第2話 塔が折れるということ
結論から言うと出社は可能だった。
昨日、事件が起こって一時間ぐらいたった頃に業務連絡のメールが届いた。
「総務の山口です。安否確認のために、ご無事の方は総務課へ一度ご連絡をお願いします。なお、明日は通常どおりの営業の予定です。電車が運行を停止している場合や各部署での判断となりますので、所属部署の部長へ確認を行ってください。以上よろしくお願いいたします」
雑なものだ。総務に安全であるとメールをした後、部長に電話をかけた。
通信がパンクしているのか、混み合っていると言うメッセージが出るだけで使えなかったので部署のチャットツール電話機能を使った。こちらは3コールほどで繋がった。
「小菅くんか」と出てすぐに部長が言った。「無事だったか、こちらからも連絡をしようと思っていたんだが電話が繋がらなくて、すまんな」
「いえ、大丈夫です。他のみんなは無事ですか」
「まだ何もないんだよ、心配だ」
「私の方から連絡しておきましょうか、後ほど報告をします」
「頼んだよ」
全体チャンネルで、メッセージかメールもしくはチャットツールかFacebookの電話機能を使って連絡するように送った。
俺の部署は組み込み用ソフトウェアの開発を行う、10名ほどの小所帯だ。俺も含めてだが、全員がプライベートと仕事をくっきり分ける人というよりは癖のある人たちばかりで、必要なことであっても連絡しても全く反応がないことが多い。だから、こういう時に、連絡がないのがいつも通りかどうかが判断しづらい。
それでもすぐに連絡が来るあたり、今回の事態はやはりとんでもないみたいだ。
「今のところ部長と私を含め、加藤、山口、斎藤、草薙、八木、湯川の8名が無事みたいです。永田と小鳩からの連絡はまだです」
「また永田かー、いつも連絡取れないよなー、なんでだろうなー、小鳩は心配だなぁ。わかった、ありがとう。引き続き頼むよ」
部長はこういう時でなくとも連絡が取れない時はいつも「なんでだろうなー」とぼやくことが多かった。それをなだめるのも俺の仕事である。
「まあ、永田ですから心配はないですよ、どうせ飲みすぎて家に帰れないとかじゃないですかね」
「だといいなぁ」
「ではそういう感じなので、またわかり次第連絡します」
「わかった。あと、明日なんだが、進捗確認だけはやっておきたいから出てくれ。電車が止まっていれば午前は休んで構わない」
「わかりました」
俺はほぼ同一の内容をチャットツールで全員に共有した。
2時ぐらいまで連絡を待っていたが、結局、永田と小鳩からの連絡はなかった。
朝起きて、俺はコーヒーと焼いたトーストを食べながらテレビをつけた。昨日から引き続いて現場の状況を移しているが、それと同時にいろいろな情報も入ってくる。
今日の最高気温は25度。電車はテロ現場をのぞいてほぼ全体が復旧した。トウキョウツリー駅から一駅区画分が不通になっただけ。雨が降りそうなので洗濯物は干さない方がいい。政府はこれをテロ事件と断定。関わっているとみられる2人を警察が2人拘束。
評論家たちが、テロについてこんなことを議論していた。
「トウキョウツリーは根元の直径150mを超える巨大な建造物です。柱は何本も立ってます。柱は直径2.3メートル、鉄の厚さ10センチメートルもあるんですよ、そんな構造物がですよ、飛行機が突っ込んだだけで折れるだなんて普通ありえません。なんらかの爆薬が大量にあらかじめ仕掛けておくとかしていないと無理でしょう」
「ですが、現に折れてるわけです。9.11のときも、エンパイアステートビルに米軍の爆撃機が衝突した経験から、また同じような事故が起きた時でも耐えれるように設計されていたのですが、倒れましたよね。ボーイング767がB25よりもひとまわり大きかったこともあるし、それと同じような想定外が起こったんじゃないでしょうか」
「トウキョウツリーは、衝突からわずか10分で折れています。前もって準備されてないとこの折れ方はありえない」
「想定外の事態です、よくあることでは。3.11の原発事故と同じです」
「原発事故とこれは明らかに異なるでしょう」
「明らかとは」
「飛行機がぶつかっただけでは、ああはならない。複数の手段で人為的に壊されていると言うことです。原発事故は不幸が重なった上での結果だったが、これは違う。確実に狙いすました行為だ」
「構造計算が甘かったとか、ゼネコンが不正をしていたとかも考えられるでしょう。断言は早すぎるのでは、調査を持って、その上で結論を出すべきです」
一日たって、まだ黒煙を立ちのぼらせている塔のない景色以外は、いつも通りの日常だ。
いつも通りに出て、いつも通りに働こう。それもまた勤めだ。
Tokyotree stuck in XXX @smdszkn
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