第11話 マグマの化け物

 祭壇は山頂付近の一段高いところに設置されていて、大理石で建築されたギリシャのパルテノン神殿みたいな造りをしていた。神殿のすぐ奥は崖になっており、落ちたらイチコロだろうな。

 なぜなら、崖から下を覗き込むと底が確認できないほどの距離があるからだ。


 俺はマミを連れて神殿のような建物に入ると、中にある円形のオブジェが目に入った。オブジェには金色で六芒星が描かれておりいかにも胡散臭い……だいたいここの文明に六芒星なんてあるのかよお。

 

「健太郎……これって六芒星よね?」


 マミが金色の線を手で触れ俺を見上げる。その姿勢だと大きな胸の谷間がよおく観察できるぜ。

 俺は胸に目線を取られながらもマミへ無言で頷く。

 

 六芒星とこの星では呼ぶのか知らねえが、特異な図形ではないからこの星にあってもおかしくはねえ。しっかし、さっきの岩の巨人といい、この六芒星といい。なんだかなあ。

 まあいい。男ってのは細けえことは気にしないってもんだ。

 

「マミ。ガタライト鉱石をこの祭壇らしきところに置いてみるか」


 俺は六芒星が描かれた丸い祭壇に乗ると、中央部までゆっくりと移動する。あつらえたように中央部にはくぼみがあり、俺が先ほど手に入れたガタライト鉱石がぴったりハマりそうだ。

 さあて、蛇が出るか鬼が出るか。いっちょうここにガタライト鉱石を置いてみるか。

 

「マミ。これからここにガタライト鉱石を置く。外に異変がないか見ておいてくれ」


 俺がマミに告げると彼女は片手をあげて神殿の奥へと進む。あの位置からだと崖の下が良く見えるはずだ。そうか。マミは崖から何か来ると踏んだんだな。

 マミと同じように俺もガタライト鉱石をここに置けば、必ず何か出て来ると確信している。誰がこの仕組みを作ったのか分からねえが、岩の玉、岩の巨人と同じ製作者ならば……きっとここでも何か仕掛けて来るはずだぜ。

 

 俺はガタライト鉱石を祭壇のくぼみにはめ込む。

 次の瞬間――

 

――祭壇全体が震え始める!


 これは何か来やがるな! 

 

「健太郎! 崖から何か来るわ!」


 崖に注目していたマミが叫ぶ。俺は急ぎマミの隣まで行くと崖を覗き込む。

 

 マグマだ。赤いマグマの塊がこっちへ向かってくるぞ。マグマは液体状であるが崖の壁に沿ってこっちへ登って来る。どれだけの量のマグマがあるのかは現時点で不明。

 しかし、岩の巨人のサイズよりは大きいだろうぜ。巨人より後に戦う敵なんだからよお。

 

「マミ。こいつは手持ちの武器じゃあ太刀打ちできねえかもしれねえ」


 マグマが相手となると、超振動ハンドアックスでぶった切ることも出来ねえだろうし、レーザーの熱で溶かすことも難しいだろうからな。

 

「マグマ……何がいいのかしら……」


 マミは首をひねり、尻尾をバタバタと地面に打ち付けて考え込む。

 

「マミ。イモムシのところへ先に行くことはできるか?」


自動操縦型個人飛行機グライダーを持ってるわよ。すぐに呼ぶわ!」


「頼むぜえ。俺は奴をここで見ておく」


 マミは踵を返し、神殿から走って出て行く。そうしている間にもマグマは崖の上層部まで登って来ていて、あと少しでここまで来る!

 よおし。一丁やってやるか。

 

 俺は首を回し指の関節をゴキゴキ鳴らすとレーザー式44マグナムを両手に構える。

 

――マグマの塊が崖の上に到達する! 

 

 俺は狙いをつけレーザー式44マグナムのトリガーを引くと、レーザーが崖の上から神殿の床に垂れ下がって来たマグマに難なく命中する。

 水が蒸発するような音をたてて、マグマが一部蒸発するが……ダメだこれは。てんで話にならねえ。マグマの量からすると、プールに入った水の一滴を蒸発させたくらいしか効果がねえぞ。

 

 参ったねこれは。男ってのはなあ。ピンチの時ほど冷静にならなきゃあいけねえ。

 俺はマグマの様子を確認しながらも、後ろへと下がっていく。

 

 その間にイモムシへ超高速電話ハイパーテルで連絡を入れ、敵の形状がマグマだと伝える。マミを送るから敵に対応できる武器を渡すように頼んだ

 そうこうしているうちに、マグマが崖を登り切り形状が変わる! 

 

 マグマは体長十メートルはあろうかという赤い虎へと形を変え、ゆっくりとこちらへ向かって来る……必ず形が変わると思ったが虎ときたか。男心をくすぐる形状だが、今は見とれている場合じゃあねえ。

 俺がさらに後方へ下がろうとした時、超高速電話機ハイパーフォンがけたたましくアラーム音を立てはじめたじゃねえか。

 

 誰だあ。こんな忙しい時によお。

 俺が超高速電話機ハイパーフォンのディスプレイを確認すると、相手はブラザーだった。

 ヘーイ! ブラザー。何か分かったのか? これは超高速電話機ハイパーフォンに出ねえといけねえな。

 

「ブラザー。何か分かったのか?」


『もちろんだとも。健太郎。状況はどうだ?』


「ちいとだけ切迫しているぜ。マグマの虎がこっちへ向かってきている」


『ガタライト鉱石を祭壇に捧げたのだね?』


「ああ。そうだ。そんでマグマが出てきやがったんだ」


『ふむ。詳しい話は後だ。その虎は例の少女が目的で間違いない。健太郎の手持ちの武器だとその生物は倒せない。まずは少女を守れ!』


「何だって! レディの危機とあれば急がねえといけねえな」


『相変わらずだね。健太郎。健闘を祈る。何かあればすぐ連絡をくれたまえ』


「了解だ。サンキュウ。ブラザー」


 ブラザー。ナイスタイミングの超高速電話ハイパーテルだったぜ。マグマの虎は未だゆっくりと歩いている。俺の方へ向かっていると思っていたが、攻撃してくる様子はない。

 なるほどな。ラティアの奴をさがしているってことかよ。奴がどんな方法でラティアを探っているのか分からねえが、まだ見つけてないんだろう。今のうちにラティアの元へ急ぐぜ。

 都合のいいことにラティアにはテントウムシ型の超高速電話機ハイパーフォンを渡している。俺と色違いの超高速電話機ハイパーフォンだぜえ。

 

 イモムシの情報によると、この山に向かっているらしいから、ラティアに連絡しながら山を下りるか。俺はマグマの虎を睨みつけながら奴に背を向け全力で走り始める!

 

 全くさっきから超高速電話ハイパーテルばかりだな。男ってのは堂々と直接会話するもんなんだが仕方ねえ。

 

 よおし、ラティアに繋がったぞ。

 

「ラティア。今どこにいる?」


『……健太郎?』


「いまからそっちへ行く。場所を教えてくれ!」


『……で、できません。できないよお……健太郎……わ、私は……』


「生贄になるってんだろ? 知ってるぜ。事情は後で説明する。周りに聞かれたくねえんだったら、テントウムシの背中のボタンを押せ」


『……分かりました……』


 俺が超高速電話ハイパーテルを切るとすぐにラティアから位置情報が送られてくる。俺はゴーグルを装着するとラティアの現在地がゴーグルに表示される。

 まだ山を登り始めていねえんだな。急ぐぜえ。


 俺の全力疾走を舐めちゃあいけねえ。一時間もしないうちに俺は山のふもとに到着し、ナナハンエアに乗り込む。

 マグマの虎は必ずこっちへ向かってくる。形状からすると奴が走り始めたら相当な速度に違いねえ。先にナナハンエアに乗れたことは幸いだぜ。

 

 待ってろ! ラティア! 

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