第一章 旅立ちの日まで

 リコンドールの町、『山人の鍛冶屋』の店内のテーブルにフィルは座していた。

 国王との謁見の後、約一週間を療養として過ごした。


 山人の国――ミズールバラズへの旅立ちの準備に向け、この店の従業員であるディアに呼び出されてのことである。


「出立の日を決めるのと、旅の準備をする必要があるわ」


 テーブルの周りに座っているのは、フィルとゴーシェ、トニといったいつもの面々に加え、店員のディアと、共に旅に出るカトレアの五人だった。

 旅立ちを決めてからというものの、ディアは何かとうきうきとした調子である。


「うちの店を集会所に使わんでくれ」


 我が物顔で店内を占領する集団に苦言を呈するのは、店長のヴォーリ。


「あら店長、お客さんも来てないしいいじゃない」

「これから来るかも知れんだろ」

「そんな繁盛してる店じゃないわよ」

「儂の店じゃぞ……」


 憎まれ口を利くヴォーリも、呼ばれてもいないのにいそいそと自身の作業場から出てきて、特に用もないだろうにカウンター内の整理などをしながら声をかけてくるのだから、いじらしいと言えばそうなのだが髭面でそんなことをやられても可愛くはない。


「私に何かできることはないでしょうか。食料などの用意はしようと思っていますが」

「ミズールバラズまでは約二月という行程よ。保存食なんかも十分に用意した方がいいわね」

「そうだな、カトレア。悪いが水や食料の準備は任せていいか? 金は俺が出す」


 フィルの言葉にカトレアがこくりと頷く。

 旅に同行することになったものの、非戦闘員であるカトレアは率先して雑務などを受けようとしているため、フィルとしても助かっていた。


「それと、荷台は置いていこう。道も悪いだろうし、守りきれる自信がない」


 フィル達のいるガルハッド国とミズールバラズの国交が閉ざされてから、数十年という時が流れている。

 魔物に侵略される以前は、国と国の間には整備された街道が通っていたが、その状態も分からない。


 道中で魔物に襲われる可能性も大いにあるため、カトレアの荷馬に括り付けられるだけの荷物として、動きやすさを優先することにした。


「分かりました。食料なんかは任せて下さい。顔見知りの商人をあたってみますので、ちゃんと交渉もしますよ!」

「頼もしいな。まあ、この状態で金の心配もクソもないけどな」


 五人の共通認識として、ミズールバラズへの旅が無事に済むとは思っていない。

 道は険しく、リコンドールの町に戻ってこられる可能性の方が低いだろう。


「何回も言わなくても分かってるわよ。男らしくないわね」


 旅立ちが決まってから何かと投げやりになっているフィルを嗜めるようなディアの言葉。


「まあまあ、そうつんけんするなよ。フィルも俺も生きて戻れるように最善は尽くすさ。フィルも心配になってるだけだろうよ。なあ?」

「え、フィルさん――フィルでも心配なんてするんだ!」

「おいトニ。お前は俺のことを何だと思ってるんだ」


 ミズールバラズに向かう旅を最後まで渋っていたゴーシェだったが、自らも旅に出ることを決めてからはさっぱりとしたものだった。

 数年フィルと組んで傭兵業をしているゴーシェは、顔にはあまり出さないものの危機意識は高い。絶望的な状況に変わりはないが、その存在は頼もしかった。


「でも確かに死ぬかもしれないって時に、お金の心配をしてもね。フィル、装備も整えるでしょ? 私に任せなさいよ。お金は十分にあるんでしょ?」

「俺の剣もこの前あの野郎・・・・に折られちまったからな……」


 ゴーシェは鞘に収まった一本の折れた刀剣を卓上に置き、そう言う。

 ベルム城にて対峙した魔族――リググリーズにより、ゴーシェの剣は打ち砕かれていた。


 ヴォーリの手によって鍛え上げられたゴーシェの剣は業物と言えるだろう。

 そんな刀剣を易々と叩き折った・・・リググリーズの剣閃の凄まじさが改めて伺える。


「ゴーシェの剣は修復は無理ね、新しく打ち直すわ。他にも必要なものがあったら言ってちょうだい」


 フィルは自分の腰に帯刀している剣をちらりと見る。

 これが最後の仕事になるかも知れない。確かに皆が言うように、装備を整えるのに有り金を全て使ってしまっても問題ないだろう。


 ディアの言葉に少し考えるように黙ったフィル達だったが、店の戸が開けられる音がその沈黙を破った。


「おお、フィルさん。皆さんもお集まりで」


 店に入ってきたのはグレアムの傭兵団の支部長であるアランソンだった。

 カウンターの中でフィル達のやり取りをちらちらと見ていたヴォーリが声をかける。


「アランソンか、どうした?」

「ヴォーリさんもご健勝の様子で。この前預かっていただいた魔晶石のことでちょっと――いや、皆さんお集まりのようなので、ここで話をさせてもらいましょう」


 そう言ったアランソンはフィル達が囲むテーブルの所まで歩み寄り、卓上に皮袋を置く。


「団長から言われまして、フィルさん達にこれを渡しにきました。本当はここによってからフィルさんの宿に行こうと思っていたんですが、丁度よかったです」

「何だ? これは」

「魔晶石です」


 アランソンは皮袋の口を開け、卓上に一つずつ魔晶石を置いていく。

 卓上に載せられた魔晶石は三つ。一回り大きいものが二つと、よく見る規格のものが一つだ。


「団長から、餞別せんべつということで――」

「何この大きい魔晶石!! すごいおっきい!! すごいおっきい!!」


 グレアムから渡すように言われたと説明するアランソンの言葉が、歓声の横入りで途切れる。

 童心に返ったような表情となったディアが、アランソンからひったくるように魔晶石を手にし、撫で回している。


「……ええとですね。こちらの二つはベルム城の巨体の魔物――トロールのものです。もう一つは本城にいたゴブリンのものですね」

「トロール?」

「ええ。『巨体』じゃ言い辛いということで、傭兵団ではそう呼んでいます。オーガとは明らかに違う魔物ということが明らかになりましたからね」


 アランソンが言う巨体の魔物は、トロールという名称で呼ばれることになったようだ。

 民間の伝承で聞く、巨大な魔物の名称だ。ゴブリンやオーガもそうだが、魔物の正体が分かっていない現在、おとぎ話に出てくる魔物の名を取って呼称するような傾向があった。


「それとですね、以前こちらにお預けしたものもフィルさん達に渡すように言われています」

「狼型の魔物のものか?」

「はい。そちらは最近では『ワーグ』と呼称しています。フィルさんからの報告があっただけなので、実態はまだ掴めていませんが」

「なるほど、しかしこんなに貰っていいのか? 報酬も十分に貰ったが」

「勿論です。団長も口にはしないですが、心配してるようでした。もしよかったら出立前に声をかけてあげてください」

「グレアムがねえ。そんなおセンチな奴じゃないだろ」


 ゴーシェの横槍にアランソンが微笑む。

 グレアムが心配しているというのはフィルも俄かに信じ難かったが、きっとそうなのだろう。アランソンは気休めを言うような男ではない。


「まあでも丁度よかったわね。ゴーシェの剣は打ち直しじゃなくて、新しい魔晶石で打つ?」

「あ、それならワーグの奴がいいな」

「それでいいの? この大きい魔晶石の方が魔力量は大きそうだけど」

「誰も持ってない魔剣なんてカッコいいじゃん。フィルばっかり珍しい魔剣持ってて羨ましかったんだよな」

「そういう理由かよ……」


 ディアの見立てでは、ワーグから得た魔晶石もかなり魔力量は高いようだったので、前回と同様、新しい魔晶石で魔剣を打つことにした。


「他はどうするか。特に武具が必要って訳でもないんだよな」

「フィル、新しい盾でも作る? それ随分長く使ってるでしょ」

「盾か……それも悪くないな」


 フィルは刀身の短めの刀剣と小盾を扱っている。

 強靭な魔物と対峙することが多いため、小盾の方も魔晶石を保有しているもの――所謂魔剣であったが、一般的に盾に魔晶石を用いることは少ない。

 魔剣はその特性として、魔物の魔力を奪い取る力を持っているが、魔剣によって魔物を殺傷する際にそれが作用するようであった。


 そのため、盾の魔剣とは言っても、金属製の通常の武具より強度が増す程度の効果しか得られないため、高値で取引される魔晶石を防具に用いることはあまりない。

 魔晶石が弓や槍、盾などに使われることはあるが、それらを総称して『魔剣』と呼ばれていることについては、一般的に刀剣以外に魔晶石が使われることが稀であるからである。


 しかしフィルが考えていたのは、最近の仕事で出くわした巨体の魔物や狼型の魔物など、今持っている小盾ではその猛攻を防ぐことが難しいことが分かっていたため、あまり効果が得られないとしても、新しく盾を作ることは前々から考えていた。


「そうだな。ディア、頼んだ。今のより大きいものにして貰いたい」

「じゃあせっかくだし、この大きい魔晶石で作るわね」

「ああ」

「それと、私の武器用にこの魔晶石貰っていい? この大きいやつで武器を作ってみたいの」

「構わないぞ」

「本当? やったあ! どんな武器にしようか悩んじゃうわね」


 アランソンから渡された魔晶石の用途は大体が決まった。


「残りはこのゴブリンの魔晶石か。何か必要なものはあるか?」

「俺は新しい魔剣用のを貰ったし、これだけでいいや」

「私もこれで十分よ」

「あ、あの……」


 残った魔晶石の使い道をどうするかを話しているところで、トニがおずおずと手を上げながら声を出した。


「なんだトニ、珍しく大人しいな」

「俺がそれ貰ってもいいかな? その、剣を作りたいんだ……」


 申し訳なさげに喋るトニ。


「この前弓を新しく作ったばっかりなのにか? 何でまた剣なんだ」

「城でのフィルさん――フィル達の戦いを見てて思ったんだけど、俺全然役に立ててなかったからさ……やっぱり剣で前に出て戦わないとダメかなって」

「そんなことか。弓の扱いも大分様になってきてるぞ」

「うん……弓にも慣れたんだけど、やっぱりフィルさん達と一緒に戦いたいな」


 トニが考えているのは、弓で後方からのサポートをするのではなく、フィルやゴーシェと肩を並べて魔物と戦うことだった。

 ベルム城での魔族との戦いを見て、なすすべもなく切り伏せられたゴーシェや傷だらけのフィルを見ていることしかできなかったことを悔やみ、前線で戦えるようになりたいという気持ちがトニの中に芽生えていた。


「まあいいんじゃないか? 今と同じような剣にするのか?」

「それもちょっと考えてて……その、アランソンさんのやつみたいな剣がいいなって」

「ほう」


 トニの言葉に、アランソンが嬉しそうな声を上げる。

 アランソンが扱っている刀剣は、サーベルだ。刀身は薄く長い片刃の直剣であり、柄の部分に拳を守るための半円状のつばが付いている。

 サーベルとしては、刀身が湾曲しているものも多く存在するが、直剣の方が刺突に適しているため、使い手の好みが分かれるものだった。


「サーベルか、なるほどな」

「サーベルはいいですよ。片手で取り回せるので馬上でも使えます」

「いや、馬には乗らないんだけど……フィル達みたいに打ち合うのは無理そうだから、アランソンさんみたいな戦い方ならどうかな、って」


 ここ最近の魔物との戦いでは、規格が大きい魔物が多数出現している。

 トニの体格であれば、オーガですらも頭四つ分ほどの体格差があるため、本人が言う通り打ち合うことなど不可能だろう。

 アランソン自身も打ち合うことに自信がないという感じではないが、敵の攻撃をすり抜けるように避けて、隙を縫った攻撃を入れるという戦い方を好んでいた。


「そういうことでしたか。確かにサーベルは剣同士なら打ち合えますが、大型の魔物の攻撃を受けるのはオススメできないですね。それ故に、体と足さばきが重要です」


 それ故に、アランソンが言うことももっともだった。

 単純に剣と盾を扱って戦うより、敵の攻撃の先を読むような動きが必要となる戦い方は、熟練の傭兵でも難しい。


「まあそこは大丈夫だろ。トニはすばしっこいし」

「うん!」


 アランソンの忠告はあったが、ゴーシェはあまり興味がなさそうにそう言った。

 トニを仲間に入れてからの戦い方を見る限り、どこでどんな訓練をしたのかは分からないが、未熟なりにも体さばきにはフィルとゴーシェの二人が目を見張るものがあった。


 ゴーシェも面倒を見るだろうし、恐らくは問題ないだろう。


「じゃあトニはサーベルで決まりね。これで全部かしら」


 ディアが話を一段落させるように口を開いた。

 これまでの話で、ゴーシェとトニの剣、フィルの盾、ディア自身の武器を作ることになっているため、かなりの大仕事だ。


「カトレアは武器持ってないけど、いいの?」

「わ、私? 私は戦ったことなんかないし、いいよ……」


 トニがカトレアに声をかける。

 元々、戦闘要員として数えてはいなかったので、カトレアが言うように丸腰でもまあ問題ないだろうとは思っていた。


「それでも護身用に剣くらいは持っておいた方がいいんじゃないか」

「じゃあ俺が今使ってるやつはどう? 剣と弓があるし、弓だったらカトレアでもきっと扱えるよ! ディア、大丈夫だよね?」

「そうね。付呪をし直せば大丈夫だと思う」


 魔剣の譲渡というのはあまり行われるものではなかったが、以前トニが賊の頭目から頂戴して使っている魔剣のように、改めて付呪をとりおこなえば普通に使うことはできる。


「ゆ、弓かあ……どうだろう……」

「弓も渡すのか。トニは完全に剣に移行しようってか? まあ弓だったら、俺がカトレアちゃんに教えてやるよ」

「ゴーシェさん……ありがとうございます。でも、ちゃん付けはやめてくださいね」

「お、おう……」


 トニが弓ではなく剣で戦うというのは、本人の意思もあるし問題ない。

 戦闘要員として数えていなかったカトレアが弓を扱えるようになるのであれば、儲けもんというものだろう。


「じゃあこれで決まりだな。ディア、大仕事になって申し訳ないが頼んだぞ」

「まあすぐに出発ってわけじゃないから大丈夫よ。店長も喜んで手伝ってくれるだろうし」


 出発までの準備が決まり、出立の日は準備の状況次第ということにした。


「金は払って貰うぞ」


 カウンターの中から、仏頂面のヴォーリも声をかけてくる。


 出発の日が確定したら改めて支部に行くとアランソンには伝え、簡単な挨拶だけを残してアランソンは店を出て行った。

 ヴォーリ達にはかなり大掛かりな依頼をしたため、それなりの代金を請求されるだろうが、手持ちが空になるということもないだろう。


「それとディア、俺の魔剣のことなんだが」

「待ってました! その話じっくり聞きたかったのよね」


 変わらず五人でテーブルを囲んでいる状態で、フィルはベルム城での魔剣に生じた変化について話そうと切り出した。

 ヴォーリとディアには前に簡単に話したが、他の面々には話してなかったなと気付き、改めて城の戦いで起きたことを説明することとした。


「魔剣が喋るってか……眉唾もいいところだな、それは」


 ゴーシェも城で対面した魔族――リググリーズとの戦いでフィルに何かが起こったことは薄々気付いてはいたようだが、これまで特に何を言うでもなかった。


 フィルは卓上に置いた、鞘に収めたままの自身の魔剣を見ながら言葉を続ける。


「恐らく、口ぶりからすると奴――リググリーズと同じ魔族だと思う。魔剣のがそいつだってことだろう」

「魔剣の中の魔物の存在を感じるというのは分かるけど、そんなにはっきりと――ましてや、言葉を交わすってのは聞いたことがないわね。私の経験にもないわ」

「ゲイラファビルか、なんか武器みたいな名前だな」


 自身の魔剣のこともそうだが、リググリーズやゲイラファビルが口にしたヴァルドル・・・・・という名前も気になっていた。

 リググリーズの言い方からすると、より上位の存在の魔族であろうことは分かるが、フィルもそれ以外の面々もそんな名前には覚えがなかった。


「その魔剣が言っていることを真に受けるとしたら、恐らくアルセイダ国にいる時に、フィルのお父さんが倒した魔族、ってことなんでしょうね。でも妙だわ、アルセイダからは魔族なんて存在は情報として入っていないはずよ」


 ディアも魔剣を扱っていることから、アルセイダ国の情勢などには注意していた。

 今まで伝え聞いている中では、魔族の存在や特殊な魔晶石などの情報はアルセイダからは入ってきていなかった。


「聞いた王様の態度もそうだけど……色々と、きな臭い・・・・わね


 ディアが続けた言葉に、フィルやゴーシェ、そしてディアが押し黙ってしまう。

 共にテーブルを囲むトニとカトレアは何の話をしているのか、全くピンと来ていない様子であったが、口を挟まないようにしているのか同じく黙っている。


「まあでも分からないことを話してても始まらないわ。答えを出すには情報が足りな過ぎるわね」

「そうだな。それと、剣の形が変わった・・・・・・ことについてなんだが……」


 魔族に関する話については、情報不足と判断してディアが中断した。

 フィルは以前話したときに聞けなかった、もう一つの問いを口にする。


「そっちの話ね。この前話を聞いた時に少し考えてみたんだけど、まず間違いなく魔法・・でしょうね」

「魔法?」

「私達森人とか山人でない人間に発現することは珍しいらしいんだけど、ゲイラファビルが言っていたことも考えると、恐らくその魔族の魔法だと思うわ」


 ディアは確信を持っているように言う。


「剣の魔族の魔法を使うことなんて、できるものなのか?」

「だから前例なんかないから分からないわよ。でも状況を聞くからには間違いないでしょうね。トニ、フィルが言ってる状況を見てたのよね? なんかおかしな所とかなかった?」

「お、俺……? 後ろから見てただけだからよく分かんないけど……確か剣が長くなった時に、ぼんやり光ってた……かな?」


 リググリーズと対峙している時、フィルは満身創痍の状態であったため記憶が正しいか分からないが、確かにトニが言うようなことがあったと、フィルにも薄っすらと記憶がある。


「恐らく、魔力光でしょうね。その魔法は今は使えないの?」

「ちょっと試してみたんだが、使えないみたいだな。そもそも魔法なんてもんの使い方なんて知らん」

「そうね……まあ今すぐにってのは無理だろうけど、私が教えるからおいおい試してみましょ」

「悪いな」

「私も興味があるから。お礼なんていいわよ」


 こちらの話も後回しとなったが、魔法や魔力の扱いというのは感覚的なものであるため、教えるのも難しいとディアは言う。


 旅立ちまでまだ時間も十分にあるので、フィルはそれもまあいいかと思うことにした。


「仕事があるからそんなに時間はかけられないけど、時間がある時に店に来てちょうだい。教えられることは教えるわ」

「こっちは仕事なんかないからな。ずっと暇だが」

「……昼前に来れば、お昼までだったら相手するわ。店長、いいでしょ?」

「構わんぞ。儂も気になるからな」


 仕事そっちのけでフィルの相手をするというディアであったが、ヴォーリからは全く気にしないような返事が返ってきた。

 ――この店の奴らはどうかしてるな……


「ひとまず今日はこんなところね。カトレア、悪いけど食料なんかの準備はお願いね」

「はっ、はい! こんなことしかできませんが、よろしくお願いします……」

「いや、助かるよ。これからもよろしくな」


 ディアが解散の旨を口にし、フィルがカトレアに礼を言うと、カトレアの方は少し顔を赤くして返事をする。


 ヴォーリとディアは、早速新しく手に入った魔晶石で武器を鍛えるというので、フィル達四人は店を出てこちらも解散ということになった。

 カトレアの方も旅の準備の調達に行くということだったので、店の前で別れる。


 残されたフィル達三人は、結果的にやることがなくなったため、とりあえず宿に戻ることにした。


 旅立ちへの日は刻一刻と近づいている。

 フィルはそう感じながらも、今できる準備はしておこうと考えるのだった。

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