第三クール お宝探索編

第26話 お宝探索編 開始

 ブラザーから超高速電話ハイパーテルで連絡を受けた俺は、ちょうど食事も終わったのでホテルに戻る。部屋に入ると、ブラザーの尋問を受けたウーが火照った体を休めている様子だった。

 ホテルに備え付けられている白いガウンを着たウーは相変わらず無機質な感じに見えるが、ブラザーの尋問の後ということもあり少しなまめかしく見える。

 

 ラティアにはマミを呼んできてもらうように頼んでいるから、今部屋にいるのは俺とブラザーとウーの三人だ。

 

「ブラザー。ウーが受けた依頼内容を教えてもらえるか?」


 俺は横目でチラリとガウン姿のウーに目をやり、ブラザーに問いかける。

 

「大した内容ではなかったよ。健太郎。君がプリンスから聞いていた内容とそう違わない」


「ウーは単にレースに参加してマミのブローチを奪うって依頼だったのかい?」


「少し違うがまあそんなところだよ……」


 ブラザーが腕を組み、ウーに目をやると彼女は顔を真っ赤にしてうつむく。足をモジモジさせて両手で自身の身体を抱くような仕草が色っぽい……まあ、それはいい。

 ウーが受けた依頼は、レースに優勝するかマミからブローチを奪うことだった。プリンスはどこから情報を嗅ぎつけたのか知らねえが、マミがブローチを持っていることを知っていたようだ。

 プリンスはブラザーのことを知らなかったようだなあ。それが奴の作戦が失敗した原因だぜ。プリンスがブラザーと対峙し、ウーが俺と対峙したならばまだ勝率はあったと思うんだがな。

 ブラザーに素手の人間が当たるのは自殺行為だぜ。どんな優れた人間でも彼にダメージを与えることはできねえからなあ。噛みつくくらいか?

 プリンスならかぎ爪があるからまだマシと思う。

 

「なるほどなあ。で、ブラザー。ウーの奴は依頼を受ければ動くってことなのか?」


「質問の意図はこういうことかね? ウーは依頼を受けただけで、彼女が私怨を持つことはない。だから、解放しようと?」


「まあ。そういうこった」


「ふむ。私も思うところはない。彼女の依頼は失敗した。ただそれだけだね」


 ブラザーはウーが座っているベッドに歩み寄ると、彼女に何事か囁く。しかし、ウーはブラザーの腰にしがみ付き彼を離そうとしなかった。

 

「ヘーイ! ブラザー。モテモテだな」


 からかう様に俺がブラザーに声をかけると、ブラザーは表情一つ変えず、片眼鏡モノクルをクイッと片手でいじる。

 ブラザーはウーの耳元で再度囁くと、彼女はブラザーの首に両手を絡ませると口を耳元に寄せ何事か呟く。

 

「健太郎。すまないが、彼女の服を買ってきてくれないかね? 私は服のことが良く分からないからね」


 ウー……普通にしゃべることができねえのかよ。服か……服はラティアかマミに頼めばいいか。

 

「そのうちラティアとマミがここに来るから、彼女達に頼もうぜ。レディの服はレディにってな」


「うむ。それが良いだろうね」


 ブラザーも納得したように頷くが、ずっとウーが彼に張り付いているんだが……それも艶めかしい仕草で……

 

「ブラザー。お前さんの部屋でウーを可愛がってきてもいいんだぜ?」


「私はもう分析完了アナリシスコンプリートしたんだよ。そこまでの欲求はもうないさ」


「いや。そういうことじゃなくてだな……」


 俺は察しが悪いブラザーにため息をつくと、まだまだ可愛がって欲しそうなウーに目をやる。するとブラザーも察したようで彼女の耳元で何か囁くと、ウーは歓喜の表情で頷きを返す。

 

「そういうわけだから、私は部屋に戻るよ。服のことは頼む」


「あいよお。任せておけ」


 ブラザーに寄りそう、ある意味廃人になってしまったウーの後ろ姿を眺め、俺は大きなため息をつく。あれはもう、元の仕事に復帰できねえだろうなあ。

 ブラザーの言う事は聞くと思うが……彼がいるからウーは今後俺達に手出しすることはないだろうな。

 無力化とは少し違うが、これでもうウーを金で雇って俺達を害することは無くなったってわけだ。

 

 

◇◇◇◇◇


 マミとラティアが部屋にやって来たので、ウーが俺達に襲い掛かって来ることは無いとだけ伝え、ブラザーの所業を彼女達に言うことはやめておくことにした。

 

「で、ウーは何しているの?」


 マミが触れてはいけない扉を開こうとする。聞かねえほうがいいぜ……

 

「ブラザーにくっついているぜ……これだけで察してくれマミ」


 俺はマミに目くばせすると、彼女は口元と爬虫類の尻尾をひくつかせながらも頷いてくれる。ラティアに知らせたくねえからな。

 俺は窓際のテーブルとセットになっている椅子に腰かけると、ラティアからバーボンとグラスを受け取る。気が利くじゃねえか。アイスストレージまで出してきてくれたので、俺はストレージから氷を一つトングで掴むとグラスに入れる。

 このアイスストレージは特注品で、水を入れるとグラスにバッチリの氷が数十秒でできてしまう優れものだ。氷の形もロックで酒を飲むのに適していて、バーテンダーが氷を砕いて整える形を模した氷が自動で生成されるんだぜ。

 

「マミ、二つ揃ったブローチで何が見えるか試してみねえか?」


 俺はベッドに腰かけるマミに目を向けると、彼女は立ち上がって懐から二つのブローチを取り出す。


「あたしもすぐに試してみたかったのよ。やってみましょう!」 

 

 マミの持つ二つのブローチに光を当て投影すると、虎と龍が絡み合い座標と地図らしきものが出現したぜ!

 イヤッホー! こいつは宝の地図じゃねえのか? 座標は宇宙標準座標と惑星内の座標の二つが記載されていて、地図は惑星内の一部分を示していて中央にピンのような絵が描かれている。

 恐らくピンが刺さった場所が「お宝のありか」じゃねえかな?

 

「ヘーイ! これは分かりやすいお宝の地図だな!」


「このピンが刺さったところにお宝があるのかしら!」


 俺達は興奮していたが、ラティアは冷静に地図を指さす。

 

「……健太郎……これ、海の中?」


 ラティアの言う通りだ。地図に陸はなく、一面海に見える……海底に埋まってんだろうか。お宝がある惑星についてブラザーに調べてもらわねえとなあ。


「大丈夫だぜ。ラティア。海の中ならアクアラングを使おう」


「アクアラング?」


「アクアラングってのは一言で言うと……水を空気に換える機能を持った装置だな」


 俺はラティアにアクアラングについて説明を始める。アクアラングとは口に咥える水中行動用の便利グッズなんだが、咥える口の左右に十センチほどの筒が伸びている。

 筒の先から水を吸い込むと、水が筒の中に入る時に分子分解と再構成をされて、酸素と水素に分けられる。水素は、吐いた息の二酸化炭素と一緒に水中に放出され、酸素は吐いた息の窒素に混ざって呼吸できる空気となって再び吸えるってわけだ。

 しかも、大昔の酸素ボンベと違って軽いし、持って行ける酸素量で行動時間が制限されることもない優れものなんだぜ。

 アクアラングさえ咥えておけば、水中だろうと呼吸できるって寸法よ。水圧の問題にはアクアスーツを着て行けば問題ねえ。

 

「健太郎。アクアラングだとダメよ。しゃべれなくなっちゃうじゃない?」


「ああ。そうか! 一人じゃあないもんな。アクアバイザーにするか」


「……アクアバイザー?」


 マミと俺の会話にラティアは不思議そうな顔で首を傾ける。

 

「アクアバイザーはバイクに乗る時に装着するようなフルフェイスヘルメットみたいなやつだぜ。これもアクアラングと同じで水中で呼吸できる便利グッズだ」


「……なるほど……」


 俺達はこの後、水中にあるであろうお宝を拝むために必要な道具について議論を交わすのだった。

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