第18話 達人!
あっという間に一か月が過ぎてしまったぜ! マミの指定したブレードレースの会場はなかなかイカしたところだったんだ。なんとブレードレース専用のスペースコロニーってのがあって、そこでレースが行われる。
このスペースコロニーはメインとなるブレードレース会場と観客や選手用のホテル、ショッピングモール、カジノや酒場などの大人向けの繁華街、二つの公園から成り立っている。
明後日にブレードレースが開催されるとあって、既に出場メンバーは集まっていて、観戦客もそれなりに来ておりショッピングモールは大賑わいだ。
俺達三人は別々の部屋をホテルにとり、ショッピングモールへ繰り出すことにした。ブラザーは別行動……ピンクのチラシを持っていたがもう何も言わねえよ。ここでも「チェンジである!」をやるんだろうよ。
どこでも夜のサービスを提供している店はあるからなあ。きっとホテルに呼ぶんだろうな……
俺とラティアはショッピングモールの外に並ぶようにできているに屋台村で適当にうまそうなものを買って、公園の園路脇にあるベンチに腰掛ける。
イカの串焼きを不思議そうな顔をして眺めていたラティアが意を決して、イカの頭にかじりつく。ウサギ耳がピンと張り、緊張した感じだったがしばらくすると、ウサギ耳がピコピコと動き出した。
「……おいしいです!」
パアっと笑顔になって俺に目をやり、レディらしくない仕草でガツガツとイカの串焼きを食べ始める。おおっと。余りにガッツキ過ぎだぜ。
急ぎ過ぎで、長い黒髪が串焼きに触れそうだぞ……
俺は彼女の髪をそっと後ろにかきあげると、彼女は少し俺の方に目線をやり顔が赤くなる。必死に食べていたことが恥ずかしくなったんだろうな……
可愛いところあるじゃねえかよ。まだまだ「お子様」ってこった。
「……もう。子供扱いしないでください!」
「いい食べっぷりじゃねえか。嫌いじゃないぜえ。
ラティアはますます赤くなるが、割り切ったのか脇目も振らずに串焼きの残りを食べきってしまった。
「……健太郎は食べないんですか?」
「おう。いただくぜえ。たくさん買ったからなあ」
俺はベンチに置いた屋台で買った食べ物を物色しようと包みに手をやる……その時――
――何だ! この尋常じゃねえ気配は!
前方から只者じゃねえ雰囲気を持った何者かが歩いて来る。意識は俺に向いていねえが、足音を立てずに歩いていやがる。こいつは相当な手練れだぜ。
俺は目を凝らして、こちらに歩いて来るそいつを見つめる……
中華風の民族衣装を身にまとい、長い黒髪をポニーテールにした小柄な人間……切れ長の目に薄い唇、アジア系の顔……恐らく中国系だろうなこいつは。
民族衣装は黒色で、袖が長く手の先が見えないほどだ。民族衣装の中央にあるボタンは金色で、肩口に金糸で龍の刺繍が施されている。
とにかく挙手挙動が普通じゃねえ。歩いているだけなのに一切無駄な動きがない。足音を立てないのは当然として、体全体から何等かの武芸を極めた者だけが出す空気が感じ取れる。
こいつは……できる。
中性的な顔立ちで、体つきからは男か女か分からねえが……少なくとも胸はない。声を聞いてみねえとどっちか分からねえな。
奴が俺の前を通過するとき、一瞬だけお互いに目があう。しかし、奴はそのまま俺の座るベンチの前を通り抜け雑踏の中へと消えて行く。
「……どうしたんですか? 健太郎?」
俺が急に包みを触る手を止めたので、ラティアが心配そうな顔で声をかけてくる。
「何でもないぜ。ブレードレース……面白そうじゃねえか」
俺はニヤリと笑みを浮かべると、包みから焼き鳥を出して口に運ぶ。お、こいつはうめえな!
腹がいっぱいになった俺達はデザートをさがして少し歩き、ソフトクリームを買ったラティアはご満悦の表情で歩きながらソフトクリームを舐めている。
俺は酒屋でバーボンとつまみのスモークサーモンやベーコンを買い込み、二人でホテルへと戻った。
その晩、一人で外を眺めながら軽くバーボンを傾けていると、ラティアが部屋にやって来て無言で俺のベッドに潜り込んでしまった。一人じゃ寂しいのかよ……いや違うな。そういやラティアはスペースコロニーが初めてだったんだ。
スペースコロニーは重力や空気こそ惑星にいるときと変わらないが、独特の揺れがある。船に乗っている時ほど酷い揺れじゃあないが、ホテルのベッドで寝転んでいると多少の揺れを感じるんだ。軽い地震の揺れくらいなんだが、地震の揺れと違って左右にゆっくりと揺れるとでも言えばいいのかなあ。
彼女は慣れないスペースコロニーの揺れに一人だと寝れなくなったんだろう。
俺は彼女を追い出すような野暮なことはせず、ゆっくりと酒を楽しんだ後、彼女と一緒に就寝する。もちろん肉体的な何かは無しだぜ。俺は大人の女じゃないと相手はしないからな。
――翌朝
ブレードレースのコースを下見しようとレース会場へ繰り出したところでマミから
さあて、ブレードレースのコースはどうなってんだか。俺はジェットブースターを足に履くとスタートラインに立つ。透明なチューブの直径はおよそ十五メートル。なかなか広いチューブだな。
俺はジェットブースターのかかとを押し込むと、かかとが赤く点灯し
スタートからしばらく直線になっており、第一コーナーは左側へ九十度のカーブ、そこを抜けたら三百六十度の一回転だ。
「イヤッホー!」
こいつは爽快だぜ。ジェットコースターに乗っている気分だ。一回転したのが余りに爽快だった俺は、ここから続く直線で右へ舵を切りチューブの天井へ向けて加速する。
あっさりと天井まで登り切った俺はそのまま反対側まで進み、地面へと戻る。どこでも三次元に動けるのがブレードレースの面白さだな。
次に見えて来たのはシケインだ。シケインを天井を使って通過して遊びつつ抜けると、地面がくりぬかれたコースが前に出て来る。ここは天井を走り抜けるんだな!
おおっと。ここは注意だ。地面がくりぬかれた箇所を通り抜けると次は天井が繰りぬかれている。つまり、天井から地面へここで必ずジャンプしなければならない。ここは敵を脱落させるいいポイントだな。
その後は同じようなカーブが続き、最後にまた三百六十度の一回転を抜けたら直線でスタートラインに戻る。なかなかご機嫌なコースじゃねえか。明日が楽しみになってきやがったぜ。
あの民族衣装を着た達人も参加するんだろうなあ。奴の動きには要注意だな!
コースの下調べが終わった俺はホテルに戻ると、ちょうどマミがホテルに到着していた。彼女はいつものカウガールスタイルで、歩くとパンツが見えそうなほど革のスカートは短い。
長い赤い髪は腰の辺りまであり、たまらない胸と尻を強調する布の少ない衣装だ。短いスカートの裾からは爬虫類のような尻尾が生えている。
マミは俺に気が付くと、尻尾と胸を揺らしながら俺へと駆けて来る。
「ヘーイ! マミ、ご機嫌か?」
「健太郎! ありがとう。ブレードレースに出てくれて」
「いいってことよお。さっきコースを見て来たが、なかなか楽しそうだぜ」
「健太郎。明日のレースの優勝賞品がどうしても欲しいの……」
マミは俺の手を両手で握り、赤い瞳でしっかりと俺を見つめて来る。これは何か事情がありそうだな。
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