第6話 生贄の儀式とは?
イモムシは宇宙共通語が得意ではないから長い話を理解するのに少しだけ手間取ったが、簡単に話をまとめるとこうだ。
黒髪で灰色のウサギ耳を持った者が生まれることがある。黒髪に灰色のウサギ耳を持った者は神への捧げものとして生贄に処されるそうだ。
じゃあ、犠牲者は大量にいるんじゃねえかって思うところだが、この色の組み合わせは滅多に生まれないらしい。この街に古くから住む一族の者の子孫から生まれるんだが、数十年……下手したら百年近くも生まれることは無いみたいだが、生まれたら生贄になるってんだよ。
生贄になる「いつ」処されるのかも決まっているんだ。予想がついたが、「いつ」かってっと十八歳の誕生日になるんだよ!
イモムシはさっき言っていたよな「もうすぐ十八になる」ってよお。間の悪いことにイモムシの情報によるとラティアの誕生日まであと十日。十日後に彼女は生贄に処される。
生贄は街から少し離れた山にある遺跡の生贄の祭壇で捧げられる。俺は十日以内に何とかしないといけないってことだ。
「時間がねえじゃねえか! 今すぐラティアを
立ち上がろうとした俺をイモムシが黄緑色の短い手で制してくる。
「ま、待て。さ、最後まで話を聞け」
「分かったよ。イモムシ。短気は損気だよな。いい男ってのはドガッと構えねえといけねえな」
生贄は一度捧げれば向こう百年は捧げる必要が無くなる。じゃあなおさらとっととラティアを
運の悪いことにラティアの妹も黒髪に灰色のウサギ耳。彼女の両親は愛する娘のどちらかを救おうと苦渋の決断をしたってわけだ。しかし、彼女の叔父に当たる人物が二人とも救う道を模索する。
叔父はラティアの妹が捧げられるまで五年の猶予があるから、それまでに別の道を捜すべくイモムシにラティアを誘拐するよう依頼したってことだったんだ。
イモムシが叔父から聞いた情報だと、ラティアも妹も両親を愛しており、両親も姉妹を目に入れても痛くないほど可愛がっていたらしい。両親は娘のうちどちらかを失う決断を行うまでに相当やせ細ってしまったらしい。
「ううむ。こりゃあできればラティアと妹を二人とも両親の元にいさせてやりてえよなあ」
「か、彼女らの叔父は別の方法を古い記録から探り当てた……」
おう! 方法があるってのかよ。イモムシは「別の方法」ってのを俺に語りかける。
なんで生贄の儀式が始まったのかとか細かいことはどうでもいい。細かい事を気にするのは男らしくねえしな。
で、生贄の儀式そのものを無力化する手段ってのだが、山ごと爆破するのが手っ取り早いと思ったがそうじゃあねえらしい。
生贄の祭壇がある山には二つの道がある。一つは直接生贄の祭壇に続き、もう一つは試練の道だという。試練の道を突破し、生贄の祭壇に辿り着けば生贄の儀式は今後行われなくなるってことだ。
「イモムシ。要は試練の道ってところを抜ければいいだけなんだな?」
「そ、そうだ。お、叔父の調べた記録では試練の道を通り抜けた者は存在しない……」
「ほう。おもしれえじゃあねえか。だから五年の猶予を取ったってわけだな!」
「そ、その通りだ。ご、五年以内で達成できなかったとしたら、い、妹も
「そらそうだ。何事も命あってのものだぜ」
「りょ、両親は街の者から白い目で見られるだろうが、さ、
オゥケィ! だいたい理解したぜ。試練の道ってのを突破すれば万事解決ってことだろ?
「イモムシ。試練の道で何をすればいいんだ?」
「あ、ああ。し、試練の道の最後にガタライト鉱石があるということだ。そ、それを生贄の祭壇に捧げればいいってことだ……」
「今一、腑に落ちないぜ。ガタライト鉱石ってのが何かわかんねえが、そんな簡単なことだったら誰もがやってるだろう?」
「さ、さあな。か、確実なことは誰も達成したことがないってことだ。ガ、ガタライト鉱石は仕入れ可能だがな……」
おいおい。仕入れ可能って。外から仕入れて祭壇に捧げれば済むんじゃねえか? ガタライト鉱石って奴をよお。何か妙に臭うな……生贄の儀式ってのは。
「イモムシ。ガタライト鉱石を仕入れて祭壇に捧げれば終了じゃあねえのか?」
「ガ、ガタライト鉱石は、し、仕入れ依頼をしているが、ひ、非常に珍しい鉱石でな……一年かかっても手に入るか分からん」
うーん。時間が十日しかないんだよなあ。試練の道ってところからガタライト鉱石を採掘し、祭壇に捧げるしかないかあ。
「グダグダしてても仕方ねえ。生贄の儀式をガタライト鉱石で回避できるって情報は確実なんだな?」
「そ、そう聞いている。さ、最悪実力行使もやる気だろ? お、お前さんは」
「分かってるじゃねえか。これで収まらねえなら、山をぶち抜いてでも止めてやる。儀式なんぞ知ったこっちゃねえぜ」
「も、もう一度
イモムシはガタライト鉱石さえ捧げればいいって言うが、ガタライト鉱石ってのは希少だが他の惑星にもあるものだ。試練の道にガタライト鉱石の鉱脈があるってんなら、この星のどこかにガタライト鉱石の鉱脈が無いってことはねえだろ。
だから、試練の道そのものか、生贄の祭壇に何かあるはずだと俺の直感が言っている。
「俺はいつも俺らしくだぜ。イモムシ。ガタライト鉱石の写真はあるか? 見せてくれ」
仕入れ可能って言ってんだったら、ガタライト鉱石がどんな鉱物なのか知ってるだろう。俺の頼みにイモムシは応じ、手のひらより一回り大きい長方形の端末ディスプレイにガタライト鉱石を映す。
ガタライト鉱石はぼんやりと紫色に光るアメジストって感じの鉱石だったな。鉱石自体は透明で薄紫。で、鉱石自体がぼんやりと紫色に光る。これは分かりやすいぜ。見たらすぐ分かる。
見つけたら適当に切り取って、祭壇に持っていけばいい。
結果、生贄の儀式が回避できないようなら、山ごとぶっ飛ばしてやる! どうせやるなら派手に行こうぜえ。その後はラティアと彼女の妹を
よおし、山の位置は地図に登録した。ガタライト鉱石の特徴は覚えた。
「イモムシ。ありがとうよ。行ってくるぜ!」
俺がイモムシに手を振り、扉へ振り返った時――
――両開きの扉を勢いよく開けすぎて反動で戻った扉にぶつかる間抜けな女が姿を現した。
ヘーイ! マジで追いかけてきたのかよお。そうだ。テンガロンハットに黒いビキニ、カウボーイ風のミニスカートを履いた赤毛の女。お尻から緑色をした爬虫類型の尻尾が生えている……こいつは、胸と尻がイカス女海賊マミ・ブラウンシュガーだ。
俺はゆっくりと、扉に額をぶつけて悶絶している女海賊に右手をあげる。
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