第7話 女海賊マミ・ブラウンシュガー

「よお。久しぶりだな」


 俺の挨拶にキッと俺を睨めつけながらも額を押さえているマミ・ブラウンシュガーは相変わらずやかましい声でわめく。


「やっと見つけた! 絶対この街まで来るって分かってたから! あの女を渡しなさいよ!」


「おー。怖え怖え。ところで子猫ちゃんよお。お前さん、イモムシから依頼されたのか?」


「ええそうよ! 良く知ってるじゃない! チンピラが裏切ったから女を取り戻してくれってイモムシに依頼されたのよ!」


 そういう事かよ。事情を知らなかったとはいえ、あの時この女海賊とちゃんと話をしていたら……

 今回のシナリオはこうだ。ラティアを生贄にさせたくない彼女の叔父が彼女を星の外まで連れだすようにイモムシに依頼した。依頼を受けたイモムシは俺が吹っ飛ばしたハゲらに連れられてこの星を脱出。

 しかし、ハゲらはイモムシを裏切り、高値で売れるだろうラティアを売り飛ばそうとした。だから、イモムシは女海賊マミ・ブラウンシュガーにラティアの奪還を依頼したってわけか。

 そこに俺がしゃしゃり出てラティアをハゲから救い出し、この街へ連れて来たってことだ。

 

「すまない。言い訳しねえ。あの時は俺が悪かった!」


 俺は両手をつき、女海賊へ謝罪する。ラティアの命って面から見たら悪いのは俺だ。悪いと思ったらしたら潔く謝るのも男ってもんだ。

 突然の土下座に彼女は戸惑ったように一歩後ずさると「わ、分かればいいのよ……」と独白する。彼女の尻から伸びた緑の尻尾も戸惑ったように左右に揺れている。

  

「で、あの女はどこ?」


「事情はイモムシから聞いてくれ。俺は行くところがあるんだ」


「え? ええ。どういう事? ちょっと待ちなさいよお!」

 

 そのままマミを素通りしようとした俺の肩を彼女が掴んでくる。そこへ、騒ぎを聞きつけたイモムシが割り込んでくる。

 

「マ、マミ。じ、事情は私から話そう。ケ、ケンを行かせてやってくれ……」


 イモムシは紳士的にマミへと声をかけるが、彼女は収まらない様子でかぶりを振る。

 

「何処へ行くのかわからないけど! あたしもあんたについて行くわよ! 道中で事情を教えなさい!」


 これは何言っても聞かねえな。全く……まあいい。カワイ子ちゃんをナナハンエアに乗せるのは大歓迎だぜ。

 

「わかった。じゃあ。俺のバイクに乗ってくれ」


「変な事したら殺すから!」


「やれやれ……」


 俺は大げさに肩を竦めると、酒場の扉をくぐり後ろでプンスカわめくマミを引き連れて街の門まで向かう。

 

 門番ガードに軽く挨拶をすると、ナナハンエアに跨り、後ろにマミを乗せいざ出発だ。街から生贄の祭壇がある山まではナナハンエアでおよそ二時間ってことか。

 

「マミ。しっかり掴まってろよお。飛ばすぜ!」


「あたしにスピードを語るっていい根性してるわね。いいわよ。思いっきり飛ばしなさい!」


 マミは元気よく俺へ言葉を返すと、俺はナナハンエアのハンドルを握り込み一気に捻る。

 ナナハンエアのエンジンがうなりを上げ一気に加速していく……

 


◇◇◇◇◇

 

 

 道中、俺はマミへイモムシから聞いた生贄のことを説明する。ああ。先にお互い自己紹介をしたんだぜ。マミは勝手に名乗っていたが、俺はまだ彼女に名前も告げてなかったからな。

 どうやらマミはラティアが生贄になるってことを知らなかったみたいで、「生贄」って単語が耳に入った途端にまたわめき散らしていたぜ……

 

「事情は分かったわ! 健太郎。試練の道ってのは誰もクリアしたことないのよね?」


「そうだぜ! まあ、俺にとっちゃ大したことじゃねえさ」


 俺の言葉が終わらないうちにマミは豊満な胸を俺の背中に押し付けてギュッと俺の首を絞めて来る。ヘーイ! いくらカワイ子ちゃんと言えどもお転婆が過ぎるぜ。

 

「健太郎。ちょっとバイクを止めなさいよ!」


「どうしたってんだよ!」


 バイクを止めろだと? 何考えてんだこいつは。

 

「そんな危険なところに行くというのに、あんたがあたしの足を引っ張らないか確かめる! なんならあたし一人で行くけど?」


「ヘーイ! よりによって俺を前にしてそう言うのかよ。女を殴る趣味はねえんだよ。怖いってんなら降ろしちまうぜ」


 俺はナナハンエアを停車させ、マミの方を振り返ると彼女は後部座席から華麗に月面宙返ムーンサルトりを決め地面へ着地する。着地すると彼女の豊かな胸が揺れる。

 ほう。いい体……じゃない……なかなかいい身体能力を持ってるじゃねえか。


「健太郎! 言うに事欠いてあたしが臆病だって! あんたこそどうなのよ! 女に負けるのが怖いの?」


 胸を反らし、腰に手を当て挑発的な態度で爬虫類のような緑の尻尾を振るうマミ。そういやこいつ、見た目は人間そのものだったが、尻尾がついてたんだったな……


「……んなことねえに決まってるだろお。いいぜえ。お転婆娘と遊ぶのも悪くねえ」


 安い挑発に乗ってしまったと自分でも思うが、このじゃじゃ馬を少しはしつけねえと大人しくならねえな。もっとも……女とやり合うのは趣味じゃねえし、ぜってえ殴らねえ。

 

 俺はゆっくりとナナハンエアから降りると、首を回し、指の関節を鳴らす。さあ。どこからでもかかってきな。


「武器は構えないの?」


「じゃじゃ馬と言えども女は女。女に向ける武器は持ってねえ」


「なら、あたしも武器は無しよ」


 マミは腰にいだ片手剣と大航海時代の海賊が持っているような古臭い見た目の……フリントロック式の銃を模したレーザーガンを取り外して放り投げる。

 片手剣が地に落ちる音がしたかと思うと、彼女は大きな胸を揺らしながら勢いよく俺と距離を詰めて来る!

 

 右腕をしなやかに振り上げ、下からすくいあげるように俺を拳で突こうとしてくるが、まだまだ甘い。確かになかなかなスピードだが……そんなんじゃあ俺には当たらねえ。

 俺は軽く体を右にスウェーし、彼女の拳を交わすと彼女は二手目、三手目の拳を左右から繰り出す。しかし、その拳は全て俺が回避する。

 

 全くとんだお転婆姫だよ。俺は揺れる彼女の鮮やかな赤い髪と胸を眺めつつ口笛を吹く。

 

「やるわね! あんた!」


 マミは感心したように俺へと呟くが、攻撃の手は緩めない。まあ、俺には当たることはねえんだけどなあ。


「これならどう!?」


 マミは堪んねえ太ももを高く振り上げるとやや後ろに胸を反らし、回し蹴りを仕掛けて来る! 当たんねえよ。そんな攻撃!

 これをかわしたら、そのまま近寄って……何!

 

――グンッと緑の尻尾が俺へと迫る。


「うおっとお!」


 俺は少しよろめきながらも、上体を逸らし彼女の尻尾を凌ぐ。

 

「あら残念。これもかわしちゃうなんて!」


 マミは口では軽口を叩きつつも、勢いよく一歩踏み出したかと思うと、両手を地につけ体に捻りを加え両足を振るってくる! 尻尾を入れて三連続か。

 だが、尻尾の動きはもう見切ったぜえ。

 俺は一歩後ろに下がり両足を紙一重でやり過ごすと体を沈め尻尾の一撃を凌ぎ、そのまま低い体勢から一気に彼女へと肉迫する! ちょうど地面に足が着いたばかりで体勢の整っていない彼女の後ろから軽く彼女の膝を突っつき、ひっくり返る彼女の背中を優しく片腕で支えると、抱き寄せる。

 

 俺はそのままマミへ顔を近づけると彼女の唇を奪う。背中を支えていない方の手は彼女の大きな胸を鷲掴みに。

 抵抗しようとするマミを背中に回した手でさらに俺の体に引き寄せ、身動きを取れなくしてしまうと、俺は彼女の口へ舌をわせる。

 

 しばらくそうしていると、マミの抵抗が無くなったので俺は彼女を開放してやる。


「健太郎。あんたが強いのはわかったわ……一緒に行こうじゃないの!」


 マミは顔を真っ赤にして、目の端に涙を溜めながら少しうっとりとした表情で俺にわめきたてる。全く……もう少し静かになってくれねえもんかねえ。


「やっと俺の実力が分かったみたいだなあ。んじゃあ。行くか」


 俺は未だ鷲掴みにしているマミの胸を一度揉むと彼女の豊満な胸から手を離す。

 

「あ……」


 少し寂しそうな顔をした彼女であったが、すぐにハッとしたように表情を変えるとナナハンエアの後ろにまたがった。

 俺もナナハンエアに乗り込むと、ハンドルを握り絞り込む。ナナハンエアはすぐにご機嫌なエンジン音をあげながら加速していく……

 

 さあて。試練の道へ一直線だぜ!

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