終末の幕開け

 路地裏は昔と大きくは変わってはなかった。

 ただ一つ変わっていたのは石扉に書かれていた少女がいなくなっているということだけだ。

 消されたというわけではなく、ほんとに消えたのだ。彫られて造り出された背景だけをのこして。


 階段を上ってる最中に子供の泣き声がした。とても悲しそうだ。小さな子供が親を亡くし絶望に落ちたときの悲しみを思うがままに声に出しているそんな鳴き声だ。脳に響く。実にやめてほしい。

 とまぁ、そんな愚痴を言ってたらついた。


 ガガガと地面をするような音を立てて扉が開く。というか勝手に開いた。


 中はやはり塔の踊り場的なところになっていた。周囲は古代風の彫刻で飾られている。

 ただ昔と違うのは誰も掃除をしていないのかすごく埃っぽいところと、真ん中に棺みたいなものがあることだ。怪しすぎる。さも開けてくださいと言わんばかりにおいてある。


 まさかな…と思いつつもその棺桶を開けようとした。


 バッガン!—立ててはいけないような音で棺桶が割れた。その瞬間右手に激痛が走った。右手を見るとそこには◎に×が重なった模様が縫い付けて・・・・・あった。縫い付けている赤く発光してる糸の先はやはり棺桶の方に繋がっていた。


 おそるおそる棺桶を覗くと赤い髪で黒のドレスに白いフリルを付けた少女が目を回していた。糸はこの子の心臓部あたりに繋がっている。


 ていうかこの棺桶が割れるシステムは中の人にもダメージがいってるじやねーか。


「おい、大丈夫か?」とか言いつつほっぺをぷにぷにと触る。あ、意外と柔らかい。

「―っっっ、やめんか!」


 怒った少女は棺桶から飛び出し自分の斜め上をふわふわと飛んだ。そして服についた石材の欠片を払いながら言った。


「おぬしが我のご主人マスターか?」

「いや、知らん。」

「え…」

「…?」


 二人の間にしばしの沈黙が流れた。どうやら何か食い違っているらしい。


「おぬし、アリルに聞いたんじゃないのか?」

「いや、聞いてない」

「えぇ…」少女はガクッと肩を落とした。


「わかった、今簡潔に話そう。とりあえず我の名だ。我の名はメルトメリア。終末の住人じゃ」

 どや顔で言われても早速意味が分からないところがある。

 住人ってなんだよ。とか言うと話がややこしくなりそうなのでやめた。


「これからご主人には我の記憶を探してもらう。で、我一人じゃ動けないからこうやって契約してもらった訳じゃ」

「聞いてないんだけど」

「だーかーらー。それらすべての概要はアリルの夢で説明して、ここに来たら契約成立ってことだったのじゃ!」

「夢?夢なら見たぞ」

「え?じゃあ話は知ってるじゃろう」

「いや?少女が泣いてる夢だけだった」

「はぁぁぁ?まさかおぬし、第一幕だけでここに来たというのか?あの夢は三日に分けての夢じゃぞ?」

 突拍子もない声で叫んだ。


「そうぎゃあぎゃあ騒ぐなって。まあ、大体わかったし協力するから、な。」

「まあ、納得してくれたなら…」メリアが納得してなさそうな顔だ。

「はいはい、それじゃあ決まり、とりあえず俺のギルドに来い、仲間もいるし頼りになるぞ」

 と言いつつさっき入ってきた扉から戻ろうとした。


「なぜそっちへ行く?正面から帰った方が近いじゃろう」


 へ?だって正面は開いていないから…ってまさか。


「そうじゃ、我が開けるのじゃ。ついて来い」


 手を引かれそのまま螺旋階段を下りると思いきやまさかのそのまま一階へダイブ。


「っ?!うわあああああああああ!」


 メリアはさもやってやったと言わんばかりの顔をして微笑んでいる。


 ふわっ。ストン。床にぶつかる直前に空中でバウンドした。


「ほら、もう着いたじゃぞ」


 あまりの恐怖に目を回していてそれどころではない。


「では、開けるぞ」

 なんとなくその声は嬉しそうだった。


 メリアの手から青い呪光線が出てきて、巨大扉の紋章に繋がる。


 ガガガガ―と大きな音と地響きを立てて巨大な扉は開いた。開いてしまった。

 メリアが扉から出ていく姿はさながら、王の凱旋と言わんばかりだった。

 街行くものの目線はすべてこちらに向けられ、少し居心地が悪い。中には俺のギルドメンバーもいた。


 終末の住人と名乗った者は満面の笑みを浮かべて「開戦じゃ」と言った。


 ―この日、終末の扉・・・・は開かれた。そして終末・・が始まった。



 ―おかえり。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る