第22話 障害者専門デリヘル業


障害者専門デリヘル


 

 ティナ…… いや、柚木さんのケアは完璧だった。彼女のケアは丁寧で、しかも愛があった。元々彼女がケアしていた相手は実の父親だ。所詮僕たちがいくら親身になってサポートしていたとはいえ、やはり本質的にケアに関する考え方が違っていたのだと痛感させられた。彼女のおかげで他のボランティアの行うケアも随分と改善された。

 しかし、彼女の親切なケアはいいことにばかり作用するというわけにはいかなかった。ある日、伏見さんはひっそりと僕に囁いた。

「なあ、さすがに莉緒ちゃんにデリヘルはよう頼めんわー。なんか情が移り始めて、お金でどうこうって、そんな気持ちようなれんなってしもうた。他に頼める娘っておらんのやろかー。」


 たしかにそれは一理ある。さすがにプライベートでよく知った女の子にお金を払ってさせてもらおうていうのはさすがに僕もできないと思う。僕はこのことを柚木さんに相談してみた。数日たって「どうにかなるかもしれない。」と彼女は言ってきた。詳しく話すからと呼び出されたのはやはりあの居酒屋だ。


「あのね、たかし君。例のことの件なんだけどね。アタシ一人で対処するには無理があるかもって思ったから思い切って事務所に相談してみたの。まあ、それでいつもアタシを指名してくれているお客さんの〝伏見さん〟についても説明する羽目になって正直に説明したの。そしたらね。」

「そしたら?」

「うん、そしたら結構みんな乗る気で社長なんか『そうか、そこは目の付け所がいい。』なんて言い出して、うちの事務所でも障害者専門のデリヘルを設立することになったのよ。まず、障害者の顧客は個人情報を申請して会員登録してもらうようになるの。これは顧客の障害の種類や症状を理解して事前にサービスの準備ができるようにしないとトラブルの原因になるかもしれないから必要なの。」

「確かにそれはそうだな。もちろん顧客の個人情報は秘密厳守なんだろ?」

「それはそう。もちろんサービス業だからそれは常識よ。いくら風俗業とはいえ、むしろ風俗業だからこそそういった信頼は絶対だから。」

「うん、それならいい。」

「それでね、登録しているキャストはケアの訓練を受けて、そのレベルに応じて対応できるお客さんの種類が変わるようになるんだけど、さすがに伏見さんは障害者レベルが高いと判断されるから、伏見さんに対応できる女の子が育つには少し時間がかかるかもしれない……

 あと…… それにこれは言いにくいんだけど……」

「料金の問題?」

「うん、そう。やっぱり特別に顧客リストの管理や社内で訓練を受けなければならないし、その分キャストが受け取るギャラも高くしないといけないから、費用が掛かる分料金も少し高くなるとおもう。」

「まあ、それは仕方ないんじゃないかな。でも、そのおかげで障害者の人たちが安心してサービスを受けられるようになるのならそれもいいんじゃないのかな? 上手くいけば伏見さんがいろいろな公演でそのデリヘルサービスの広告をしてくれるかもしれない。」

「そ、そんなことしてだいじょうぶなの? そんなことすれば伏見さんがそういうサービスを受けているってことがばれちゃうんじゃない?」

「ばれていいんだよ。」

「いいの?」

「それがアイツの本懐さ。そうすることで世の中の障害者たちが自分の意思でやりたいことを選べる世の中にしたいと思っているみたいだし…… いや、違うかな。たぶんアイツが考えているのは障害者が自分のことを障害者だと考えなくていい世の中をつくろうとしている……まあ、そんな感じかな。」

「うーん、なんかすごいのね。伏見さんって。」

「そりゃそうや! なんせボクはカリスマ障害者やからね!」


 ―――なんて、ちょっと伏見さんのものまねをしてみた。割とうまくできたので持ちネタにしようと思う。


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