第29話 数字(2)

 どうやら数字はランダムに表示されているらしい。十数枚になった画像を元にピコに透明度の分析を頼んだ結果でた結論だった。数字の配置はもちろんのこと、透明度もその時々によって違うのだと言う。つまり、透明度による数字の組み合わせがいく通りかあることになる。

『あとはそうですねー、最大桁数が10桁というところでしょうか』

「10桁? 8桁が最大じゃないのか?」

『どうやら、点滅している数字があるみたいなんですよねー』

「点滅?」

『はい! 数字が表示されるのは一定時間ごとなのですが、数字が表示されて消えるまでに、透明度が80になった後、82-90の間に変更されているものがあるんです。除外されているものが、透明度80以下の数字と仮定した場合での話ではありますが』

「そうか。ありがとう」

『どういたしまして! 礼斗さんは何か気づいたことないんですかー?』

「10桁あるなら、もしかしたらコンビニプリントとかかもしれない。その数字、切れ目とかないんだろ?」

『数字の配列を気にしない場合に限られますが……』

「その可能性があったか……」

『切れ目があった場合は何か他に心当たりが?』

「座標か、何かのパスワードかなと」

『なるほど! でも、それは可能性低いと思います。例えば、座標かつ数字の配列を考慮する場合、点滅している箇所を含めるとおかしな数字になりますから。それに、変化の中央値から1パーセントずつ増減している理由を説明できません。ですから私は数字の配列はミスリードするためじゃないかと考えます』

「そうか……ピコ、真面目に考えることもできるんだな」

『当たり前じゃないですか! 私、これでも最新のサポートAIですよ!』

「そうだった」

頰を膨らまして反論するのが、可愛くついからかいたくなってしまう。

 なら、仮にコンビニプリントの類だったとして、正しい数字の配列を見つけなければならない。おそらく1パーセントずつ差をつけているのは、正しい配列にたどり着きやすくするためなのだろう。とすると、昇順か降順かの2通り、さらに中央値の値をどちらにするかの計4通りになるはずだ。だとすれば、然程大変な作業ではない。一番の問題はどこでプリントできるのかということだ。大手のコンビニならどこでもいけるのか、特定のチェーンでしか印刷できないのか、それが問題になる。極力無駄なことをしたくない。もう少しヒントがあればいいのだが。

 そう思い、数字の話題で持ちきりの掲示板を開く。名前をつけることを要請されたので、適当に透明度と名乗っているが、なんだか変な感じがする。

『数字調べてたら、俺のAIも死んだ』

『>>透明度 お前、まだAI生きてるか?』

「生きてる」

『帰ってきたー! どうだったんだ?』

「俺のAI曰く、最大10桁、最低8桁らしい」

『まじかよ。もう少し絞れたらよかったのに』

『俺のAIもそれ言ってる』

『じゃあ、桁数は固定か? 他に調べた奴いねーの』

他にも数人、調べた人間はいたらしく同じ桁数だったという答えだった。中には人力で調べたという強者もいた。

「コンビニプリントの番号とかじゃないかと思ってんだけど」

『コンビニプリントか』

『海ばっか出てくる座標より有力だろ』

『確かに、どんだけ調べても関係なさそうな場所ばっか出てくるからな』

『透明度はコンビニ行って見たのか?』

「まだだ。これから行こうかってとこ」

俺がそう書き込むと『報告待ってる』という書き込みが続いた。

『これは、完全に礼斗さんが行く流れですねー。いいじゃないですか、とりあえずいちばん近いところに行って試してみれば』

「そうだな」

俺はそう行って財布をポケットに入れ、自宅近くのコンビニに向かった。

 結果的には、プリントできた。五種類ほどの数字の中から印刷できたのは最初にスクリーンショットを撮影した数字だけであった。配列は、透明度の低い順に並べた「34965120」だった。他に割り出した数字の配列はダミーということだろうか。それとも、他のコンビニでプリントできたりするのだろうか。出てきたA4サイズの用紙には文章が印刷されていた。1000文字前後と言ったところだろうか。今はそれをテキストデータにしたものを読んでいる最中だ。しかし、俺には日記のように綴られたその文章に込められた意図がわからない。おそらく、何かしらの思いがあってこれを入れたのだろうが、意味がわからないし、読み物として面白くもない。ただそれでも、この文章を読まされている——それも、流し読みではなく一字一句見落とさぬように——のだから、書き手の思惑通りなのかもしれない。

 俺はこの文章と写真を掲示板に書き込む。そこには、印刷に成功した数字と印刷できなかった他の数種類の数字を添えて。

『なんだこれ』

『苦労して出てきたのが、思い出話とか』

案の定、意味がわからないと言ったようなレスがついた。

『けど、これでコンビニプリントの数字ってことで確定だな』

『だな。俺ちょっと印刷してくるわ』

『俺も行ってくる』

いくつかそう書き込みが続いた。掲示板の人たちは、文章が他に読み方ができないか検証しているようだ。最初はあまりにくだらなすぎて縦読みかとも思ったが、文章に縦読み特有の気持ち悪さがなく、普通に横書きの文章として読んだ。二度読みきった俺の感想は、この文章の人物が今回AI乗っ取りのアドレスを拡散させた張本人もしくは、作者かもしれないということだった。だとしたら、他にも似たような文章があるはずだし、引き続き撮影をピコに頼まなくてはならない。

「ピコ、スクリーンショットの件、まだ続けれるか?」

『…………』

応答がない。

「ピコ?」

『…………』

やはり、応答はなかった。表示が切れているわけではないから、こちらからの指示を認識していないのか、それとも意図的に無視されているのか。もしくは、掲示板の人たちが言っていた、「AIが死んだ」という状況なのだろうか。この瞬間、俺はとてつもない不安に襲われた。

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