第9話 デート(2)

 帰宅して一息つくと、自室でピコを表示させる。

『今日のデートの報告ですか? わざわざ、教えてくださるなんて、なんて親切な!』

呼び出すなりテンションが高い。もう少しどうにかならないものなのだろうか。

『礼斗さんがご所望でしたら、先代AIに戻せますよ?』

「いや、それはいい。折角だし」

それに、俺は前のAIがいいなんて一度も言って……いや、何回か比べてるな。それを学習しているのか? 気をつけよう。

『礼斗さんから、ご指名いただきましたー!』

ああ、この時間でもそのテンションで、踊るのか。今更気にするだけ無駄だとわかってはいても、気になってしまう。

「聞きたいことあるんだけど、いい?」

『はいはい! なんでしょうか!』

「AIがあいチップの使用者の指示無視することってあるのか?」

『昼間の件ですね! あります』

「あるのか」

『はい。ですが、いくつか条件があります。セキュリティや犯罪防止の観点から全ては開示できないのですが、そうですね……。AIの学習履歴にそぐわない、突発的な行動であったり、その行動要因が犯罪……詐欺などと断定できる場合は再度の確認や、実行不可のシグナルを出します。AIがその指示を出した場合、同一案件と考えられる状況での手動操作は全て不可とされます』

珍しく真面目な表情で台本も持たずに答える。基本設定に含まれる事項なのだろうか。

「なるほど。なら、昼間みたいなことは起こらないのか?」

『そうですね、共有の強制切断に関してはいくら内容がわからないとは言え、AIが独断で実行することはできません』

「となると、ウィルスか遠隔操作の類だと考えるのが妥当なのか……?」

『私は、そう考えますが』

「なるほどな。ありがとう参考になったよ」

『彼女の助けになりたいとか思ってるんですかー?』

「悪いか」

『いえいえ、良い傾向だと思います! アドバイスをくださったご友人も浮かばれるかと』

「そうか」

お気に入りなのか、いつものカフェセットを取り出してくる。

『それ、新しいのに変えるか?』

「これでいいですよー! あ、でもこのケーキの拡張パーツは欲しいです! 同じもの食べるのも飽きました」

「じゃあ、今度買っとくよ」

『わーい! ありがとうございます! でも、なんですか、突然優しくされると戸惑います』

「普段優しくないみたいな言い方」

『礼斗さんって結構ぶっきらぼうなところあるじゃないですかー』

「そうか? そんなことないと思うけど」

『自覚ないだけでそうなんですよー!』

ピコは頰を膨らましながらそう言った。

 しかし、AIが使用者の指示を聞かないことがあるというのは意外だった。ピコの口ぶりからしてよっぽど限定的な場合なのだろう。それもそうか、今のゆりなさんのように、AIが言うことを聞かない状況が続けば、日常生活に問題が起こる。

『それで! あの後、何があったんですか!』

「駅ビルぶらぶらしてご飯食べて帰ってきた。以上」

『もっと、何かないんですかー! 絶対それだけじゃないと思うんですけどー! 何やら、見覚えのないコードホルダーが机の上にありますし』

「あ、忘れてた。管理アプリに登録しといて」

『了解ですー! もしかして、ゆりなさんとお揃いとかですかー?』

ニヤニヤしながら、持ち物管理アプリにあのリンゴの芯を登録する。

『商品名「コードホルダー:リンゴ芯」で大丈夫ですか?』

「よくわかったな」

『そのお店、通販サイトあるみたいで登録されてました!』

「AI誤作動 アイチップ 掲示板で検索」

『了解ですー……こちらが、検索結果になります』

ピコが表示させたウィンドウには、検索結果のスレッドが並ぶ。直近の日付にしても一年以上前。最近のものは見当たらず、俺はいくらか掲示板やまとめサイトを巡りその日は寝ることにした。

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