァーーーン!!



 雄シカの蹴りは凄まじく、シカより身体の小柄なキョンのカイムは、地面をバウンドして揉んどりうって角に結びつけられた風船の殆どが横になったカイムの重みでパンクしてしまった。


 「・・・・・・」


 雄キョンのカイムは、暫く放心状態だった。


 身体中字だらけのカイムの目から、大粒の悔し涙が止めどなく溢れ出してきた。



 ポツポツポツポツポツポツ・・・



 ザァーーーーー!!



 土砂降りの雨が、傷心のカイムを濡らした。


 ・・・俺は・・・俺は・・・



 ざっ。ざっ。ざっ。ざっ。ざっ。ざっ。



 雨霧の向こうから、誰かがゆっくりとやって来た。



 ざっ。ざっ。ざっ。ざっ。ざっ。ざっ。


 

 「カイムさん・・・カイムさん・・・」



 「はっ!!」

 

 カイムが涙と雨水で濡れた目で見たのは、そこに浮かない顔をした雌キョンのドゥスだった。


 「ドゥスさん・・・探したよ・・・」


 「私も。でも・・・どうしちゃったの・・・こんなとこにずっと倒れたてたら、病気になって本当に死んじゃうよ。」


 「もういいんだ・・・ドゥス・・・ごめん・・・君と膨らませた角の風船が全部割れちゃったし・・・今、『在来種』とか言ってたニホンジカにやられて・・・その時言われたんだ・・・

 俺ら『キョン』は・・・この世に必要の無い・・・消されるべき・・・」


 「馬・鹿ね!!」

 

 ドゥスは傷心のカイムに罵倒した。


 「ほら・・・私のお腹を見て!!」


 カイムはドゥスのお腹が、まるで空気をいっぱい詰め込まれた風船のようにパンパンに膨れあがっていることに気付いてハッ!とした。


 「俺と・・・お前の・・・」


 「そうよ!赤ン坊よ。もうすぐ産まれるの。ずっと貴方の側で産みたかったのに・・・何てこと・・・?!」


 「ごめん・・・俺の角の風船と、お前のお腹のどっちがパンクするかって・・・俺の方が先に・・・」


 「そうじゃないの!!」


 カイムはバッ!と起き上がった。


 「カイムさん・・・風船は、あの木に引っ掛かった風船をまた取ってまた一緒に膨らませば、また元通りよ。でも、お腹の赤ン坊は替えは無いのよ。」


 ドゥスはそう言うと、頬っぺたをめいいっぱい膨らませた。

 

 「ほうら。ここに、風船が無くてもいつもここに『風船』があるし。

 でも、風船は貴方の角に・・・あら、何言ってるのかしら?

 ぷぷっ。えっ・・・と・・・

 私の言いたいのは、早く赤ン坊を産みたいのよ。

 このお腹の『風船』を割りたいの。

 そして、外来種として生きて生きて、生き延びる為に・・・在来種に翻弄されないように・・・ここじゃない場所へ・・・何処かへ・・・って、何処かしら・・・」


 キョンのドゥスはそこまで言うと、目から一筋の涙を流して小雨が降る鉛色の空を見上げた。


「探そう!!一緒に!!ここじゃない何処かへ!!」




 


 


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