天女
田中君が選んだ映画はありきたりな恋愛映画
欠伸が出ないように、ときめいているように
細心の注意を払ってみていた。
真っ暗闇の中、映画はラストのシーンへと入っていった。
子供騙しな幼稚な恋愛をほとんど満席状態の映画館で皆が固唾を呑んで見守っている。
面白いくらい泣いている人や、体を乗り出してのめり込んでいる人。
呆れながらそんな人達をみていた。
ふと、手に何か当たった。
その何かは私にはすぐ分かった。
ちらり、とそちらを向くと顔を赤くした田中君がいる。
───……童貞
私の手に当たったのは田中君の手。
触れるだけで何もしてこない。
純愛だったらこれだけでドキドキして充実出来るのだろうけど、私は純粋でも無ければ処女でも無い。
ましてや大好きとも言えないような人の手が触れても脈拍は上昇すらしない。
私は愛を与える側。
愛を与えられるのは好きでは無い。
田中君の手を握った。
一瞬驚いたのかピク、と跳ねたがそれだけで逆に握り返してくる。
私は愛を、与える側。
不器用だから、慣れてないから、
愛を与えられるのは
嫌いなの。
映画が終わり、会場が明るくなる。
少しずつ話し声や、席を立つ音が目立ち始めた。
先程からずっと握っていた手を放し、田中君の方を見て、「そろそろ、出る?」と聞くと茹でダコの様な田中君が頭を縦に振った。
「あの映画、面白かったね~」
嘘を平然と吐きながら田中君に私の50%の笑顔を見せる。
「う、うん」
頭を掻きながら田中君は私に目を合わせないように頷いた。
もう日が暮れてきている道の脇で私は髪を耳に掛けながら言った。
「……これから、私の家…来る?」
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