タイムアタック童貞卒業ゲーム!

ちびまるフォイ

いそげ!ゲーム完全クリア!

「夜は長いですわ。夜が明けないうちにゲームを1本クリアしたら

 あなたの童貞を卒業させてあげてもよろしくてよ」


「マジか!!!」


男は部屋にあるRPGソフトを床に並べた。

どれがもっともはやくクリアできるだろうか。


「ポケモソが一番早いかな……いやでも、

 クリアが図鑑完成までといわれれば一番長くなるし……」


「早く決めないと、童貞卒業の時間もなくなりますわ」


「わ、わかってるよぉ!!」


最速でクリアするなら、手順や道がわかっているゲームだ。

男はすりきれるほどやった初代ドラタエをセットした。


「最速でクリアしてやる……!

 一気にクリアして、大人の階段もレベルアップだ!!」


男はゲームをはじめるや、会話などをすっとばしレベルを上げる。

ゲームオーバーはタイムロスにつながる。


「よし、ここで一番経験値効率がいいのは……」


「すごい執念ですわ」


女が横であきれるほどに、男はこれまでのどの冒険よりも

熱い情熱をコントローラーにぶつけていた。


レベルが一定まで上げ終わると、町から町へ最短距離で移動する。


場所も仕掛けもすでに把握しているイベントをサクサクこなしていく。


「よしここもOK! あとは、雷ぐものつえと

 勇者のしるしを集めて魔王城にいくだけだ!!」


「夜も深まってきましたわ」


男は窓から見える外の風景で夜が折り返し地点に差しかかったのに気づく。

外は平和そのもので静かだが、男の世界はまさに修羅場。


『***

 勇者よ! ではこの虹の架け橋を持っていくがよい』


ついに最終アイテムを勇者は手に入れた。


最初に上げ切ったレベルでもすでにぎりぎりの水準。

魔王に勝てるかどうかは出たとこ勝負だ。


「どのみち魔王とは一発勝負……!

 勝てば童貞卒業、負ければ残り時間的に再挑戦はない……!」


男は魔王城に乗り込んだ。

時間節約のためにダンジョンにある強い武器は拾えない。


まっすぐ魔王の玉座のもとへと急ぐ。



『よくぞきたな 勇者あああよ。だが...』


▷はい


『あくまでも戦うと...』


▷はい


『世界の半ぶ...』


▷いいえ


『お前はなし聞いてないだ...』


▷はい



魔王との最後の質問を最速で入力してバトル開始。


「童貞卒業……童貞卒業……」


「必死ですわね」


「あたりまえだろ!!」


魔王戦以上に高まる緊張感を押し殺しながら最適な選択を行っていく。

そして……。



『まおう バルサミコ を やっつけた!!』



「うおおお!! やったやったぁぁぁ!!」


男はジャンプしてすぐに服を脱ごうとしたが、女はそれを止める。


「まだエンディングに入ってないですわ」


「それもカウントするの!?」


すでに夜も終盤にさしかかっている。

男は急いで魔王から救い出した姫をお持ち帰りする。


宿屋で一泊してから城に連れ帰り王様からありがたい説教を聞いてエンディング。


「これで終わった!! ゲームクリアだ! 間に合った!!」


「まだスタッフロールが来てないですわ。

 エンドの三文字を見るまではクリアとは言えませんわ」


「えええええええ!?」


男はスタッフロールでありとあらゆるボタンを連打する。


「ちくしょう! これ飛ばせないパターンのやつか!!」


スタッフロールスキップがないパターン。

やきもきしながら、窓の外とゲームの画面を何度も見比べる。


「早くおわれ……早くおわれ……」


スタッフロールも最後にさしかかると、

偉い人の名前が妙に広いスペースを取られて表示される。


「くそ! そういうのいいから!! 早く終われよ!!」


今にもリセットボタンに手を伸ばしそうだがぐっとこらえた。

やがてゲームのタイトル名が表示され、



FIN



「終わったぁぁぁぁぁ!!!」


男はかつてないほどの感動を体全体で表現した。


「これで文句はないだろう!? 完全無欠、どこに出しても恥ずかしくない

 まごうことなきゲームクリアだ!!」


「ええ、そうですわ。約束は守りましょう」


「待ってましたぁぁぁぁ!!!」


男は目をハートにして喜んだ。


 ・

 ・

 ・


朝になり、男と女は部屋から出てきた。


「ゆうべはおたのしみでしたね」


宿屋の主人は部屋から出てきた勇者と姫に笑いかけた。

けれど、勇者のうかない顔が気になった。


「どうしたんです?

 勇者さんはゲームをクリアして、童貞卒業なされたんでしょう?」


「いや……」


「そんな! あれだけ必死にゲームをクリアしたのに!」


宿屋の言葉を聞いて勇者はぶちきれた。




「なんでこの世界は、部屋に鍵という概念がないんだ!!

 みんな自由に部屋に入ってくるから卒業どころじゃなかったわ!!!」


勇者はそう吐き捨てて、姫とともに城へと帰っていった。

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