第19話 優勝賞品

「任せておけって。優勝するからよお」


 俺が軽い調子でマミへ応じると、彼女は俺から少し目線をそらした後、俺から手を離す。

 

「大会の有力選手について情報を集めてきたわ。後で見て」


 マミは俺に一枚のメモリースティックを手渡し、赤い髪を揺らす。

 

「マミ。優勝賞品って一体何なんだ?」


「……見てないの! 自分の出るレースじゃない!」


 マミは余りの驚きのため腰を抜かす、余りに勢いよく床に座ったものだからお尻を強打したようで彼女は顔をしかめる。

 

「優勝することは考えてはいたが……」


「そ、そうよね。だって健太郎は私に賞品を渡す為に出てくれてるんだものね。でも、でも少しはあたしに興味を持ってくれても……」


「何だ? マミ? 後半聞こえねえんだが?」


「もう! 賞品であたしが何をするとか興味ないの!?」


 マミは頬を膨らませ、威嚇するように尻尾を反り返らせて怒りをあらわにする。勢いよく動いたから赤い髪と大きな胸も一緒に動いている。

 ヘーイ! 相変わらずいい胸してんなあ。無視するのはいい男じゃあないな。

 

「あるぜ! マミに聞かせてもらおうと思ってな。細かいことを調べないのが男ってもんだ」


「そ、そんな拘りがあったのね!」


 マミは途端に笑顔になり、尻尾をフリフリ、胸の前で両手を握り腰を震わせる。

 ……単純な子猫ちゃんだと思っていたが、こいつは想像以上だぜ……


 さっきから隣にいるラティアが俺の服の袖をしきりに引っ張るんだが……気になってラティアに目を向けると、ウサギ耳がピンと張って不機嫌な様子だ。

 オウケエイ! 分かった。分かったって。

 

「マミ。詳しい話を聞かせてくれ。俺の部屋でな」


「あんたの部屋で……」


 顔を赤らめて頬に手をやり悶えているマミは少し滑稽だが、勘違いが可愛く見えるな。

 

「……健太郎。私も行きますから……」


 ラティアは憮然ぶぜんとした表情で俺に釘をさす。モテる男は辛いねえ。

 部屋に誘うっていっても、お前さんたちの想像していることじゃあねえぞ。

 

「じゃあ、行くとしますか」


 俺はマミの手を掴むと、歩き出す。反対側の腕にラティアがしがみつき両手に花になっちまった。このまま楽しいことをするならご機嫌なんだが、残念ながらそうじゃねえんだよな。

 ……ラティアとはそういうことはしねえがな! 

 


◇◇◇◇◇



 俺の部屋で、備え付けられたモニターにマミの持っていた端末を繋ぎ映像を映す。モニターの画面には古風なブローチが映っている。大きなルビーがはめ込まれたブローチだ。

 ブローチを前面から背面からゆっくりと映し出された後、はめ込まれたルビーに光が当てられる。すると、ルビーから白い線で描かれた虎が現れる。きっとこのルビーに価値があって、虎がちゃんと浮き出るってのを示した映像なんだろう。

 

「虎が浮き出るルビーか。こいつは変わってるな」


 俺はモニターを見ながらマミへと感想を述べる。

 マミはカウガール風の短いスカートに手をやり、金の鎖に取り付けられた大きなサファイアのはまったブローチを俺に見せてくる。

 

「健太郎。虎のブローチはこれと対になっているのよ」


 マミは髑髏どくろの形をした携帯端末を取り出すと、髑髏どくろの目を光らせると手に持ったブローチにそれを当てる。

 光が当てられたサファイアに黒の線で描かれた中華風の龍が浮き出て来る。

 

「これは……龍か」


「そうなの。龍虎を揃え……とある儀式を行うと財宝の在りかが示されると言われているわ」


「ほう、お宝かよ。それは胸がおどるな!」


「でしょでしょ! 海賊たるものお宝を求めてこそよね!?」


 俺とマミはお互いにハイタッチを交わすと、ソファーで退屈そうに座っていたラティアの耳がピンと立つ。

 おおっと、余りにはしゃぎ過ぎたようだぜ。でも仕方ねえだろ。お宝とか宝の地図ってのは男心をくすぐるんだぜ。

 

「分かったぜ。マミ! こいつは楽しみになってきた」


「健太郎。……その、あの……」


 マミは急にモジモジしだした……こいつは。

 

「マミ! 虎のブローチを手に入れたら俺もお宝さがしに、ついて行っていいか?」


「……もう! 仕方ないわね! 健太郎がそう言うならいいわよ……」


 分かりやすい奴だな……ものすごい笑顔で「仕方ないわね」って言ってきたぜ!

 よおし、お宝かあ。燃えて来た!

 

 ブローチの話が終わった後、マミがブレードレースの有力選手ってのを俺に紹介してくれた。

 あいつはいるのか……

 

 マミの集めてくれた有力選手の映像がモニターに流れるが、力自慢の牛頭や色黒のハゲた男……モヒカンなど余り強そうに見えない奴ばっかりだなあ。


「マミ、中華風の民族衣装を着た奴はいねえのかな?」


「どんな奴なのかしら?」


 俺はショッピングモールで見かけたあの達人の容姿をマミに説明するが、マミも知らなかった様子で奴の情報を得ることはできなかった。まあいい、明日必ず奴は出場するはずだ。

 有力選手の紹介を全て見終わった俺達はここで解散となる。ラティアが目を光らせてなければマミを誘ったんだが……仕方ねえ。

 

「ありがとうな。マミ」


 俺は部屋の扉口でマミに礼を言うと彼女はどこかに視線を落としている……

 ん。彼女が見ているのはラティアだな。

 

「どうした? マミ?」


 俺は黙ったまま動かないマミに問いかけると、彼女はラティアを指さしてわめく。

 

「健太郎。この娘……一緒の部屋で寝てるのかしら?」


「あ、ああ。昨日は一緒に寝たけどな……」


 マミはワナワナと肩を震わし、赤い髪が少し逆立つ!

 

「こ、こんなガキと! あんた、そんな趣味があったの?」


「何言ってんだよ。マミ。俺は子供とはそんなことしねえ」


 俺の言葉にラティアがプンスカと割り込んでくる。

 

「……子供じゃないです! もう十八歳です!」


「十八……健太郎……あんた……」


 マミが俺を睨みつける。誤解だぜ! 全く何を勘違いしてるんだよ。俺は何もしてねえって言ってるだろうが。

 

「二十歳を過ぎるまでは子供ってなあ。話はそれだけだぜ」


 まとめようとした俺に二人は食って掛かる。しかし、俺を通り越して二人でキャットファイトしそうな雰囲気になってきたから、俺は間に入り二人をなだめる……

 喧嘩するのはいけねえなあ。ここをスマートに落ち着かせるのがいい男ってもんだぜ。

 

 そんなわけで、今晩はマミも交えて三人一緒に同じ部屋で過ごすことになった。ベットはセミダブルだから、狭くて仕方ねえ。俺は仕方なくソファーで寝る事にしたんだ。

 風呂からあがったマミのバスローブ姿にはグッとくるものがあったが、我慢した俺を誰か褒めて欲しいな全くよお。

 

 布団を蹴り上げ、大の字で寝ているマミに布団をかけてやろうとベットに寄ると、バスローブから大きな胸がポロリしてるじゃねえかよ。元に戻してやりてえが、俺はグッとこらえて彼女に布団をかけてやった。

 一方ラティアは寝相がよく、横向きになって小さく丸まって寝ている。

 

 全く……俺は窓際の椅子に腰かけると、テーブルに置いたバーボンをグラスに注ぎそれをあおる。寝る前のゆっくりとした時間の中での一杯……これはこれで格別だ。

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