第15話 未開地惑星編終了

 俺はブラザーとの通話を切ると立ち上がって、イモムシへ手を振る。

 

「よお。イモムシ」


「や、やあ。ケ、ケン」


 イモムシは見たまんま黄緑色のイモムシを人間サイズにして、体の後ろ三分の一ほどを足に見たてて立ち上がった姿をしている。良くこれで歩けるよなあと俺はいつも思うんだが、歩く姿を見ていると案外スムーズに動くんだこれが。

 走ることは苦手みたいだけどなあ。

 

 イモムシが椅子に器用に腰かけるのを待ってから、俺は彼に感謝の言葉を述べる。

 

「ありがとうなあ。イモムシ。超氷結電磁砲アイスレールガン、助かったぜ」


「あ、あれしかなかった。も、もっといいものがあれば良かったんだが……」


超氷結電磁砲アイスレールガンはご機嫌だったぜえ。じゃじゃ馬ほど威力が高いもんなんだぜ」


「そ、そうか。ぶ、無事討伐したと聞いている。い、今、街の者が広場に集まってるぞ。な、ナナハンエアの車載映像を見たいそうだ」


「りょーかいだ。イモムシ。じゃあ広場に行くとするか」


「あ、ああ」


 俺とイモムシが酒場から出ようとすると、何やらわめく女の声がする……この声はマミだな。

 俺が酒場から出ると、ちょうどマミが長い赤い髪を振り乱しながらこちらへ走って来る様子が見えた。ヘーイ! そんなに急ぐといい女が台無しだぜ。

 

 マミは俺の前まで来ると立ち止まって、ハアハア喘いでいる。全く……急ぎすぎだぜ。

 俺は肩で息をするマミの背中を優しくさすってやると、彼女はようやく息を整える。

 

「健太郎! あたしを放って行くなんてどういう了見よ!」


「ヘーイ! 置いて行ったんじゃねえよ。マミ。お前さんなら一人で戻ってこれると思ったんだぜ?」


 俺は肩を竦め首を傾げると、マミは俺の意図が分からないと言った様子で鼻息が荒くなる。彼女は両手を腰に当ててツンと顔をそむけると彼女の動きに合わせて大きな胸も震える。

 

「何よ! 子供じゃないんだから戻れるに決まってるでしょ!」


「そうだぜ。マミ。お前さんは子供じゃあない。ラティアは子供だ。一人前のレディなら一人で大丈夫だと思ったんだ」


「そ、そうね……レディだものね……」


 マミはパアッと頬をあからめ、両手を頬に当てる。全く……単純な娘だぜえ。ま、それも可愛いってもんだがな。

 俺はマミの手を握り、彼女を連れて中央広場まで行った後、ナナハンエアを中央広場まで走らせる。

 

 既に広場にはたくさんの人だかりが出来ており、俺がナナハンエアで撮影した映像を待っているみたいだ。

 広場にポールを二本たて、それに白い布を巻き付けた簡易的なスクリーンに、ナナハンエアの映像を映すと全員が食い入るように俺とマグマの虎の戦いに見入っていた。

 

 映像が終わってからも、しばらくシーンと静まり返っていたがやがて歓声が巻き起こる。

 

「すげえなあんた!」

 

 集まった人達は口々に俺へ称賛の言葉をかけてくれる。いやあ。頑張ったかいがあったってもんだ。

 きっかけはラティアが生贄になると知らずに家に帰してしまったことから始まった事件だったが、終わってみれば万事解決。さすが俺だぜ! 転んでもただではおきねえ。

 

「よおし、じゃあ解散だ! 映像はこれで終わりだからな」


 俺は声を張り上げて、集まった群衆に声をかけると、群衆から俺に盛大な拍手が送られてこの場は解散となる。

 俺とマミとイモムシの三人はこの後、さきほどの酒場に戻り祝杯をあげることにした。

 

 三人で乾杯した後、俺はブラザーから聞いた事の真相を二人に伝えると、二人とも驚きながらも納得した様子で頷いていた。俺の話を聞きながらも三人とも飲む手は休めない。

 マミ……酔うと爬虫類の尻尾がダランと力なく垂れ下がるんだな。分かりやすい。

 お、そうそう。俺はほろ酔いでご機嫌になっているマミへ伝えることがあったことを思い出す。

 

「マミ。ラティアを裏切者から俺がさらったことはお前さんに一つ貸しだ。埋め合わせはするぜ」


 そうだ。マミにきっちり土下座したが、マミの獲物を不当に奪ったのは俺だ。男ってのはきちんと自分の尻を拭くもんだぜ。

 埋め合わせは必ずやる。それが俺のポリシーってものさ。

 

「ほんとうー? だったらー、えんりょーなくーたのんじゃうー」


 マミは酔いからか呂律が回ってない様子だったけど、頼みたいことはあるみたいだな。

 

「おう。言ってくれ」


「ええとー、レースに出て欲しいのよー」


「レースか。何のレースか分からないが、いいぜ」


「やったあー過酷なレースだからーお礼をするわよー」


「俺の貸しを返すだけだから、いいんだぜお礼なんてものは」


「ううんー。もしレースに勝てたらー」


 マミは立ち上り俺にしな垂れかかってくる。ヘーイ! マミの大きな胸が俺の肩へいい感触を伝えて来るぜ。しかしこいつ……酔い過ぎだろ……マミはしな垂れかかったのはいいものの、足が上手く動かないようで俺の胸にしがみついてくる。

 そのまま彼女は顔をあげ俺の首筋にキスをする。

 

「あたしもーあげるー」


 おいおい。大歓迎だが、賞品にベッドインってのはいただけねえ。そういうもんじゃねえんだぜ。男と女ってのはよお。


「おおい。マミ。俺と愛し合うならいつでも大歓迎だぜ。でもな。賞品ってのなら要らねえ」


 俺の言葉にマミはグッときたようで、俺の首に腕を巻き付けて来る。いや、グッときたんじゃないこれは!

 首を絞める癖かよ……締めすぎだぜ……マミ……

 

 祝勝会はこの後すぐに解散となった。何故って? 簡単なことだぜ。酔っぱらったマミが寝てしまったからだ。俺はマミを酒場の二階にある宿の一室に寝かせると、俺も隣の部屋で就寝することにした。

 翌朝酔いがさめた俺はナナハンエアに乗り、宇宙船ハニースマイル号へ向かう。

 


◇◇◇◇◇



 ハニースマイル号で母星まで到着した俺はまずブラザーのもとへと向かうことにした。彼の古文書解読のお陰で事の真相を知ることが出来たし、マグマの野郎がラティアを狙うってことも知ることが出来た。

 ブラザーには礼をしねえとな。

 

 ブラザーの家は英国風の古びた洋館で、一人で住んでいるんだが部屋が八つに研究施設まで付属しているそれなりに大きな家なんだ。俺に取っちゃあ古臭いだけなんだが、人によっちゃあいい感じだって思うらしいぜ。

 俺は洋館の呼び鈴を鳴らすと、すぐに扉が開く。


 中から出て来たのは十九世紀の英国式のスーツにチョッキで決めた紳士風の五十代に見える男――ブラザーだった。ブラザーは白髪をオールバックにして、片眼鏡モノクルをかけたダンディズム溢れる見た目をしているが、実は人間じゃあない。

 彼は人間に擬態した触手型の異星人なんだぜ。もっともめったに元の姿に戻ることはないんだけどな。

 

「ヘーイ! ブラザー。ご無沙汰だな」


「やあ。健太郎。入りたまえ。積もる話を聞かせてくれ」


「もちろんだぜ。ブラザー。古文書の解読助かったぜ」


 俺とブラザーは話をしながら、奥の居間へ向かう。

 居間の扉を開けると、珍しくテレビの音がする……テレビの前のソファーからウサギ耳が見える。灰色のウサギ耳だ……これはまさか。

 

「……健太郎!」


 俺に気が付いた灰色のウサギ耳に長い黒髪、前髪を真っすぐに切りそろえた少女――ラティアが俺の胸に飛び込んでくる。

  

「ラティア。どうしてここに?」


 しかしラティア……服装がずっと高校生のようなブレザーに超ミニスカート、黒タイツに茶色のローファーのままなんだが、気に入ったのか?

 タイツから覗く絶対領域が眩しいぜ。


「……健太郎に会いたくて……両親には話をしてきました……それで、イモムシさんに頼んで……」


 ラティアは上目遣いで俺を見つめながら、途切れ途切れに言葉をつむぐ。

 なるほどなあ。イモムシに連れて来てもらったってわけか。ラティア達は宇宙船を持っていねえからな。ってイモムシ……未開地惑星に住む奴らに宇宙船と接触させたらダメってのを知っててやりやがったな。

 あいつもなかなかいきなことをするもんだ。


「そうなのか。いつまでいるんだ?」


「……ずっと……いたいです……一緒に働かせてもらえますか?」


 潤んだ瞳で俺を見上げて来るラティア。そんな顔をされたら断れねえぜ。

 こうして、ラティアを迎え入れ、彼女は俺の助手として働いてもらうことになったんだぜ。 

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