第14話 ラティアまた会おうぜ!

 ラティアを乗せたまま彼女の住む街の門へナナハンエアを停車させると、ウサギ耳の門番二人がこちらを伺うように俺に声をかける。

 俺はナナハンエアから降りて、後部座席に座るラティアの腰を両手で掴むと彼女を降ろす。俺に降ろされたいのか彼女は自分から降りようとしなくなってしまったぜ。

 いい男ってのは女に優しくだからな。面倒だとは思わねえ。むしろご褒美なんだこれは。

 

「よお。調子はどうだい?」


 俺は改めて門番二人に向きなおり、陽気に声を返す。

 

「あんたこそ……無事で何よりだ。化け物はどうなったんだ……?」


 門番二人はしけた顔で俺に訪ねて来るが、仕方ねえことだよな。あの化け物が暴れたと聞いてたら。

 

「化け物は仕留めてきたぜ! もう生贄なんて必要なくなったってわけだ」


「ほ、本当なのか? し、信じられない」


 こんなこともあろうかと、ナナハンエアの前面にカメラがついているんだ。

 

「白い壁があれば、奴がくたばった様子を映せるが。見るかい?」


「あ、ああ。ぜひ。街の皆を集めるから、そこで!」


 門番二人はまだ半信半疑な様子だが、俺がナナハンエアに映像を録画してると知ると色めきたつ。二人は急いで街の中に駆けて行った。

 ヘーイ! もう少し落ちついたらどうなんだ。慌てる男はモテねえぜえ。

 

「ラティア。お前さんの家に戻ろうか」


「……はい」


 俺はラティアの右手を握ると、彼女の手を引いて彼女の家へと向かう。最初彼女を家に送り届けた時と違って今は生贄にされる心配もないってわけだ。

 めでたしめでたしってな。

 

 家の前まで着くとラティアは俺の手を引き、俺に抱きついてきてギュッと俺を抱きしめる。俺も彼女の背中に手を回し抱きしめかえす。

 彼女はウサギ耳をピンと立てて、少し背伸びをすると俺へ口づけしてくる。そっと口を合わせるだけのキス。彼女は口を開き舌を出してくるが、俺はそっと彼女から顔を放すと人差し指を彼女の唇に当てる。

 

「おっと。その先は大人になってからだぜ」


「……もう大人です……」


 ラティアは頬を膨らませると、腰に手を当てプンスカとお怒りモードになる。ウサギ耳も上下に揺れ彼女の感情を表している。

 俺は彼女の長い黒髪をそっと撫でると、彼女のお尻に手を当て少しだけ触る。

 

「……もう!」


 ラティアは真っ赤になって俺から飛びのくが、俺は豪快に笑う。

 

「あと二年たったら立派な大人だ。それまではダメだぜ!」


「……二年たったら続きをしてくれますか……?」


「おっと、レディがそんなことを言ったらいけねえ」


 俺は再び彼女の口に人差し指を当てると、彼女の額に軽く口づけをする。


「……絶対……なんだから……」


 ラティアが何か呟いたが、声が小さすぎて聞こえねえ。まあいい。男ってのは細かいことは気にしないってもんだ。

 

「ラティア。達者に暮らせよ。また来るからな。寂しくなったらそのテントウムシで連絡しろよ」


「……はい」


 俺とラティアは再び軽く抱き合うと、お別れをした。あばよ。ラティア。また遊びに来るからな!

 


◇◇◇◇◇


 

 ラティアと別れた俺は、イモムシがいるであろう酒場に向かう。到着したはいいがイモムシは酒場に居なかったから一人たがテキーラで祝杯をあげることにした。もちろんグラスの淵に塩もつけてだぜ。

 おおっと。ブラザーにも連絡を入れねえとな。俺はブラザーに超高速電話ハイパーテルをかける。

 

『……チェンジである』


 おや。ブラザーの声は聞こえるが取り込み中か? 何がチェンジなんだか……ブラザーも変な趣味を持っているもんだな……ブラザーは触手型の異星人なんだが、人型形態を取ることが出来る。

 趣味はデリバリーヘルス。略してデリヘル。ブラザーは何故か人間の若い女性が好みみたいでホテルを借りてはデリヘルとしゃれこんでいるんだが、具体的にどうやって楽しい遊びをしているのか分からねえ。

 知りたくもねえけどな。

 

 彼は「チェンジである」と言って必ず一回は呼び出したデリヘル嬢を交代させる。特に容姿でNGを出すわけじゃあなく、あえて「チェンジ」と言いたいだけらしい。

 

「ブラザー。お楽しみ中のところ悪いが……」


『ああ。もう終わったからいいのだよ。マグマは倒せたかね?』


「バッチリだぜ。超氷結電磁砲アイスレールガンで仕留めた」


『あんな使い勝手の悪い武器で良く倒したものだ。さすが健太郎といったところかね?』


「なあに、じゃじゃ馬ほどハマると威力が大きいってもんだ」


『確かにそうだが……ああ。古文書の解読結果を聞きたいのだったね?』


「ああ、そうだ。イモムシの野郎が戻ってくるまで時間があってな」


『ふむ。かいつまんで話すとしようか。詳しくはこちらに戻ってから自分で読むといい。すでに宇宙共通語に翻訳済みだ』


「ヘーイ! 相変わらず仕事が早いな」


 ブラザーはあの書庫にあった書物を簡単にまとめて俺に説明してくれる。あの書庫には二種類の文字があったのは洞窟の中で聞いた気がするが、あの時は戦闘中だったからな……

 書物は古い物と新しい物があるみたいで、新しい文字で書かれた書物は現在ラティア達が使っている言語に近いらしく、もう一つの古い書物はなんと古代宇宙共通語で書かれているってことだ。

 古代宇宙共通語っていったら、いまから三百年前には既にすたれて使われなくなった書式なんだが……また骨董品が出てきやがったな。

 

 ラティア達の言語で書かれた書物は、彼女達が把握している生贄の話に近い。生贄はマグマの化け物を鎮める為に差し出し、生贄が生まれていない時にはガタライト鉱石をマグマの化け物に捧げるが、マグマの化け物は怒り狂いその場に居た者を食い殺すそうだ。

 解決方法は二つあって、マグマの化け物を始末するか試練の道の最後にいるあの岩の巨人を倒し、岩の巨人が持つという何かをマグマの化け物に捧げることで恒久的にマグマの化け物が大人しくなるという。

 

 うん。これはだいたいラティアから聞いていたとおりだな。しかし、実際に岩の巨人を倒してもドロップするのはガタライト鉱石で意味がない。試練の道はクリアしようがマグマの化け物を鎮めることはできなかったってわけだ。

 

 これはどういうことなのか? ってのは、古代宇宙共通語で書かれた書物に記載されている。

 その昔、この星へ降り立った異星人の集団がいた。彼らは未開地惑星から違法に資源を採掘していく犯罪者で、この星の資源を秘密裡に調査するためやって来たという。

 彼らは原住民の英雄になるべく、怪物を自分たちで仕立て上げ生贄の祭壇や試練の道をつくりあげる。一度マグマの化け物に街を襲わせて、街の住民の恐怖心をあおり、祭壇へ生贄を捧げさせることに成功する。

 生贄となったのは、不思議な生命力を持つ灰色耳の少女を指定した。灰色耳の少女のエネルギーはガタライト鉱石以上にエネルギーを引き出せるようで、マグマの化け物を動かす動力としてちょうどよかった。

 

 そうした後に、試練の道の情報を流し街の住民に試練の道へ挑戦するよう誘導する。しかし、岩の巨人は街の住民の技術力では打倒できない。絶望に暮れる街の住民の前に彼らがさっそうと現れ岩の巨人を討伐し、続いてマグマの化け物をこっそり停止ささせる。

 これで街の住民にとっては彼らが英雄となるって寸法だ。

 

 悪賢い計画だが、計画自体はよくできていた。実際に街の住民が試練の道へ挑戦し、絶望に暮れるまでは上手くいった。しかし、この時になって彼らは警察組織に摘発されこの星を去ってしまう。

 残されたマグマの化け物はプログラムされたとおりに動き、生贄をずっと求め続けたというわけだ。百年という単位は彼らが冗談で設定した年数でたまたま百年になっていたに過ぎない。

 ガタライト鉱石を捧げた時に人を襲うのも、ガタライト鉱石だけではエネルギーが不足するので人を襲ってエネルギーを補充していたというわけだ。

 

 なんともまあ、納得できねえ理由だが……過ぎてしまったものはもう仕方がねえ。

 幸いマグマの化け物は討伐したから、今後生贄騒ぎは起きないからな。犠牲になった者には悪いが、それで良しとさせてくれ。

 

 ちょうどブラザーの話を聞き終えた時、イモムシが酒場へとやって来た。

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