第15話 記事(2)

 昼間のブログを開き、記事を読み直す。書いてあることは特に代わり映えはしないのだが、「オーダー製のアイチップ」と言う言葉に引っかかりを覚える。ゆりあさんは自身のアイチップがプロトタイプなのだと言っていた。それは、つまり彼女に合わせて作られていると言うことだ。もちろん、フルオーダーのように唯一のものとは限らないし、彼女が感染源となっていると言う結論に落ち着くにはいささか強引ではある。しかし、その結論がどうしても拭えないのは、あの時の彼女の雰囲気が原因なのだろうか。

『それは、単純に心配しすぎてるか、彼女が原因だった場合、礼斗さんがヒーローになれるからじゃないんですかー』

ピコが呆れたように言ってきた。

「声に出てたのか?」

『それはもう、はっきりと』

「最悪」

『それは、私に聞かれたことがですかー?』

「そうだよ」

『なら、表示切ったままにしておけばよかったじゃないですかー。部屋に入るまで私のこと忘れてたくせにー』

ああ、拗ねているのか。いつも以上に早口で文句を言う。学食でブログを読んでいる最中に非表示にしたっきり——特に困ることもなかったから——ついさっきまでピコの表示を切ったままにしていた。それですっかり拗ねてしまったのだろう。

「それは、悪かったな」

『別にもういいですよーだ』

左目の下に人差し指を当て、舌を出す。おそらく、機嫌は戻っていないのだろう。ガサゴソと何やら箱を漁ったかと思うと、買った覚えのない器具を取り出してきた。しばらく、そのモグラ叩きに似た装置で遊ぶと、満足したのかタオルで汗を拭う動作をする。

『これですか? 気になりますか?』

「ああ」

『デフォルトで搭載されている、AIストレス発散用拡張セットです。「パボ・レアル」のモニター特典ですね。他のアイチップでは作動しません』

なるほど。どおりで買った覚えがないわけだ。

「他にもあるのか?」

『いくつかありますが、礼斗さんには内緒ですー』

どうやら教えてくれるつもりはないらしい。俺は諦めて、ブログを視界の中央に持ってくる。胡散臭いものなのには変わりはないのだが、この機会に他の記事も見てみようと思ったのだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る