第12話 くだらない喧嘩
ボランティアやヘルパーだって人間。腹の立つことはある。多くのボランティアは伏見さんの横暴な要求に対しじっと我慢をしている。しかし崇さんはその点が違う。腹の立つことに対しては文句も言うし、納得できないなら喧嘩もする。
……とまで言ってしまっては買いかぶりすぎかもしれないが、こんなことがあった。
夜間。ボランティアに伏見さんの家に行ったとき、(当然家に鍵はかかっていないのでそのまま無言で入る)部屋の中から何か言い争いをする声が聞こえる。
「バーカ。死ねよ!」
崇さんの叫ぶ声が聞こえる。ほとんどボキャブラリーが幼稚園児並の罵声だ。あれで作家になりたいというのだからお笑いだが、たいして反論する伏見さんもどうかと思う。
「うるさい。そのうち死ぬわ! 何だったらお前がケアの手を抜いただけで死ぬわ! それで死んだらお前のせいだからな。そしたら化けて出てやる! そのくらいの権利くらいボクにはあるやろ!」
「うるせー、化けて出てきたところで怖くねーんだよ。どーせ寝たきりのユーレイだろ。そんなもん怖くもなんともねーよ。なんにもできねーって!
あー、そーだそーだ。あんたユーレイになったら触れねーからオレ、介護のしようがねーわ。お前やっぱりユーレイになってもすぐ死ぬわ!」
「はあ? あほとちゃうか? 幽霊は死ねへんのや。それに幽霊になったら宙を浮いて移動するから手や足が動かんくても自由に動けるんや!」
「まじか?」
「いや、知らん…… でも、ひょっとしたらそうかもしれんな。……んー、まてよ。っていうことは死んだら自由? ほな、死ぬってのもアリっちゃあアリなんかな?」
「しらねーよ。いっぺん殺したろーか、そしたらわかるだろ。」
「はー? なんやてコラッ! もういっぺんゆーてみーや!」
「まあまあまあまあ。」
見るに見かねて仲裁に入った。―――で、なにがケンカの原因だったかというと、
「こいつがな、冷蔵庫に入れてあったボクのプリン食べたんや!」
「はあ? あれは涼子ちゃんがオレのために買ってきたプリンなんだよ。大体あんたは昼、涼子ちゃんと二人で一個づつ食べただろ! 三つ入りのプリンなんだから最後の一個はオレのだろ。」
「ちゃうわあほ! なに勝手に決めてんねん。一つを涼子ちゃんが食べて、残りの二つは両方ともボクのや! 涼子ちゃんはボクのためにプリンを買ってきたんや!」
―――って、子供かこいつら!
とはいえ、なんだかんだで喧嘩のできる二人の間柄は羨ましい。
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