第7話 ミステリ小説とか特に読まないけど、自分自身をそういうシチュエーションに置くと人気なのは理由があるもんだと思っちゃうね
ヒロちゃんを全面的に信用するわけじゃないけれども、面白そうなので実行してみることにした。幼なじみたるヒロちゃんが、高校生には分不相応な小洒落たカフェで教えてくれた彼のミステリ小説ばりの推理。以下、列挙。
①ミスミがセエトと出会ったのは夏服への衣替えの後。男子高校生は上着を着ず、白のワイシャツだけなので、どこの高校か特定できない。
②一部ワイシャツの襟に穴を開けて校章バッヂをつけるよう指導している高校もあるが、そんなものは例外。
③セエトはミスミに「かわいい」とか、「結婚するならミスミだな」とかいう赤面ものの発言を繰り返しており、明らかに好意をもっている。
④それにもかかわらずに電話番号やメアドどころか、姓すら名乗ろうとしない。
⑤実はセエトはミスミのとても身近な所にいるのではないか。そして自分がどこの誰か知られると気軽に喋れなくなるような立場の人間。
⑥仮説。灯台下暗し。
そんな訳でわたしは自分の通うこの高校の1年1組から順に物色し始めた。
「セエトくんって、居る?」
「セエト?」
わたしは生徒会で顔を見知っていた1年1組の女の子に訊いてみた。
「すみません、先輩。何、セエトくんですか?」
「ごめん。姓はわからないんだ」
「うーん。出席簿には下の名前とか書いてないので・・・災害緊急連絡網とか見れば出てると思うんですけど・・・」
「ごめんごめん。もし何か思い出したら教えて」
「はい」
こんな調子で順番に1年5組まで来た。
とうとう最後の1年6組だ。
「セエト、ですか?」
「うん」
わたしが質問したその男子はくるっと振り返ってでかい声を出してくれた。
「おーい、この教室に『セエト』って奴いないかー!?」
「ちょちょ」
少しだけわたしは慌ててみたけれども、まあ、一番手っ取り早い方法ではある。
「いないみたいですね」
「ごめんね。ありがと」
「いいえ」
わたしは立ち去ろうとして、何か教室の風景に違和感を持った。
なんだろう。
横に並べた2枚の絵の間違いを7つ指摘しなさい、というようなクイズ番組の光景が脳裏に浮かんだ。
そういえば。
ぼうっと教室の全体を俯瞰すると、明らかに不自然な容姿をしている者がこの場にいるような、そんな感覚がぼんやりと湧いて来た。そして、それは確信に変わった。
教室の出口あたりに自然さを装った不自然な動きをして移動している男子生徒が1名、目にとまる。
別に特別目立つ訳じゃない。ごく自然な髪型にやや猫背のごく普通の高校生男子。
ただ、どういうわけか、そのメガネだけが異物にしか見えなかった。
「あ」
「あ」
目が合った。
「逃げた!」
わたしはまるでアニメか小説のような勢いでダッシュして逃走する男子を、わたし自身もアニメか小説のように追いかけた。
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