セックスボランティア奮闘記

第23話 ティナのセックスボランティア回顧録


障害者デリヘル・奮闘記録



 ボランティアの柚木莉緒さんは日中伏見さんのボランティアに参加し、夜間は障害者専門デリヘル嬢〝ティナ〟として活躍している。ティナさんの登録しているデリヘル事務所が本格的に障害者向けサービスを始めた頃、伏見さんは公演先で、会社の名前こそは出さなかったものの、『そういったサービスもある。』と言って回ったおかげで、そのサービスはあっという間に軌道に乗った。

そして多忙を極めるにもかかわらず、時として彼女と明け方、僕と居酒屋で朝まで飲み明かす。いったい彼女はいつ寝ているのかわからない彼女だが、『いつ動けなくなるかわからないんだから、動けるうちに動いておきたい。万が一、それで体を壊したのなら、それから寝たきりにでも何でもなればいい。きっとそのころには〝ツテ〟もできているだろうから、どうにか生きていけるだろう。』なんて言っていた。

そんな彼女の障害者デリヘルの体験談は時として我々ボランティアのあり方を問うエピソードがある。そんな彼女の体験談をいくつか紹介しておこう。




 アタシの所属する事務所が障害者専門のデリバリーヘルスを開始して、すぐに顧客登録してくれた常連のお客様があった。年齢は20歳で重度の知能障害患者である。自らの意思でセックスをするのは難しく、やり方を教えながらする必要があるが、体自体はいたって健康体。初めのうちは戸惑ってこそいたものの、やり方を覚えるときゃ!きゃ!と声を上げながら喜び、時間の許す限り何回でも抜こうとしたがる。サービスの時間が終わって、まだ元気がある時など大声を上げて泣き、仕方なしに親が延長を申請することがある……

 彼自体は特別な顧客というほどではない。もっとも特別に思えたのはその母親だった。


 若くして、勢いで出来ちゃった結婚をした母親。息子に重度の知能障害があると判明した時、父親はすぐさま行方をくらましてしまった。親の反対を無理やりおしきり、家出するように結婚した彼女は実家に頼ることを良しとせず、女手一つ息子を育てることを選んだ。施設を利用しながら風俗で生計を立てた彼女は一般の母親より性の理解がある。サービス開始と同時に登録した彼のお宅に初訪問した時、母親から熱いもてなしを受けた。

「ずっとこういうサービスを心待ちにしていた。」と感謝された。聞けば彼女。障害者の心のケアに最も有効なのが性行為だという情報を聞き入れ、ずっとどうしようかと迷った挙句、息子の姓の処理をしてあげることにした。事実、障害の子を持つ母親が息子とセックスするということは意外と多くあるらしい。そのことで心の安定を産み、ストレスから解放されるのだという。

だがそれは障害を持つ患者のこと。

実の息子と交わる母親の精神は罪悪感にさいなまれ、精神を病むことも少なくない。それは風俗という職業を選んだ彼女にしても例外ではなく、かといってヘタに他人にお願いすることも難しい。だからこうしてお金で関係を持ってくれるサービスを歓迎してくれた。


もちろん、家族に歓迎されてサービスをするというのは悪い気分はしない。こちらとしても変に隠れたり引け目を感じる必要もなく、何か不都合があった時にも相談しやすい。だが、あまりにもあけすけなのかもどうかとは思う。ある日その母親は、

「どう? 最近うちの孫の様子は?」

 と聞かれ、一瞬何のことを言われているのかわからなかった。少し考えて……ああ、なるほど、息子のムスコで孫か……と、理解できたもののどう返事をしていいのかどうかわからなかった。

「ええ、そりゃあもう元気ですよ」

 と、話を合わせては観るものの、調子に野田母親はこんなことを提案してきた。

「ねえ、いっそのことうちの息子のお嫁さんになってくれないかなあ。ひとり息子の母親としてはやっぱり自分の死んだあとのこの子ことが心配で…… いえ、結婚までしてくれなくてもいいわ。たとえばこの子の子供を産んでくれる女性はいないかしら。この子の代で一族も終わりかななんて思うとなんだか切なくって…… かといってもう一人子供を産んでその子に……っていうのもやっぱり違うと思うのよねえ。

 ほら、そういうサービスって今後出来たりしないのかしら? もし、できるのならあたしもいくらお金を積んでも惜しいとは思わないわ…… とは言ってもそんなお金なんてあたし持っていないから、もしもできた日のことを考えてどうにかして稼がなくっちゃね。あたしもまた風俗の仕事始めようかしら」


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