第5話 ラティアの住む街

 蜘蛛たちと遊んでいたから少し遅れてしまったが、日没までに街へ着く時間は残っていたから、俺達はナナハンエアをぶっ飛ばし街へと急ぐ。

 ようやく森を抜けたら、今度は草原が広がっており、このまま一時間ほど直進した湖のほとりに街はある。

 

「ラティア。もうすぐ着くぜえ」


「はい……ありがとうございます」


 俺の言葉にギュッと俺の腰へしがみつく力をめるラティア。ん。少しは寂しいと思ってくれてんのかな。俺はそれなりに楽しかったぜ。

 ウサギ耳のラティア。俺は忘れねえからなあ。

 

 街へ到着すると、屈強な体をしたいかつい顔の門番ガードが二人いて、俺達を見ると狼狽ろうばいした様子で声をかけてきた。

 しかし……屈強なハゲ頭にウサギ耳は似合わねえな……ウサギ耳の種族だから当たり前なんだがどうもなあ。

 

「ま、まさか。行方不明になっていたラティア様!」


「おう。無事届けに来たぜえ」


 俺とラティアはナナハンエアから降りて、門番ガードの二人にこれまでの事情を簡単に説明する。

 

「なるほど。そうだったんですか。ラティア様を街の者全てが待っています。旅の方、このたびはありがとうございました」


「いいってことよお。ラティアを家まで送り届けてやりてえんだがいいか?」


 門番ガードは恐縮したように俺へ礼をすると、ラティアの家を指さしで教えてくれた。

 ヘーイ! 確かにこれは……街の人全員が待っていたって言っても不思議じゃない家じゃねえかあ。

 街の様子は俺から見ると昔懐かしい西部開拓時代のアメリカのような街並みで、銃を構えて早撃ち勝負とかやりたい雰囲気だ。街の門から真っすぐに太い道が通っており、突き当りにひときわ大きな四角いコンクリート製の建物が建っている。

 他は木製のウェスタンな感じなんだけど、この建物だけは近代的な造りだ。

 

 門番ガードが指示した家はコンクリート製の四角い建物……ビルといってもいいなこれは……だった。

 

 俺はナナハンエアを門番ガードに預け、ラティアと手を繋ぎ奥のビルへと向かう。俺の予想した通り、彼女は少し寂しく感じてくれてるみたいで、しゅんとウサギ耳がペタンと頭に付いている。

 表情は普通に見えるけど、ウサギ耳が分かりやすくしおれているんだよな。こういうところは可愛いぜ。

 

「ラティア。短い間だったけど楽しかったぜ」


「健太郎。私も……とても……とても楽しかったです……」


 ラティアは硬い表情だったけど、無理に笑顔をつくり俺に抱きついて来た。ヘーイ! モテる男はつらいねえほんと。ラティアはこんな大きな家に住んでいて、門番ガードの様子からするとみんなから慕われてるみたいだけど寂しいと思ってくれるんだな。

 どうやってさらわれたか分からないけど、無事街へ戻れて良かったな!

 

「ラティア。これで終わりじゃない。また遊びに来るからよ。そんときはご機嫌なドライブをしようぜ」


「……」


 俺の言葉にラティアは黙ってしまった。うーん。辛気臭い別れは好きじゃあねえんだ。俺は背中に回していた手をラティアのお尻へと持っていき、さわさわと彼女の尻を撫でる。

 ラティアはとたんに真っ赤になってウサギ耳もピンと立つが、俺を放そうとはしなかった。おおっと。ここはビンタを喰らうところなんだがな。思惑が外ちまったぜ。

 

「ラティア。困ったことがあったら俺に連絡しろ。いつでも助けに来るぜ!」


 俺はラティアにウインクすると、手のひらの半分ほどのサイズのテントウムシ型の通信機を手渡す。テントウムシ型の通信機を受け取った彼女はギュっとそれを握りしめ、俺をじっと見つめて来る。

 ご褒美な唇が俺の目に飛び込んでくる……「子供」とはいえ、こういうところは大人なんだな。俺が顔を近づけると彼女は目をつむり唇を上へ傾けた。

 俺はラティアに軽く口づけをし、彼女を再び強く抱きしめる。

 

「……ドライブ楽しみにしてます……でも、木の幹に登るのはやめてくださいね……」


 ようやく彼女は笑顔になってくれて、俺のドライブの誘いも受けてくれた。よおし。いい子だ。俺は彼女の頭を撫でると、手を握り一緒にビルの前へ立つ。

 最後は笑顔で彼女と別れ、家の主人だろう彼女の両親から何度もお礼を言われ俺はビルを後にした。

 

 一仕事終わった俺はラティアの両親から貰った少しばかりの金を握りしめ、酒場へと繰り出す。

 いいねえ。酒場の入口。このウェスタンな感じが堪らなねえ。酒場の中もウェスタンなカウンターと机に椅子が置いてあり、この徹底した雰囲気作りに俺は好感を持つ。

 

 酒場を見渡すと、時間が早いからかまだ客はまばらではあるが、客は当たり前だけどウサギ耳の赤ら顔の中年や太った青年など……ウサギ耳が似合わねえ。

 ん? ここ未開地惑星で見るには違和感のある奴がいるなあ。

 

――あいつはイモムシだ。武器商人のイモムシ。


 イモムシというのは通称で、本名は俺のような人間には発音できないと聞いている。身長一メートル八十センチと俺より少し低いくらいの高さなんだが、横に広い。見た目はモンシロチョウの幼虫であるアオムシそっくりで、直立したアオムシって表現が一番しっくりくる。

 肌の色もアオムシそのもので黄緑色の鮮やかな体色をしているんだぜ。どうやって立ち上がってるか不明だが、多数の短い脚が体の両側から生えており、体の下部三十センチほどは地面について、その上の部分が直立している。上部には顔に当たる部分があって、そこには目と鼻と口が備わっている。

 

 イモムシ……何故こいつがここに。俺はイモムシにちょくちょく世話になっているが、未開地惑星にえんのある奴じゃあないんだけどなあ。

 声をかけてみるか……

 

「よお。イモムシ」

 

「や、や、あ、ケ、ケン」


 おー。相変わらず活舌が悪いな。イモムシは宇宙共通語の発音が苦手みたいで、ものすごい活舌が悪い。よくこれで商売できるもんだぜ。

 

「イモムシがこんなところにいるってことは、武器でも売ってんのか? 未開地用の?」


「い、いや。ち、違う。あ、ある女を連れ出したんだが……ゆ、行方知れずに、な、なっちまって、な」


 ん。女を連れ出した? まさかラティアを連れ出したのはイモムシか? 

 

「てめえ。ラティアをさらったってのか?」


 俺はすごい剣幕でイモムシに迫るが、イモムシは動じた様子もなく俺に答える。


「そ、そうだ。い、生贄の女をさらった……た、確かにラティアという名前だった。と、歳は十七もうすぐ十八だ……」


「黒髪で灰色のウサギ耳か?」


「そ、そうだ。し、知っているのか? ケ、ケン?」


 何てことだ! 生贄だとお?! ラティアがこれから生贄になるってんだったら彼女のあの態度がしっくり来る。彼女は生贄になる覚悟はあったんだろうから、戻りたくないと一言も言わなかったが、心の底ではそうじゃないだろう。

 誰だって進んで死にたくなんかねえよ。イモムシは彼女が生贄になるって知ったから、この星から連れ出したのか。それを連れ戻したのが俺……

 

「畜生! ラティアを連れ戻してくる!」


 俺は立ち上がり体を酒場の入口へと向けるが、イモムシは俺を制止する。


「ケ、ケン。か、彼女をさらっても他の誰かが生贄になる……あ、あんたなら全てを救う手立てがある……」


「ほう。聞かせてくれ」


 俺は椅子に乱暴にドカッ座ると足を組む。「全てを救う」手段だとお。いいねえ。そういうのを待っていたぜ。


「も、もちろんだ。わ、私もようやく生贄の儀式が何か調べがついたところで、だ、誰かに頼もうと思っていたんだ……」

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