第二クール ブレードレース編

第16話 ショッピングだぜ

 ラティアはブラザーの家に住み込みになり、俺とブラザーの助手を務めることになる。彼女は身一つでやってきたものだから、これはいけねえと思った俺はすぐに彼女をショッピングセンターに連れ出し、下着やら化粧品やら服やらその他もろもろを買いに行くことにしたんだ。

 レディたるもの身の回りはしっかりしねえとな。彼女が言うには、すぐにイモムシが宇宙へ旅立ってしまうと危機感を感じていて、急いで両親を説得しそのまま飛び出して来たそうだ。

 俺に会うためにそこまでしてくれたのかと思うと悪い気はしねえ。

 

 だから、俺はいくらでも使って良いぜと彼女に伝え買い物に連れてったってわけだ。

 

 下着や日用品、コスメグッズなどはともかく……同じ柄の高校生風のブレザーを数着選ぶのはどういうことなんだ……

 彼女は今もさらわれた時に着せられた灰色のブレザーに同じ色のミニスカート、黒の太ももまであるタイツに茶色のローファーだ。

 買い物中は終始ご機嫌だったようで、灰色のウサギ耳をピコピコ揺らしながらショッピングセンターの様々な商品に見入っていた。

 

 ラティアの買い物がひと段落ついた俺達は、宇宙規模で展開するコーヒーチェーン店に入り一息つくことにした。彼女は苦いコーヒーが苦手なはずなんだが、また背伸びしてコーヒーを注文しようとしたから、俺は彼女の注文を遮ってココアを頼む。

 少しふてくされたラティアだったが、ココアを口につけると不満そうな顔をしながらもゴクリと喉を鳴らす。分かってるってココアに満足しているのは……だってよ、ウサギ耳がピコピコ上下に揺れているからな。

 あれはご機嫌な時の仕草だって俺には分かっているぜえ。買い物中のウサギ耳の動きと同じだからな。

 

 俺がラティアを微笑ましい気持ちでじっと見ていたら、彼女はムスッとして頬を膨らます。

 

「……私はもう子供じゃないんですからね……」


「分かってるって。ラティア。立派なレディだよな」


 俺がラティアの頭を撫でると、ブスっした顔のままだったが目を細める。

 

「……もう」


 ラティアはボソっと呟くが、そのまま頭を撫で続けると彼女の体から力が抜けていき、膨れた頬もしぼむ。

 

「ラティア。同じような服ばっかりだけど。気に入ったのか?」


「はい! この制服? ってすごく可愛いんです! 黒のタイツにぴったりあいますよね!」


「そ、そうか……良かったな! 数着買えて。色違いもあったしな!」


「はい!」


 ラティアは買い物袋を掴んで胸に抱くと、ウサギ耳が頭にペタリとついた。彼女の頬が紅潮し、よっぽど制服が好きなことが分かる。

 

 おおっと。ブラザーから連絡みたいだな。テントウムシ型の端末がブルブル震えている。俺はテントウムシ型の端末を手に取り、ブラザーからの超高速電話ハイパーテルに出る。

 

「ヘーイ! ブラザーどうした?」


『ようやく、ラティアの両親と確認がとれたよ。ラティアをよろしく頼むということだ』


「そうか! ありがとうよ! ブラザー! 助かるぜ」


『なあに。これから仕事を一緒にしていくんだ。両親の承認は必要だろう?』


 俺とブラザーはラティアが両親を説得して来たと言ってはいたが、彼女はまだ子供だ。親御さんの了承はちゃんととっとかねえとな。

 ブラザーはこういった仕事が得意だったから、彼に任せたんだ。すぐ連絡が取れて良かったぜ。

 

 俺は超高速電話ハイパーテルを切ると、俺の様子をじっと見つめていたラティアに向けて口を開く。

 

「そのテントウムシ……私と色違いですか?」


 ラティアは懐からテントウムシ型の端末を取り出すと机の上に置く。ラティアのテントウムシは黄色と黒の模様で、俺のは赤と黒だ。

 ラティアには通信機と説明していたが、実のところ正確な説明ではない。

 

「そうだぜ。そのテントウムシは超高速電話ハイパーテルや発信機になるだけじゃあないんだぜ」


「……そうなんですか……」


 ラティアはテントウムシ型の端末を手で撫でる。

 よおしいい機会だ。テントウムシ型端末について解説をしておこうじゃねえか。

 

「ラティア。せっかくだから、テントウムシについて少し説明しておくぜ」


「はい!」


 興味津々といった様子で、テントウムシ型端末を手に持つラティアに俺は説明を始める。

 テントウムシ型端末は二つのモードがあって、一つは今ラティアが手にしているような端末モード。これはテントウムシ型ではあるが、腹側がタブレットになっていて超高速電話ハイパーテルをはじめとして様々な機能を使うことが出来る。

 端末モードの操作は全てマニュアルだ。中には背中側の黒い丸模様を押すことで動く機能もある。ラティアに先日使ってもらった発信機の機能とかだな。

 

 もう一つのモードは自動機動モードになる。これは腹のタブレットを左右から閉じればモードチェンジできるんだ。自動機動モードはその名の通りテントウムシが自立して動く。

 音声操作になるから、飛んでついて来いとか、本をスキャンしろなど命令をする必要がある。このモードは男心をくすぐるだけではなく、自分の手を離れて動いてくれるから使い方次第で様々な応用が利くんだぜ。


「……とまあ。そんなところだ」


「……よく……分かりません……」


 ラティアは未開地惑星出身だってことを差し引いても機械類に弱いようだな。テントウムシは男心をくすぐる機能が多数ついているから……慣れない者には扱い辛いのが難点だよなあ。

 例えば目が光ったりって機能もあってご機嫌なんだがなあ。

 

「ラティア。超高速電話ハイパーテルのやり方と発信機の機能は分かるか?」


「な、なんとか……」


「それさえ使えれば充分だぜ! なあに何かあれば俺が助けに行く!」


「……お願いしますね……」

 

 ラティアは頬を真っ赤に染めて少しうつむく。反応が初々しくていい感じだぜえ。

 あ、そうだ。一つ忘れていた。

 

「ラティア。万が一の時の為に一つ操作を教えておくぜ。忘れたらまた聞いてくれ」


「はい!」


「テントウムシを自動機動モードにしてみてくれ」


「……ええと……」


 ラティアはテントウムシ型端末のタブレット部分をアセアセしながら触れているが、良く分からない様子だ。

 俺は彼女の手に手を重ね、指をタブレットの端っこにある黒いマークに動かす。指が黒いマークに触れると、タブレットの両端から黒い甲羅がスライドし、タブレットを覆う。

 これで自動機動モードになったってわけだ。

 

「大丈夫か? 戻る時は戻れと命令するかさっきの黒いマークに手で触れれば大丈夫だ」


「……はい!」


 俺はラティアのテントウムシを端末モードに戻すと、彼女に今度は一人で自動機動モードに変えてもらうように促す。彼女は少し戸惑っていた様子だったが無事テントウムシを自動機動モードへチェンジすることが出来た。

 

「オゥケェイ! あとは守れと命令することだけ覚えておいてくれ」


「……はい!」


 話込んでいたら、結構な時間がたっちまったので俺達はコーヒーショップを後にしてブラザーの家に帰還する。

 

 ブラザーの家に戻った俺達はラティアの買い物を彼女の部屋へ運び込む。彼女の部屋にはベッドとテーブル、椅子の他にはいくつかの洋服ダンスが置かれているが……全てブラザーの趣味なので19世紀の英国式なんだよな。

 アンティーク好きの者だったら飛び上がって喜ぶかもしれないが、ラティアにはちょっとな……今度家具も買いに行くか。

 

「ラティア。荷物の整理をしたら風呂にでも入っておいてくれ」


 俺はラティアの背中をポンと叩くと、彼女にウインクする。

 

「……健太郎はどうするんですか?」


「おう。俺は夕飯を作るぜ。任せろ。味は保障するからな!」


「……料理もできるんですか?」


「そうだぜえ。見た目はともかく味はまあ大丈夫だ」


「……わ、私にも次は作らせてください……」


「オゥケェイ! それは助かるぜ」


 俺はラティアに背を向けて片手を振ると、彼女の部屋から出て行く。

 

 夕食を食べた後、マミから超高速電話ハイパーテルが入ったんだぜ。

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