第10話 岩の化け物

 岩の巨人の肌は磨かれた大理石のようにテカテカして、八メートルもある大きな図体の割に動きが速ええ。まるでゴムか何かでできているかのような滑らかな動きで俺に巨大な右腕を振るう。

 奴の巨体から振り下ろされる腕は唸りをあげて空気がビリビリと震えるが、そんなんじゃあ俺には当たらねえぜ。

 

 俺は紙一重で奴の腕を避け続け、レーザー式44マグナムのトリガーを引く!

 

 レーザーは見事奴の胸へ当たる!

 

 何!

 

――レーザーで解けた岩肌がみるみるうちに元通りになっていくじゃあねえか。なるほど。形状記憶自動修復ってやつかあ。なるほどなるほど。

 俺は背中の超振動ハンドアックスを抜き放つ。元に戻るってんなら、バラバラに砕いてゴミ箱にポイしてやるぜえ!

 

 俺は岩巨人の左右から繰り出される腕の攻撃をひょいひょいっと体を捻って避け奴に肉迫する。俺の頭の上でもまだ奴のまたぐらまで届いてねえ。やっぱでけえなこいつ。

 超振動ハンドアックスを勢いよく振り上げ、振り下ろす。

 

――狙うは左の膝だ!


 超振動のおかげで切れ味は抜群だぜえ。腕にさほどの抵抗を感じず、奴の左の膝から下は見事に切り離された。返す力で反対側の膝へハンドアックスを振り切るとこちらも切り落とすことに成功する!

 両膝から下がなくなった巨人は派手な音をたてて後ろに倒れ込む。

 

 よし、ここからだぜえ。

 

 切り離された両膝から下の足は巨人の本体へ戻ろうとズルズルと地面を這い始める。俺は奴の切り離された左膝から下の足へとハンドアックスを振るう。

 何度もハンドアックスを振るうと、岩の足はバラバラになっていくが、なおも元に戻ろうと岩の塊がうごめいている。

 

 さあて、勝負だあ! 俺が超振動ハンドアックスのパワーゲージを最大までスライドさせると、高く澄んだ音をハンドアックスがたて始める。

 そのまま一気にバラバラになった岩へと振り下ろすと、岩は粉々の結晶にまで分解される!

 

 これぞ。超振動による分子分解ディセンブリー

 細かく砕いた岩へ、超振動する物体を勢いよく当てると、振動によって原子レベルまで分解されるって奴だぜ。

 これでどうだ? まだ集まろうとするか?

 

 俺の心配は杞憂だったようだぜ。砂の結晶にまで分解された元岩の塊は形状記憶自動修復の仕組みごと打ち砕いたようだ。

 こうなりゃあとは砕いて行くだけだ。少しタフだがやるとしますかあ。

 

 俺は超振動ハンドアックスを構えると、今にもくっつこうとしていた右膝から下の足も同じように超振動で分子分解ディセンブリーする。

 

 両足を失った岩の巨人を悠然と見下ろした俺は奴の様子がおかしいことに気が付き、急ぎ飛びのく。

 

――巨人が八個の岩のブロックに分裂しやがった!


 そういや、最初は岩のブロックだったよなあ。

 

 おおっと。岩のブロックが宙を飛び次々に俺へと向かってくるじゃねえか。これは時速八十キロ近く出てるぜえ。いくら俺でもこれに当たればイチコロだ。

 俺は岩のブロック同士がぶつかるように、俺と岩のブロックの位置に注意しながらブロックをかわしチャンスを伺う……

 

 ブロックの数は八個だ。これくらいの数なら上手くはまる位置が必ずあるはずだ。

 そしてすぐにチャンスが訪れる。一つのブロックが完全に他のブロックの攻勢を邪魔する位置に配置されたから、俺はすかさずそのブロックを打ち砕き、粉にする!

 

 同じ要領で一つ、また一つとブロックを粉にしていくと砕いたブロックから紫色にぼんやり光る鉱石が出て来た! しかしまだブロックは残り三つ。

 このお宝は後回しだ。

 

 残りのブロックを粉にした俺は、両手で抱える程の大きさがある紫色にぼんやり光る鉱石を手に取る。鉱石はアメジスにそっくりだが、ぼんやり光っているところがアメジストと異なる。

 オウケイ! これはイモムシから聞いていた通り「ガタライト鉱石」に違いねえ。

 

「やるわね。健太郎!」


 俺の戦闘が終わった事でこちらに戻って来たマミが俺の肩を叩く。

 

「俺にかかればこんな相手楽勝ってもんよお。だがな……」


「だけどなに?」


「いい女を守るってことで、いつも以上にパワーがみなぎったのは確かだぜえ」


「もう!」


 マミは赤くなって、俺の背中をバンバン叩く。なあに、いい女ってのは本当じゃねえか。照れることはねえ。

 

 よおしガタライト鉱石を手に入れたし、祭壇ってところに行くか。

 イモムシの言葉の通りなら、試練の道は祭壇へと繋がっているって言ってたな。このまま進めば祭壇に到着するはずだぜ。

 

 その時、超高速電話ハイパーテルが入る。相手はイモムシか。

 

「ヘーイ! イモムシ。ご機嫌かあ?」


『け、健太郎。そ、そっちへラティア達が向かっている……』


「何だって? 何があったんだ?」


『ぎ、生贄の儀式を十日かけて行うみたいだ。し、心配しなくても生贄にされるのは十日後だ』


「心配させんなよお。ガタライト鉱石はもう手に入れたぜ」


『そ、そうか! さ、さすが健太郎だな。この惑星の者だと難しい案件だったのか?』


「ガタライト鉱石を持っていた巨人が形状記憶自動修復機能を持っていやがったんだ」


『な、なるほどな。分子分解ディセンブリーの技術がないと不可能だな……た、倒すのは。し、しかし不可解だな……』


「俺もそう思うぜ。こいつは臭う」


『ほ、他にも怪物がいるかもしれないな。ぶ、武器をいくつか取り寄せておく……」


「助かるぜえ」


 俺はテントウムシ型の超高速電話ハイパーテルを切ると、マミへ向き直る。

 

「マミ。行くかあ。祭壇ってところによお」


「ちょ、ちょっと説明してくれない?」


 マミは慌てたように俺の後ろをついてくるが、まだ俺が「臭う」って言った意味に気が付いてねえようだ。


「いいかあ。マミ……」


 俺は歩きながら、俺が何故「臭う」って言ったのか説明することにした。あの巨人が持っていた形状記憶自動修復の機能は少なくとも宇宙へ出るくらいの科学技術力が無ければ作ることができないんだ。

 あの巨人は恐らくこことは違う外部の文明によって作られたに違いない。いや、過去に宇宙へ出る事ができるほどの文明があったのかもしれねえが……

 とにかく、今のこの星の技術じゃあ形状記憶自動修復の概念さえねえだろう。

 

 そんな奴らに形状記憶自動修復する巨人を倒せっこねえ。いつまでも再生しちまうからな。


「確かに言われてみればそうね。あんたが超振動ハンドアックスを持ってなかったら巨人は倒せなかったってわけね」


「その通りだ。超振動武器がないこの星の奴らじゃあ巨人は倒せねえ」


 俺は腕を組み肩を竦める。

 

 生贄の仕組みにも何か秘密がありそうだな……ブラザーが解読している本に何か書いてあるかもしれねえな。

 思い立ったが吉日だ。ブラザーの解読が終わったか聞いてみようと俺は超高速電話ハイパーテルを取り出し、ブラザーへ連絡する……

 

 残念なことにもう少し時間がかかるようだ。なんと二種類の言語が使われていたそうで、本ごとにバラバラの年代らしく整理するのにもう少し時間をくれってことだった。

 こいつはますます胡散臭いぜえ。

 

 巨人の居た大広間を抜けると、細いらせん階段のような道が続いており、五分も歩かないうちに外に出る。久しぶりの陽ざしと外の空気に清々しい気分になる俺だったが、歩みを止めずそのまま進む。

 

 ほう。これか。祭壇ってのはよお。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る