6#キョン達の風船

 「その前に、俺の角に結びつける風船が必要だ。」


 雄キョンのカイムは、頬にまだ伝う涙を振り払うと同じく涙目の雌キョンのドゥスを連れて、あの枝に風船がいっぱい引っ掛かっている木の側に行った。


 「あら・・・おっと!」


 「ドゥスさん。お腹に赤ン坊がいる身重なんだから、無理しない方が。」


 「ありがとう。優しいんだね、カイムさんは。」「いや其ほどでも?」


 それから、2匹は歩いた。


 歩いて、歩いて、

 歩いて、歩いて、


 やがて・・・


 「あ、着いた・・・あれ?!」 

 

 「どしたの?カイムさん?!ええええっ?!」 


 2匹は唖然とした。


 仲間の雄キョン達が、次々と木に引っ掛かった風船をよじ登って取っては、吹き口を偶蹄でほどいて口で息を入れて膨らませては、また吹き口と紐を結んでは、仲間や番の雌に頼んで角に結んでいたのだ。


 「よおー!!カイムリーダー!!」


 1頭の雄キョンが顔や耳が見えない位にいっぱい角に付けたカラフルな風船を揺らして笑いかけてきた。


 「ハイヤ、『リーダー』って・・・俺が『リーダー』?」


 カイム達のリーダーのキョンは、だいぶ前に仲間のキョンを庇ってハンターに角を立てて突進していって、文字通り『玉砕』されて命を絶っていた。


 リーダー不在のままだった為に雄同士がリーダー争いに、明け暮れてたのにいきなりカイムがリーダーにいつの間にか昇格されて、カイムは心の準備が出来てなかった。


 「カイムよお、何で俺が『リーダー』かって?決まってるじゃん!!お前の角に結びつけられた風船さ。あれ?風船は?」


 「全部通りすがりのニホンジカに割られた。」


 「くそっ!!『在来種』が生意気に!!」


 キョンのハイヤは、くっ!と悪態をついた。


 「で、カイムリーダーが風船を角に付けたのは、皆の解釈では人間に連れられて『外来種』である俺達キョンと、人間に飛ばされて木に引っ掛かって『ゴミ』になった風船との共通点から、『ここにキョンありき』アピールの為の意思表示なんでしょ?

 俺はもそうさ。皆カイムリーダーに影響されて角に風船を付けてるんだ。」


 ・・・何だか引き返せない状況になっちゃったなあ・・・


 部下キョンのハイヤは、勢いよく木に向かって飛び出すと、ぽーんぽんぽんと引っ掛かった風船を外してきて、カイムの側に置いてきた。


 「にしても不思議だな。一律15センチになった風船がこの木に引っ掛かってるってことが。」


 ハイヤは、偶蹄で取ってきた風船の1個の吹き口をほどいた。


 「あんた、待って!」


 雌ドゥスは、ハイヤが風船を膨らまそうとしたのを引き留めた。


 ハイヤは、その雌キョンのお腹が今にもパンクしそうにパンパンに大きく膨らんでいるのを見付けてハッ!とした。


 「これ・・・まさか、カイムさんの子?」


 「ええ、そうよ。」


 ハイヤは慌てて雌キョンのドゥスの口に風船を押し付けてこう言った。


 「ひーひーふーで膨らませてみ?」

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