第4章 もう一人

第22話 待ち合わせ

 カウントダウンは始まっていたのかもしれない。


1

 暗い部屋で見つめるモニターに表示されたテキスト。AIの暴走と書かれた見出しは、私の興味を引くには充分だった。どうやら、高速道路で玉突き事故が発生したらしく、最初に事故を起こした運転手がアイチップのAIをナビゲーションAIとして登録していたのだと言う。彼は長期の出張から自宅に帰る途中で、気がぬけた瞬間、急に自動車の速度が上昇し前を走っていた自動車と衝突したのだそうだ。作用するはずの自動ブレーキ・自動運転が作動した痕跡がないことから、ナビゲーションAIの暴走ではないかと言うことだった。もしかしたら、アイチップやAIの規制が進むかもしれないが、どう世論が動くのか。好奇心に狩られた私は、SNSでこの件について検索をする。いくらかはアイチップやAIに関する否定的な意見もあったが、それ以上にこの事件が規制に繋がらなければいいと言う声だった。もし、この事故が我々の成果であったなら、死者が出ていないことだけが、幸いなのかもしれない。そう安堵している自分に少し違和感を感じた。

ピピピピピ。

携帯電話に着信が入る。表示された名前に少し身構え、電話を取った。

「もしもし」

『よかった、出てくれた。もう私からの電話には出てくれないかと思っていたよ』

かつての上司の声だった。

「何かご用ですか?」

『冷たいねえ。まあ、いいや。あれからどうしているんだい?』

「家にいます。仕事は探してるんですけど、なかなか見つからなくて」

適当に、無難にそう答える。もちろん、仕事はまだ探してなどいない。計画を実行するための準備に忙しかったものだから。そして、今はこの行く末を見ずにはいられないのだから。

『もしよかったら、コーディネーターをしている友人が人を探していてね。よかったら、あって見ないかい? 詳しくは、私も聞いていないのだけど』

彼には、会社を辞める時にもいくらか世話になっている。仕事をするかどうかは別にして、一度会うぐらいならいいかもしれない。

「わかりました」

『よかった。それじゃあ、急で悪いんだけど、明後日の夜とか大丈夫かな』

「はい。もちろんです」

『じゃあ、明後日の夜8時ぐらいに。場所は……いつも飲みに行ってたあの店で』

「わかりました。明後日の夜8時ですね」

そう言って、電話を切る。よかった、まだ彼女のアイチップにあれを仕込んだことはバレていないらしい。私は、携帯電話を机の片隅に置くと、再びモニター画面を見つめた。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る