第8話 祭壇と試練の道

 マミとナナハンエアでドライブすること二時間ほど。草原から森に入り、ゴーグルに映る地図は目標地点の山まであと少しを示している。前を見ると、あるぜ山が。

 この分だとあと五分ってところだな。

 

「マミ。もうすぐ着くぜ」


「望むところよ!」


 マミから気合の入った声が帰って来る。それはいいんだが、何故俺の首を絞める! 豊満な胸が俺の頭に当たるのはいんだが、首を絞めるな!

 

「マミ。お前さん。興奮したら首を絞める癖でもあるのか?」


「え。あ、ああ。ごめんごめん」


 ようやく首から手を離してくれたぜ。こいつベッドの上でも人の首を絞めてんじゃねえだろうな。

 そんなやり取りをしていると、ナナハンエアは山のふもとへ到着する。

 

 山には整備された山頂へ向かう道とは別に試練の道へと続く入口があるはずだが……辺りを探索するとすぐに見つかった。

 分かりやすい入口だぜ全く……

 

「洞窟ね。これは」


 マミは試練の道の入口……横幅二メートル、高さ二メートルほどの洞窟を指さす。

 

「試練の道ならぬ、試練の洞窟かよ。よおし。マミ。暗視スコープは持ってるのか?」


「もちろんよ!」


 マミはカウボーイ風のミニスカートに手をやると、サングラスを取り出す。サングラス型のスコープか。拘るねえ。

 俺はナナハンエアに乗る時に装着しているゴーグルがそのまま暗視スコープ機能を持っているから問題ない。



◇◇◇◇◇



 進むこと三十分。山頂に向かっているのか洞窟は峠の道のようにらせん状に登る形になっている。しかし、何もない。猛獣さえいねえ。きっと何かあるんだろうが、今のところ拍子抜けだぜ。

 この洞窟は明らかに人工的に作られたもので、洞窟の壁は自然な岩肌じゃなくて掘った後に磨かれているな。手で触れるとツルツルしている。

 

「健太郎。何か音が聞こえない?」


 マミが尻尾をピンと立て壁に耳を当て何かを聞き取っているようだ。

 確かに、床に振動を感じるな……うお。音が近くなって来ているぞ。何か大きな物がこちらに迫って来ている。

 

――球体だ! 岩で出来た道幅ギリギリのサイズがある岩の玉が奥から転がって来る!


「健太郎!」


 マミは不安そうな顔で俺を見るが、任せておけ。

 

「任せておけ。何とかしてやるからなあ!」


 俺はマミの前に立ち、迫りくる岩の玉を待ち構える。腰を落とし、両手を前に。

 岩の弾のサイズは直径およそ二メートル。来やがれ!

 

 俺は転がって来る岩を手で支えると、そのまま岩の勢いを殺すべく踏ん張る!

 グウオウ! さすがに勢いのついた岩の球体の重さは半端ねえぞお! 岩に押される俺の足と地面の岩肌が擦れ、煙を上げる!

 

 な、なんとかなりそうだぜえ。岩の球体を受け止め切った俺は両手で思いっきりそれを押し込む!

 岩が二メートルほど押し戻されるが、地面がこちらへ傾斜しているため少しづつまた動き始める。俺は素早く背中から超振動ハンドアックスを取り出し、両手で構えると岩の球体を待ち構える。

 

「イヤッホー!」


 俺は気合と入れると岩の球体に向かってハンドアックスを振り下ろす! 

 見事に岩の球体は真っ二つになり、その歩みを止めた。

 

「ありえない馬鹿力ね……」


 マミは呆れたように腕を胸の前に組み、首をかしげる。

 こんな岩程度、俺に取っちゃあ軽い運動さ。

 

「先へ進むぜ」


 俺の言葉にマミも気を取り直して歩き始める。

 しばらく進むと、また例の振動がこちらへ迫って来る……全く二番煎じもいいところだぜ。

 

 来たぜえ! さっきと全く同じサイズの岩の球体がよお。

 今度は直線距離があったから、俺は腰のホルスターからレーザー式44マグナムを二丁抜き放ち、岩の球体に狙いをつける。

 

「飛び道具ってのは、心穏やかにして撃つもんだぜ」


 俺は言葉と共にレーザー式44マグナムのトリガーを引くと、レーザーが岩を破壊する。

 

 二度目の岩の球体からは順調に進み、歩くことさらに一時間。今度は吊り橋が見えて来た。道は吊り橋に続き、吊り橋がかかっているところはもちろん崖だ。

 崖の下を覗き込むと、これまで登って来た高さ分は底まで距離がある。吊り橋は幅が七十センチ、長さが三十メートルほどかな。

 

「健太郎。この橋、絶対落ちるわよ!」


 マミはお約束ともいえるこの吊り橋に警戒心をあらわにしている。岩の球体といい吊り橋といい、なんともまあ古典的なトラップだよ。

 こんなもんに引っかかる奴がいるのかよお。

 

「これは、渡ると落ちる奴だよなあ?」


「そうに違いないわ!」


 マミと俺は顔を見合わせると、お互い肩を竦める。全く、呆れるぜ。こんな罠とはな……

 

 俺は作業着のズボンをまさぐると、伸縮性ワイヤーを手に取る。

 伸縮性ワイヤーは手のひらサイズのマジックペンのような見た目だが、ボタンを押し込むと頑丈なワイヤーが射出される。ワイヤーの先端は突き刺さるように鋭利な刃物でできており、洞窟の岩程度の強度なら充分固定することができるだろう。

 

「まあ、見てろって」


 俺はマミにウインクすると、吊り橋の方向へ向き直り、対岸の通路の天井目がけてワイヤーを射出する。

 見事にワイヤーは岩に突き刺さり、ワイヤーを固定することに成功したぜ。

 

 俺はマミの後ろに立つと、彼女の膝に片腕を通し、そのまま掬い上げる。膝を持ち上げられた彼女は体勢を崩し背中が倒れて来るが、俺が背中を優しく支え彼女を抱き上げた。

 所謂姫抱きってやつだな。

 

「ちょ、ちょっと!」


 マミは顔を真っ赤にして、尻尾をジタバタと振るわせると大きな胸も揺れる。壮観だが、今はそんなに眺めてる時間はねえ。

 

「しっかりお得意の首を掴んでおけよ!」


「もう。首のことは言わないでよ!」


 といいながらもマミは俺の首へと両手を回し、しっかりと固定する。


「イヤッホー!」


 俺は伸縮性ワイヤーのボタンを押すとワイヤーは先端に向かって巻き取られていき、それに合わせて俺達の体も宙を舞う。

 

――俺とマミは吊り橋を飛び越え、見事対岸へ着地する!


「マミ。もう首は離していいぜ」


 俺は腕を首から離そうとしないマミへと声をかけると、彼女はまた尻尾と胸を揺らす。

 

「わ、分かってるわよ! しがみついていたいって思ったわけじゃないんだから!」


 そうか、俺にもっとしがみついていたかったのか。可愛いところあるじゃねえかよ。

 俺はクスリと微笑すると、それに気が付いたマミは俺から飛び降りる。

 

「もう!」


 腕を組み、俺を睨みつける彼女を抱き寄せると軽くキスをする。

 

「そうカッカするなって」


「知らない!」


 プンスカと腕を腰にやり、口を尖らせたマミはそのまま前へと歩いて行ってしまう。

 やれやれ。俺は走って彼女に追いつくと、軽く彼女の尻を撫でる。

 

 とたんにわめき散らすマミにヒラヒラと手を振り、俺は前へと走り出した。

 ヘーイ! ついて来れるならついてきなあ!


「こらー!」


 後ろでマミの叫び声が聞こえる。全く騒がしい奴だぜ。

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