第4話 幼なじみ、っていう属性は結構最強だよね

今日は珍しく図書館へは行かない日だ。理由は一応ある。


「ミスミ、久し振り」


わたしの目の前に、見慣れた男子が立っている。


「ヒロちゃん、久し振り」


似たような挨拶をお互いに交わす。わたしと彼とはいわゆる幼なじみという間柄だ。学年も同じ。けど、小5の時にヒロちゃんは隣の市に引っ越して行ってしまった。

それ以後の久しぶり、という訳じゃなくって、お互い高校生となり、学校は別々だけれども、予備校の夏季講習の時期になると毎年同じコースで顔を合わせるようになった。


「ヒロちゃんもわたしも昔から算数苦手だったもんね」


2人は数学の夏季集中コースで同じになる。今年もそうだ。まだ梅雨は明けないけれども、プレ講習という名目で今日からコースが始まった。これから夏の間、ヒロちゃんとは週2で会うことになる。


「受験だね」

「うん。やんなるね」

「でも、ミスミはやりたいことあるって去年の夏に言ってたよね」

「そうだよ。結構本気で差別問題の研究やろうって思ってるよ。ヒロちゃんは?」

「僕は地震学の研究やりたいんだよね」

「え? 地震学?」

「うん」

「なんで?」

「人を救いたいから」

「地震の予知とかして?」

「それもまあ一つの分野だけど、防災、っていう観点での研究もあるし」

「やっぱり、震災のことを受けて?」

「うん。あの頃まだ小学生だったけど、やっぱりものすごい衝撃を受けたし。でも、理系なのに数学が苦手って致命的だよね」

「大丈夫だよ。ヒロちゃんの情熱があれば、乗り越えられるよ」

「ありがと。ミスミはやっぱりいい奴だよ」

「ヒロちゃんもいい奴だよ」


この瞬間に、わたしの予想もしないことが起こってたっていうことは、当然予想できる訳もなかったんだけれども。

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