第24話 ブローチ奪還
俺とプリンスの拳がお互いにぶつかり合い、
「健太郎君。腕は落ちていないようだね」
プリンスは手のひらを開いて閉じてを繰り返しながら俺へニヤリと笑いかける。
「お前さんもなあ」
俺もプリンスへ同じような笑みを返す。
「ふふふ。いい舞台だね。観衆の注目が心地いい……ウー君がどうなろうが、関係ない。君を打ち倒すのみだ!」
「ヘーイ! 俺を倒そうなんて百年早いぜえ!」
俺の挑発にプリンスは目を
「COOL! 頭はCOOLに! しかし体はHOTに! 行くぞ健太郎君!」
COOLと口にするのは、プリンスの全力全開の合図なんだぜ。いいぜえ! 受けて立ってやる。プリンスは吸血鬼という種族だから、俺より身体能力は高い。でもなあ。戦いってのは身体能力だけじゃあねえんだぜ。
――プリンスが低い体勢で突進してくる。俺は半歩右に体を動かし、奴の突進を両手で受け止める。体の位置を調整したことで重心がズレ、奴の突進による運動エネルギーをいなす。
しかし、プリンスは気にした様子もなく、右腕を振り上げ鞭のようにしならせ振りぬく!
おおっと。俺は上体を少し逸らして間一髪プリンスの腕を
プリンスは振り上げた腕を反転させ振り下ろす! 肘の関節が逆向きになっているが、こいつにとっては普通の動き……俺はこの動きを読んでいたので、一歩後ろへ踏み出し首を傾けて奴の腕をやり過ごす。
「COOL! やるな、健太郎君!」
「関節の動きはお見通しってやつだぜ」
俺はプリンスが振り下ろした腕を上から押さえつけると、奴の胸に向けて頭突きを行う!
不意をつかれたプリンスはうめき声をあげて、脚が浮く。俺は畳みかけるように、
プリンスはよろけながらも、体をそらし俺の足を肩で受け止めるがダメージは大きかったようだなあ。
肩に入ったダメージで後ろに下がり倒れ込むプリンスだったが……
――姿勢を崩しながらも左手が飛んでくる! 関節をはずして左手を突き出しやがったのか!
でもな……俺は体を捻る。これで奴の指先がギリギリ届かないはずだ。
しかし、指先から長い爪が伸び、俺の右肩へと突き刺さる! やるじゃあねえか。プリンスよお。
「面白しれえ。腕をあげたなプリンス!」
「ふん。やられているだけとは思わないことだね」
プリンスは爪を引き、自身の肩を押さえながらも俺を睨む。一方の俺も右肩から血を流しながら奴と対峙する。
今度は俺からショルダータックルをぶちかましてやろうと突進するが、プリンスは右へ体を逸らしヒラリと俺の攻撃を凌ぐ。俺はそのまま奴の隣を突き抜ける形になるが、そこで俺は左腕を真っすぐ横へ伸ばし奴の胴へラリアットをかまし、それでも吹き飛ばされず踏ん張ったプリンスへ右腕を伸ばし奴を抱え込む。
このまま行くぜええ! 奴の背後へ回り込んだ形になった俺は、両腕もガッチリと奴の腰に手を回している。
俺はそのまま奴を抱え上げ、背を逸らしながら、奴を頭から地面へと突き落とす! ジャーマンスープレックスってやつだぜ!
俺のトリッキーな動きを想定していなかったのか、奴はそのまま頭から床へ打ち付けられ気を失う。
「なかなかCOOLだったが、少し足りなかったなあ。プリンス」
俺は気絶して伸びているプリンスに言葉を投げかけるとジェットブースターを稼働させ、ゴールへと向かう。
奴につけられた傷は案外深かったのか、まだ血が止まらねえが……ゴールまでなら問題ねえ。
◇◇◇◇◇
無事ゴールした俺は、本来はヴィクトリーランを二周ほど行うところだが、出血が止まらないからすぐに医療チームから治療を受けることになった。消毒と止血のスプレーが俺の肩へかけられると、すぐに血が止まる。
傷が開くといけねえから、肩に包帯を巻いてもらい治療完了だ。
治療が終わると、俺は勝利の雄たけびをあげながらヴィクトリーランを行う。しかし、心の中ではブラザー達の様子が気になって仕方が無かったんだ。ちょうどブラザー達のいる観客席の近くまで来た時に俺は観客席に目をやる。
チラリとしか見ることが出来なかったが、ラティア、マミ、ブラザーは無事のようだ……ふう。まあ、ブラザーならウーでも相手にならねえだろうと思っていたが、無事なことを確認したらやはりホッとするよな!
安心した俺は悠々とヴィクトリーランを続け、優勝トロフィーと龍の意匠が浮き出るブローチを受け取った。
ものすごい歓声が観客席からあがり、俺は手を振ってそれに答える。ふう。熱いレースだったぜ。マミに頼まれて出場したが、思いのほか楽しかった。強い奴とやり合うのは心躍るもんなんだぜ。
「……健太郎!」
観客席に戻った俺に真っ先に飛び込んで来たのは、ウサギ耳を頭にペタンとつけたラティアだった。彼女が走ると長い黒髪が揺れる。胸は全く揺れないがなあ。
「よお、ラティア。変な奴が襲ってこなかったか?」
俺はラティアの頭を撫でながら彼女に問うと、彼女は後ろを振り返りブラザーの方を見つめる。
俺はラティアの手を握り、ブラザーのところまでゆっくりと歩いて行った。
しかし……ブラザー……なんだこの光景は……
ブラザーの右肩から先が薄いブルーのイソギンチャクのような長い数十本の触手に変化しており、人に絡まっている……触手は顔と足以外を全て覆い隠している。
こいつはウーか。ウーは気を失っているようで、頭は垂れ下がりポニーテールがゆらゆらと揺れていた。
「ブラザー? これは?」
俺の問に、ブラザーは肩を竦め触手を少しウネラセるとウーの頭を掴み、顔を上へと上げる。
「私にもよくわからないのだが。どうもブラウンシュガー君の持つブローチを欲しがっていたようだね」
ヤレヤレといった様子のブラザーだが、ウーを触手で捉えたその姿はブラザーの方が悪人に見えるぞ……
「ブラザーがこいつを仕留めてくれたんだな。ありがとうよ」
「私に素手で挑んでくるとは無謀にも程があるんだがね……で、彼女はどうする? 拷問にでもかけるかね?」
「彼女? ウーは女なのか?」
「恐らく女性だと思うのだが……確かめるかね?」
「そいつは後だな。ホテルにウーを運び込もうぜ。こいつから情報を引き出したい」
「了解した。このままホテルの君の部屋まで連れて行こう」
ブラザーは
俺はブラザーの隣で表情が固まり、尻尾も硬直しているマミへ向き直ると優勝賞品のブローチを彼女へと投げる。
ブローチが目に入った彼女は正気に戻ったようで、慌てて投げられたブローチを掴み取る。
「マミ。確かにブローチは渡したぜ!」
「あ、ありがとう。健太郎。教授に少しビックリしてしまって……」
マミは俺に礼を言うも、ゆっくりとホテルに向かうブラザーの右肩から生えた鮮やかな青色の触手に目が釘付けになっている。彼女はブラザーの触手を見たのは初めてだったんだろうな。
っと。腰に衝撃を感じ慌てて目をやると、マミが俺の腰に抱きついて来ているじゃあねえか。マミはそのまま俺の肩へと両手をやると俺をギュッと抱きしめて来る。
「ありがとう。健太郎」
マミは俺の唇へ口づけすると、改めて俺へ礼を言ってくれたんだぜ。俺の後ろでラティアが叫び声をあげているが……
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