第32話 黄金の船

「最初に言ったように、液体生命体というのは我々と定義の違う生物なのだよ」


「どういうことなんだ?」


「我々の体は肉体があり、心臓がある。しかし、液体生命体は違うのだよ……」


 液体生命体はコアと言われる心臓のような機能をもつ組織があって、コアからエネルギーを送り込み自身の肉体――液体の体を動かすらしい。特筆すべきはコアと肉体が離れていても独立して生存することができるということなのだ。

 コアから離れれば離れるほど、肉体である液体の性能は落ちて行くらしい。

 

 なるほど……さっき奴が「力を取り戻した」ってのは、あの神殿に奴のコアが封印されていたとかそんなところだろうなあ。となると……コアは黄金の船の中にあるのか?

 いずれにしろコアを特定し破壊しないと奴を倒すことはできねえ。

 

「ブラザー、コアってのはどんな形をしていてどうやって倒すんだ?」


「コアは君の目では確認することが出来ないだろう。あれは無色透明なのだ」


「なるほどなあ。封印した奴はコアを特定できなかったのかな?」


「そうかもしれないね。コアはソナーで特定すれば問題ないだろう。十センチほどの小さな球体だ。コアを特定し、三十ケルビンで一時間冷凍すれば死滅する」


「三十ケルビン……ってっとマイナス二百四十三度か。コアさえ捕まえれば何とかなりそうだな」


 なるほど。こいつは厄介だぜ! さあてどうやって捕まえてやろうか。

 まずは黄金の船を無力化しねえといけねえが……うん? ひとつ気になることがあるな。

 

「なあブラザー、何であいつは宇宙へ逃げねえんだと思う?」


「ふむ……あの船は長い間海底神殿の底に封印されていたんだ。まだ全機能が回復していない可能性が高いな」


「なるほどな。それなら宇宙へ飛び出せるまで回復する前に叩き落とさねえとな!」


 よおし、機能が回復していない黄金の船を叩き落とすことはそう難しくないと思う。

 ハニースマイル号には対宇宙船用の兵器がいくつか積まれているんだ。

 レーザー、ミサイル……んー、ここは古風なTNT火薬を積んだ誘導ミサイルがいいだろうな。


「ブラザー、黄金の船を撃墜するのはそう難しくねえと思うんだ」


「ふむ。この船の火力ならば、黄金の船を完全に蒸発させる事も可能だね。たが、堕とす場所を吟味しなければいけない」


「そうだぜ。ブラザー。蒸発もダメだ。出来れば船が浮上できない程度に破壊したい」


 オウケエイ! 整理しようぜ。この惑星ブルーオーシャンは地球と同じサイズなんだが、大陸面積がオーストラリア大陸ほどしかない海の惑星だ。

 敵は黄金の船に乗った液体生命体。黄金の船の武装は不明。敵である液体生命体はコアを破壊しない限り倒すことはできない。液体の肉体は熱で蒸発しても動くことは可能、凍ると動きを停止する。

 

 レーザーの熱戦などで黄金の船ごと全て蒸発させてしまうのが一番お手軽だが、奴を倒すことはできないどころか肉体が液体から気体になり、コアごとどっかに逃げられてしまう。

 となると、黄金の船を撃墜すればいいんだが、洋上に黄金の船が落ちてしまうと船は海中に沈む。

 

 海中に逃げられると追いかけるのが厄介だ。奴の肉体が海水と混じってしまうからな……


「健太郎、重要なことはコアの特定だ。そこは忘れないでくれたまえ」


「黄金の船にコアがあると俺は思っているが、そうじゃない可能性も考えておけってことだろ? ブラザーは慎重だからな」


「君が考え無さ過ぎなのだよ。あらゆる可能性を吟味することは必要だよ」


 ブラザーと俺はお互いに肩を竦めてニヤリと笑い合う。我ながら性格的に弱点を補い合ういいコンビだと俺は思ってるんだぜ。

 

「オウケエイ! ブラザー。とりあえず、黄金の船を陸地に落とそうぜ」


「やれやれだよ。君の行き当たりばったりなところは嫌いじゃないよ。黄金の船の武装に注意しながら追い込もうか」


 よおし、方針は決まったぜ。黄金の船を陸地に落とす。それだけだ!

 

 一つだけ気になることがあるんだよなあ。大したことじゃあないんだが、触手型イソギニアや吸血鬼は人間より身体能力が優れているけど、武器で斬りつければ倒すこともできるし、コアと肉体を分離させるなんてことはできねえ。

 液体生命体はブラザーから聞く限り自然界じゃあ無敵に思うんだよな。寿命もなさそうだし……そんな生命体があるんだったらさ、宇宙はそいつらだらけにならねえか?

 まあ、男ってのは細かいことは気にしねえ。液体生命体は偶発的に発生し、子孫を残せないかもしれねえし……

 

 俺は操縦室コクピットに向かおうとブラザーに背を向けたが、疑問に思ったことがつい口をついて出る。


「ブラザー。液体生命体ってそれなりにいる生物なのか?」


「少なくとも、私のデータベースには登録されている生物だね。健太郎が興味を持つなんて珍しい」


 余り深く突っ込むと、ブラザーがポエムモードになって語り始めてしまうから、先手を打っておかねえと。

 

「液体生命体って自然界に天敵っているのか? 話を聞く限り、液体生命体を害する生物はいなさそうなんだが……」


「ふむ。天敵は――」


 とここで、ブラザーの言葉を遮るように操縦室コクピットからラティアの悲鳴が響く!

 何が起こったんだあ?

 

 俺は急ぎ操縦室コクピットに走ると、ウサギ耳を頭にペタンとつけた高校の制服のようなブレザーを着たラティアが俺のところへ飛び込んで来た。

 そのまま彼女は俺の腰に抱きつくと、上目遣いで俺を見上げる。

 

「ヘーイ! どうした? ラティア」


「……黄金の船から光線が……」


「ほう。攻撃してきたってことかよ」


 俺は操縦席に目をやると、マミが片手をあげて大丈夫というジェスチャーを俺に送る。俺はラティアの頭を撫でた後、操縦席の後ろに立ち窓から外を眺める。

 

 黄金の船は残念ながら目視できる距離にはいなかった。だから俺は右手にあるレーダー計測器を確認する。計測器に黄金の船の位置が表示されていることを見て取れた。

 

「んー。およそ十五キロ? ってところか」


 俺の呟きにマミが前を向いたまま答える。

 

「ええ。こちらをレーザーで狙ってくるけど、誘導レーザーじゃないし、当たってもハニースマイル号の対レーザー障壁バリアで無効化できるんじゃないかしら」


「威力計測はできたのか?」


「バッチリよ! 私を誰だと思っているの? 女海賊マミ・ブラウンシュガーよ。レーザーでの戦いなんてお手のものよ!」


 黄金の船はレーザーで攻撃してきやがるようだが、ハニースマイル号の対レーザー障壁バリアを突き抜けるほどの威力は持っていないらしい。つっても対レーザー障壁バリアを使うと、ハニースマイル号のエネルギーを消費していくから、あまり敵のレーザーに当たり続けるのは危険だぜ。


「マミ、黄金の船をこのまま追い続けてくれ。奴が陸地の上を通過する時を狙う!」


「分かったわ! 健太郎!」


 マミはブローチの示すお宝を探しに来た結果が、黄金の船はともかく液体生命体まで出てきちまったことに責任を感じているようで、俺が船に戻って来た時に沈んだ様子だった。宇宙船の操縦には自信があるようだし、ここは彼女へ任せるか!

 自分の尻は自分で拭きたいって気持ちもあるだろうしな。

 

「マミ! ここは任せるぜ! 撃ち落としたら俺は小型飛行機グライダーで黄金の船に向かう」


 俺が彼女の肩に手をやると、彼女は前を向いたまま俺の手に手を重ねるとギュっと俺の手を握る。

 

「ありがとう! 健太郎! 必ずあいつを落とすから!」


「マミ、黄金の船っていうお宝はあったんだ。そんな気に病むことはねえぞ。ただ敵もついてきちまったってだけだ」


 まあ、黄金の船の持ち主はあの液体生命体だろうがな! 黄金の船は破壊するが、修理したら高値で売れるかもしれねえぞ。まさかあの船が本物の黄金でできてるってわけでもないだろうしなあ。

 本物の黄金なら、ものすごい稼ぎになるぜえ。

 

 俺はマミへ黄金の船への攻撃はTNT火薬を使ったミサイルで行うように指示し、彼女の後ろからじっと前を見据える。

 彼女が黄金の船を撃墜したら、俺は急いで小型飛行機グライダーの格納庫に走るって寸法よ。

 

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