純白の蒼
終末の塔は大通りに沿って行けば行ける。だがしかし、ついたところで塔には入ることはできない。正確には塔にはそもそも入り口がないのだ。
この塔だけでなくすべての塔に入り口が無い。いったい何のために誰の為に建設したのか。
そんなこんなで天空界の奇妙譚の一つになっている。
ルルはもちろん塔に入り口が無いことは知っている。
だが、入れないわけではないことも知っている。
とはいえこれは10年前この身に起きた奇妙譚のおかげだ。
小さな記憶を頼りに少し離れた所にある工芸帯の路地に向かった。
時計台は5時59分
―カチリッ―
どこかでそんな音が聞こえた気がした。気にも留めなかった。
そのとき時計塔は6時をさしていた。
工芸帯の中心に着いて最初に感じ取ったのは違和感だ。人の気配がない。奇妙なぐらいになさすぎる。
まるでここだけ時間を切り取ったみたいだ。だが辺りを見渡すも昔と変わらぬ風景があるだけだった。
そんな異常な空間を歩くのは少し抵抗があったがゆっくりだが歩みを進めた。
幼少期のころよくこの辺りで遊んだことを思い出し、懐かしさに耽りながら路地の階段を上った。
「アリル…」記憶の中にあった名前がいつのまにか口からこぼれた。
―およそ10年前の塔の近くの工芸帯、そこは活気で溢れ日々工芸人が精をだし仕事をしていた。空は少しばかり煙で曇っていたがみんなが笑い合える場所であったのは間違いない。
そこで10歳にしては小生意気なルルと8歳の純粋無垢なララは物流の際に落ちたきらびやかな宝石のクズを集めて遊んでいた。
隠れ遊びもして遊んだ。あの時ほど平和で楽しかった日はないだろう。
ある時二人はおかしな路地裏を見つけた。たまたまだったのだろうか。いや、たぶん必然だ。なぜならつい先日までは無かったはずだから。
おかしな理由はいっぱいあった。
家の裏側が見え、パイプが家の背面をあみだのように通っている路地。
そもそもこの付近ではパイプは使わない。
上へと伸びる石造りの階段。
ここら一体の地形は平坦だ。
屋根に囲まれ狭くなった空。だが、そこから見える無数の星々はいつもより格別に見えた。
これはおかしくない。
階段を上るとそこには一人の少女が花を愛でている様子が彫られた石の扉があった。
少女は愛でているにも関わらず悲しそうな目をしていた。
ここまでの過程でのおかしなものの連続で頭がパンクしそうだ。
扉は半開きだったため、ついつい二人は恐る恐る扉を開いてしまった。
そこの先は巨大な縦長の空間があった。上と下に伸びる階段がありここは踊り場のような所だった。
中央で少女が驚いた顔をし目をまんまるにしてこちらを見てた。
見た目は二人より10歳ほど上にみえ白のドレスを着ていた。だがそこより目がいくのは何とも言えない美しさの蒼の髪である。この世界の空の雲を全部消し去っても表現できないであろう。
「え…っと…どうやって入ったの?」
やはりそうきたか。自分らにはどう答えようがない。思わず二人とも黙り込んでしまった。
「まあいいわ、私にはもう相手がいるから君たちは元の世界にお戻りなさい。そうね、来るのならあと10年たってから来なさい。たぶんそのころには呼ばれると思うよ。器なら…」
不敵に微笑みながら「アリルが命ずる…―」と言う。
気づいたら路地があったと思われる場所の前に立っていた。しかしそこには廃屋があり路地の路の字もなかった。
これが10年前に起きた二人の出来事―。
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