第21話 白熱するブレードレース

 俺とプリンスは迫りくる選手に襲い掛かり、床の切れ目に投げ飛ばしていく。床から落ちた選手はコースアウトとなって失格になっちまうから、コースに戻ることは許されていない。

 コースアウトしても安全装置が作動して怪我しねえから、気にせず落としてしまって大丈夫なんだぜ。

 

 順調に選手を投げ飛ばしてると、スタート前に注目した選手が揃ってやってきやがった。牛頭の巨体と浅黒い筋肉質なハゲだ。

 二人は俺を脅威とみたのか、並んで俺へと迫って来る。

 

 お手並み拝見と行きますか! 俺は並走する彼らの真ん中に立ち両手を広げ、待ち構える。

 俺は立ち止まり、奴らは走行していて速度が出ているから俺の方が圧倒的に不利な状況だが……

 

 俺へ当たる直前に奴らは左右に大きく舵を切り天井へと抜けて行った。勝負を避けやがったか。まだ序盤だし、少しでも危険は避けておきたいってところかよ。つまんねえ奴らだぜ全く。

 

 中位ほどまでの選手はあの二人以外潰したから、そろそろリスタートするかと思いプリンスの様子を伺うと奴がうずくまっている!

 

「どうした? プリンス?」


「油断したよ……あいつだ」


 あいつって……あの中華風の民族衣装を着た達人か。プリンスのことだからいつものように慢心して襲い掛かったんだろうよ。あの達人はそんな甘い相手じゃねえってスタートする前に言ったじぇねえかよ。

 まあ、人の話を聞くような性格じゃあないがな……プリンスは。

 

「動けるか?」


「我を誰だと心得る。問題ないさ。もう動ける」


 プリンスはピチピチのレザースーツをパンパンと払う仕草をすると、立ち上がり前を向く。


「プリンス。奴はどんな攻撃をしやがったんだ?」


 俺はジェットブースターを作動させながらプリンスに問うと、彼も走り始めながら俺に答える。

 

「健太郎君。我が君に教える義務はないのだが?」


「お前さんほどの男なら、一度当たればだいたい分かるだろうと思って聞いただけだぜ。言いたくないなら別に構わねえ」


 プリンスは「お前さんほどの男」ってところに反応して気分が良くなったのか、中華風の民族衣装を来た達人について勝手に語り始める。

 俺達は会話しながらも、コースを駆け抜けていく足は緩めない。

 

「見たまんまかもしれないけどね。妙な拳法を使っていたよ。関節を痺れさせる技を使う。人間だと回復するまでに時間がかかると思うが、我にかかればすぐ元に戻る」


 プリンスは不敵に笑いながら、注意すべきは「関節を痺れさせる技」だと俺に教えてくれた。プリンスは口から生えた二本の牙以外は人間と見た目が変わらないが、ああ見えても吸血鬼の一族で人間より相当頑丈にできている。

 毒も効かないし、宇宙空間に出てもすぐには死なないというタフさを持っている。そんなプリンスを痺れさせるのだから相当の手練れだな……

 

「ありがとうよ。プリンス」


 俺が素直に礼を言ったことにプリンスは照れたのか、一気に加速し俺から離れて行く。

 俺もうかうかしてられねえな。前に追いつかねえと。俺より前にいるのは、プリンス、ハゲ、牛頭、中華風の民族衣装を着た達人の四人だ。

 


◇◇◇◇◇


 

 十五周を過ぎた。残り半分だぜえ。多くの選手を蹴散らしたお陰か、トップ争いは俺を含めて先ほどの五人。他に選手は十名ほど残っているが既に周回遅れになっているから、まず追いついて来ることはないだろうな。

 追い抜く際に、ちょうどコースアウトさせれそうなら落としておくけどな!

 

 先頭集団の俺達五人はお互いをけん制しながら走行している。おっと。プリンスとハゲが接触したぞ。二人はそのまま格闘を始めてしまう。

 ここで引き離してもいいんだが……俺が狙うのは中華風の民族衣装を着た達人だ! 牛頭がそのまま抜けて行ってしまうが、奴の足はこの中で一番遅いことはすでに分かっている。

 牛頭のスピードに合わせて十周以上走ったからな。ここで奴をそのまま行かせても後から追いつける。

 

「やっと勝負できるなあ!」


 俺は中華風の民族衣装を着た達人の前に回り込み、奴の道をふさぐように立ち止まる。俺がやる気なのが分かったのか、民族衣装の達人もポニーテールを揺らしながら立ち止まる。

 

「……」


 何かしゃべれよ……民族衣装の達人は口を閉ざしたまま静かに構えを取る。

 お互いの手と手が触れる間合いまで迫ると、俺は右の拳を勢いよく奴に突き出すが、奴は左手の手のひらを俺の右腕の少し触れて俺の攻撃を凌ぐ。

 やるじゃねえか。俺は反対の拳を突き出すが、同じようにかわされてしまう。その瞬間、奴はバックステップを二回行い、俺から距離を取ると右足を勢いよく踏み出して高く飛び上がる!

 

 そのまま一回転し、かかと落としが俺の頭へと迫るが、俺はかわさずに両手で受け止める。奴をそのまま捉えるのが目的だ!

 それを察知した奴は上半身を捻り、弧を描くようにかかと落としの体勢から横方向の蹴りへと動きを変化させる。

 

 ヘーイ! 随分と身軽だなあ奴は。さすが武芸の達人ってとこかあ。俺は奴を掴むことを諦め、上半身を落として攻撃を凌ぐ。

 そこへ襲い掛かる奴の二本の指先。俺はよろけながらも回避するが、肩に少し奴の指が触れてしまう。

 

――触れられた肩が動かねえ! ほんの少し接触しただけだぜ! 何て奴だ!


 俺は右肩に力が入らないから、右腕がだらりと下がってしまう。しかし、まだ勝負はついてねえぜえ。

 奴は俺がまだ諦めてないと分かると、左手の指を二本突き出した状態で斜めに腕を振るう。しっかし、ずっと無表情なんだよなこいつ……切れ長の目に薄い唇はこれまでの戦闘で全く表情を変えていない。

 

 ここは、これしかねえな!

 

 俺は右肩を前にショルダーアタックの体勢で奴の左手の指を受け止め、左手で奴の腕を掴みにかかる! 右肩はどうせ動かねえんだ。当たっても問題ねえ!

 奴は慌てて腕を引くが、俺の方が少しだけ早かったようだな。

 

 ようやく捕まえたぜえ!

 

 俺は掴んだ腕をひねり、奴を床へ倒そうとするが、あろうことかやつは俺のひねる動きに合わせて自身が前転宙返りをすることで力を逃がしてしまいやがった!

 本当に身軽な奴だな……その間にも右手の指を繰り出してくるが、俺は上半身を後ろに倒して攻撃をらす。

 

「なんだい。まだ戦っているのかい? 健太郎君」


 こんな時に空気を読まずに話かけてくる俺はプリンスに目もくれず、中華風の民族衣装を着た達人へ膝を入れようとする。

 む。達人の様子がおかしい……俺の膝打ちを奴は浮き上がる様に両足で飛び上がって回避する。なんだこの無駄な動きは……奴らしくねえ。

 

 って。

 

「プリンス! 邪魔するんじゃねえ!」


 なるほどな。プリンスの攻撃を警戒して大きく回避したってわけか。しかしプリンスは俺の言う事を聞くような奴じゃあねえ。達人に背後から襲い掛かろうと手を振り上げているじゃあねえか。

 

 ッチ! ここはお預けだな。

 

 俺は達人の腕を掴んでいた腕を離し、奴から距離を取る。すると達人は背後からくるプリンスの攻撃を軽くかわし、俺達二人から距離を取る。

 

「ここはお預けだ!」


 俺は達人から背を向け、ジェットブースターを起動させる……先にプリンスの奴とやり合った方がいいかもしれねえな……

 しかし、残りのメンツを考えると最後は三人でのバトルロイヤルになりそうな気がするぜ……

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