第10話 重太郎と松太郎

松太郎は本間重太郎商店へ入社して三年が経とうとしていた。夜学が終わり、明日の準備のために会社へ寄った松太郎。事務所には灯りがともっていた。本間重太郎が仕事をしていた。

 「親方、こんばんは。お疲れ様です。」

 「松か。学校の帰りか。少しいいか」

 「お前、来年で四年になるな。いよいよ高

校も最後。ここまで仕事に学校に頑張った

な。大学にいく準備をしないとな。」

「はい、受かるかどうかわかりませんが、

大学への試験を受けてみようと思ってます

。」

「こうしてお前と仕事をして楽しいよ。若

さがあって体力もある。何事にもとらわれ

ない発想力がある。考えてみると、倉庫、

配達、事務、営業と全部こなしてるな。」

「親方や海老名さん、高野さんが親身にな

って教えてくれたからです。ありがとうご

ざいます。こうやって会社の全部の仕事を

させてもらって、いつも違う立場で自分の

仕事を見ることができます。他の部署の人

がやりやすいようにしてあげなきゃいけな

いなって思うんです。親方がいつもいって

る言葉が本当に身に染みています。」

「そうか、それは、ありがとう。お前、う

ちで働いてどう思う?」

「問屋の仕事はおもしろいですね。入社し

て驚いたのは荷物の量でした。こんなに多

くの商品を扱っていて、これが島の人の生

活を支えてるんだと思いました。文房具、

洗剤、学校教材、最近は菓子や食品までい

ろんな商品があって、毎年新製品が発売さ

れて、それをいち早く見れるのが楽しいで

す。

特にファミリー商事さんの展示会にいかせ

てもらったときなんか、夢の世界にいるよ

うでした。島全部を配達でまわれるのも鳥

越の部落しか知らない俺にとって、こんな

ところがあったんだといつも感動の日々で

す。海なんか見たことがないんで、それが

毎日見ることができる。自分自身、信じら

れないです。仕事をしながら、こんな体験

ができるなんて恵まれ過ぎています。」

「松は仕事をしていて、うちの会社は世の

中の役に立ってると思うか?」

「それは思います。戦争で物がない中、商

品を島の隅々にまで配達し、みなさんの生

活に役立っていると思います。お得意様を

でるときなんか『ご苦労様』といっていた

だけることは役立っていることだと思いま

す。」

「教えてほしいんだが。お前が仕事をして

て困ったことはどんなことだ?自分の立場

からでいいんで遠慮なくいってくれ。」

「困ったことですか・・・。銀行で小切手

の換金のときに、横線小切手がでてきたと

きです。あれは困りました。横線小切手の

意味がわからず、どう対処していいか右往

左往してました。そのときは銀行の方が機

転をきかせてくれ、高野さんに連絡して解

決しました。

これは自分のミスなんですが、間違って配

達したときですね。ちゃんと伝票と商品と

あわせて下せばいいのに、早合点と慣れで

間違ってしまうんです。商品がない、商品

が余ってることがわかると頭が混乱してく

るんです。

やっぱり親方がいつもいっている、商品名

、数量、総個数を合わせなければいけませ

んね。

配達にいって返品をもってくるのは困りま

した。勘違いの注文や壊れていたとかでし

たら仕方がないと思うんですが、注文もし

ないのに勝手に伝票を書くやり方は勘弁し

てほしいです。営業の駆け引きとか競合す

る問屋とのことで伝票を書いていると思い

ますが、それが多いと考え物だとおもいま

す。」

「勝手に伝票を書いてたのは渋谷がいたと

きだな・・・。今はないだろ。横線小切手

は銀行が盗難防止をお得意様に騒ぐもんだ

から、その仕組みを知らないお得意様は、

すぐに横線小切手を発行してしまう。俺は

銀行員に安易に発行してもらうと換金する

ときに困るから、きちんと換金の方法を教

えてから発行させるようにしてほしいと怒

ったことがあるんだ。」

「あとはやっぱり冬の雪ですね。雪かきを

しないと仕事ができないんで、朝早く起き

ての雪かきは、余計な仕事ですよね。それ

だけで体力使い切ってしまいます。長靴の

中に雪が入ったときは参ります・・。雪で

車が埋まって立ち往生したときなんか、ど

うしたらいいか本当に混乱してしまいます

。近くにいた人が車を押してくれたときな

んか、人のありがたさを感じてます。自分

が助けてもらったんだから、同じように困

っている人がいたら助けるようにしていま

す。親方、去年の土砂降りのときを覚えて

ますか?大変だったんですよ。近藤さんと

配達にいったとき、雨で地盤がゆるんで土

砂崩れにあったんです。道は通行止めで回

り道したところも道がふさがれたんです。

お得意様への配達があったんで、土砂をよ

けてやっとトラック一台がやっと通れるよ

うにしたんです。

通るとき、左側は崖で、下を見たら深い谷

だったんです。タイヤは道の端ギリギリだ

ったんです。近藤さんが操作を誤れば崖か

ら落ちるところをゆっくり慎重に進めても

らい、トラックの左側の状態を教えて、な

んとか通ることができたんです。」

「そうかそれは知らなかった。大変だった

な。これはいやだと思ったことはあったか

?」

「俺は仕事を教えてもらう立場なんで仕事

でいやなことはないです。でも入社したと

きにお得意様からいじわるされたことがい

やでした。きちんとあいさつができてない

俺が悪いんですけど。あいさつがなってな

いということで、お得意様を探してるとき

に配達した商品を隠されたことがあったん

です。

会社のお金を不正に使う人が頻発したとき

はいやでしたね。みんな一生懸命仕事をし

ているのに自分だけ悪いことをして会社に

迷惑かけるのは雰囲気が悪くなりますよね

。そのことで鬼が島商事から悪い噂を立て

られたときなんか、俺はお得意様と接して

ない分、海老名さんや勇作さんが、その話

をしてるのを聞くのがつらかったですね。」

「そうか。やっぱり渋谷の件はみんな嫌な

想いをしてたんだな。直接お得様と接して

ないお前がその話を聞くのは本当につらか

ったことだと思う。」

「あと、平気で遅刻したり休んだりする人

がいたりすると、よくないですね。会社の

雰囲気が悪くなります。我慢するにも限界

があります。親方が十分前に会社にはいる

ようにいってるのに、何食わぬ顔で五分く

らい遅れてくる人なんて自分のことしか考

てない人が多いですね。そういう人にかぎ

って勤務中にさぼったりしてるんですよね

。親方は遅刻にうるさいのは若いとき、よ

っぽどいやな思いをされたんでしょうね。」

「勤怠は基本だからな。腐ったりんごが一

個あるとそれが全部にまわって、いいリン

ゴまで腐っちまう。会社やっててこれが一

番、こわいんだ。勤怠には特に注意してる

んだ。」

「これは言いにくいことなんですけど、鬼

米商事さんの遠藤さんのこと(鬼米商事の

遠藤が事務・岩城美智子の尻を触った事件

)なんですけど、俺にとって複雑な気持ち

なんです。まず、親方は自分の地位をわき

まえているところは偉いと思うんです。

でも、ああまでされて(遠藤が岩城の尻を

触ったこと)こちらが逆に頭を下げなきゃ

いけないのはつらいことでした。近藤さん

が怒る気持ちはわかるんですよね。問屋と

いう地位が偉いとは思いませんけど、こん

なに地位が低いものなんでしょうか?」

「松、俺たちは商人なんだ。俺がとった行

動は今のお前の立場や年齢だと理解できな

いことだと思う。近藤が怒るのも当然だ。

怒って取引をダメにするのと、これをいい

ほうに解釈して商売をうまくすすめてゆく

のか、これからの心構えだ。問屋という商

売を仕入れさせてもらって、お得意様に販

売していただくことにあると思う。お前や

近藤にとっては難しいことだと思う。今回

の俺の行動を数十後に思いだして考え直し

てみるといい。」

「わかりました。」

「会社で楽しいことはあるか?俺の心情は

どんな仕事も楽しくすることなんだ」

「俺はみんなが楽しく仕事ができるように

考えています。いいにくいんですが、荷物

を積み込みのときに、軽いお菓子なんか、

ポンポン投げて、それをうまくとれるかで

遊んでたことがありました。商品を大切に

しろと海老名さんから注意されたんで、今

はやってませんけど。内田は漢字が読めな

いんで、伝票読み上げのときなんか、変な

風に読んでみんなの笑わせてくれます。読

み上げのときは、じゃんけんで誰が読むか

を決めてるんです。内田はカタカナの商品

なんか七文字以上の商品になると、しどろ

もどろで、この前なんか、うまく読めなく

て、何をいってるのかわからなく大笑いで

した。

仲山が、あの大きな丸松建設の仕事を取っ

たのは本当にうれしかったです。渡辺所長

のダムにかける想いに仲山が応えられたの

がよかった。いつか満州の東洋一のダムの

話を渡辺所長と仲山のお兄さんを交えて聞

いてみたいです。あのあと、ダムの仕事を

受注した祝勝会を仲山と事務の三橋さんと

三人で開いたんです。三橋さんと丸松の事

務の安田さんが本当に仲がよく、三橋さん

は商品を提案したりして注文を頂いたりし

てたんです。いい仕事をしてたんで、今後

の活躍の意味もこめて三人で食事をしたん

です。三橋さんは海老が好きなんです。仲

山と相談して海老の握り寿司をごちそうし

たんです。俺たちいたずらを思いだして、

そのうちの一貫に大量のわさびをいれても

らったんです。これに三橋さんがあたった

ときは、腹をかかえて笑いました。いい食

事会でした。」

「ダムのことでそこまで深く食い込んでた

のか。そういうことだったら、一言言って

くれ。少しは金をだすぞ。社員旅行はどう

だった?」

「社員旅行は楽しかったですね。出発前に

いろいろみんなで考えて盛り上げようとし

てるんで、それが仕事上での阿吽の呼吸を

生んでいるのだと思ってます。メーカーさ

んや問屋さんがカンパしてくれたのは本当

にありがたかたです。出発前にあんなにい

っぱいに荷物をかかえて、帰りにはなくな

ってる。なんか普通の旅行とは逆ですけど

、自由にわきあいあいで楽しい時間を過ご

せました。日頃、わからなかった、その人

のいいところも発見できて、これが仕事で

生かすことができてるのが収穫でした。」

「そうか、旅行はそんなことでみんな楽し

んでるんだな。今年もいかなきゃな!うれ

しかったことは何かあるか?」

「さっきもいいましたけど、雪の中で車が

うまって立ち往生したときに見ず知らずの

人から助けてもらったときですかね。あと

、親方から助けてもらったこと、これは本

当にうれしかったです。」

「え!何かあったか?」

「去年の夏に近藤さんと営業と配達をして

夜の帰り道、鬼が島商事の佐藤って人に車

あてられたことがありましたよね?向こう

は酒飲んでてスピード出してカーブを曲が

りきれず車線をはみだして俺たちにぶつか

ってきたんです。近藤さんも俺も怒って抵

抗したんですが佐藤って人にやりこめられ

、事故を俺たちのせいにしようとしたんで

す。近くの民家から電話をかりて助けを頼

んだら親方がトラックを吹っ飛ばして助け

てくれたのは今でも忘れません。トンネル

からでてきた親方の車をみたときは涙がで

ました。

鬼が島精神病院の配達を俺が担当してたと

き、入院していた女性の患者さんに気に入

られて会社にしょっちゅう電話がかかって

きて困ってたことがありましたよね。あそ

こは隔離されている病棟で、どこから会社

の電話番号を調べたのか、かけてきたんで

す。多分、窓からトラックのドアに書いて

ある電話番号をみたか、伝票を見てそこか

ら電話をかけてきたんじゃないかと思うん

です。親方が病院の院長先生のところまで

いってくれて、『会社の大切な社員が嫌が

ってるのに、しつこく電話をかけてくる患

者さんがいる。仕事に支障がでたらどうし

てくれるんだ!すぐに止めさせてほしい』

これをしてくれて助かりました。その後、一切連絡はこなくなりました。ありがとうご

ざいます。

会社の新しい流れをつくったとき、宮田が

倉庫の側からの要望とアイデアを提案して

くれたのはうれしかったです。あのおとな

しい宮田が積極に意見してくれたのには助

かりました。台車を使ったアイデアは素晴

らしいです!倉庫に同行の荷物をいれるの

に台車がこれくらい必要だといってくれた

ときは希望の数量を買ってあげたかったで

す。」

「そうか、そういうことがあったな。宮田

の変わりようには驚いた。台車は宮田の希

望と予算、使い方を聞いて希望に近いもの

を用意したよ」

「親方、俺から聞きたいことがあるんです

けれど、今、島内の問屋の競争やお得意様

の競争などで商戦が繰り広げられています

よね。最前線にいる親方はどう思っている

んですか?」

「今、鬼が島商事、日の輪屋と価格競争や

商品の取り合いをしてるんだが、松はまだ

値段のことはわからないと思うが、こっち

が百円といったら九十九円と一円、二円の

競争をしている商品がある。ひどいのにな

ると『本間重太郎商店より一円安くするん

で注文を下さい』といってうちの商品をと

っていくんだ。日の輪屋なんかメーカーお

脅してうちに返品をさせてまで圧力をかけ

てくるんだ。商売には競争がつきものなん

で仕方がないけど、みんなの給料や生活を

犠牲にしてまでの価格競争はしてはいけな

いと思ってる。これから競争はますます激

しくなると思うけど、お客様に喜ばれる商

品やメーカーを取り扱えるかの競争になっ

てくると思う。お互い有力メーカーを分け

て持つ棲み分けになるかもしれないな。今

、同行販売を増やそうとしてるのも勇作が

頑張ってメーカーを開拓してくれてるのも

、棲み分けに向かっている要因になるかも

しれないな。いいメーカー、いい商品と消

費者の生活に役立つ方向へいかなければい

けないと思う。

数年前と比べると世の中便利になっている

。世の中はそれに向かって便利になって、

さらに便利になっている。これからは消費

者の生活向上のため、便利を追い求めて考

えてゆかないといけないと思う。本土のほ

うで何が起きているかも情報を集めて把握

しておく必要があるな。

今の松の仕事のひとつには港へ行って荷物

を取って会社に持ってくることだと思う。

毎日、港に荷物を取りに行っている。でも

、同行販売という新しい商いの方法がでて

くると、直接、うちの倉庫に荷物を入れて

くれる方法がでてきた。今、直送ができる

メーカー、できないメーカーがあるが、数

年たつとすべてのメーカーが直送できるよ

うになってくると思う。これから、道路網

の整備が進むと運ぶ能力がついてくる。運

賃という形で、し烈な競争となって反映さ

れ、世の中の便利につながってる。松は今

、島にいるからわからないが、本土にいく

と、その競争はもっと激しいと思う。高速

道路ができて都市と都市とがつながると、

いろんな商品が大量に物が運べるようにな

る。大量に運べる分、運賃が安くなり消費

者には安く商品を届けることができる。そ

して便利になる。

今、鬼が島は海がある。本土から島までは

海上運賃がかかるから、俺たちは守られて

いるようなものだ。北部の分断されたとこ

ろがあるだろ?あそこはうちがいくまでは

、商品の日付や種類に大きな差があった。

だいたい二年の差があるといわれていた。

うちが、山を登って届けているから、洗剤

や日用品、お菓子、缶詰とかも並べられる

ようになっているんだ。あそこに橋ができ

たらどうなるか?みんなすいすい車で移動

できるから、街にでて新しい商品を買って

いるかもしれない。違う世界ができている

と思う。もうひとつの例として、今回、勇

作は頑張った。メーカーと直接仕入するこ

とができ、会社として大きな一歩だったし

、勇作も人間として成長できたんじゃない

のかな。勇作がやったことは、取引して下

さい。はい、わかりました。の世界だけじ

ゃないんだ。大村製菓さんが、うちと取引

する場合、うちまでの運賃がいくらかかる

かを見積もっていたと思うんだ。旅行のと

きに本土の店にあったんだから、本土まで

は採算にあっているということだ。しかし

、取引をすることは、本土から鬼が島まで

の海上運賃の問題が発生する。普通に、う

ちの倉庫まで直送だと納価に反映するから

高くなる。偶然、勇作は港止めという荷物

引取りの習慣を口にしたものだから、メー

カーも港止めで運賃を算出し直したら、採

算がでる運賃だったので取引が成立したの

だと思う。」

「しかし親方、俺、そこがわからないんで

すけど、今、同行とかで直送しているメー

カーさんは海上運賃も苦もなく運んできま

すよね?」

「いろいろな要素があると思うんだが、ひ

とつは、メーカーと運送会社との契約で安

く契約できていると思う。全国レベルの取

引となると取引額も大きいから、全体で考

えたら鬼が島へ運賃は高いが総額で吸収で

きるような仕組みになっていると思う。ふ

たつめは、鬼が島内の運送会社とメーカー

契約の運送会社との相性だ。島にある運送

会社が本土のどこの運送会社と契約をして

るかで安くもなり高くもなっていると思う

。」

「そうなんですか。うまく実感が湧きませ

んけど、勇作さんはうまくやったんですね

。」

「松ももう少ししたら直接取引やってみる

といい。日本全国からひっぱってくるとな

ると運賃が悩みの種になってくると思う。

そこに問屋の存在価値があるんだ。問屋が

荷物を集めて隅々にまで配る。今、うちが

やってないか?松、お前、中田屋さんまで

リヤカーで荷物を運んだよな。お前が運ん

でくれたからこそ、結果的に中田屋さんの

お客様は当たり前のようにお菓子や洗剤、

日用品を買ってくれてるんだ。うちの利益

の中には人件費やあらゆる経費、運賃が含

まれているんだ。市橋商店とうちが鳥越と

かで商戦を繰り広げていたのはわかるだろ

。市橋のやり方は、とっかかりの商品を原

価に一円乗せてお得意様に安さを訴え、お

得意へのはったりで多く仕入させ、最後は

得意のサバ缶で利益をとるというやり方だ

った。原価にたった一円をのせただけで運

賃はでるか?明らかに無理がある。結果は

わかってるだろ?倒産してなくなってしま

った。問屋が隅々にまで商品を行き渡らせ

るには適正な利益が必要なんだ。今はこう

やって役立っているが、さらに消費者に役

立って便利な手段ができてきたら、今のう

ちのやり方では難しくなってくる。うちの

やり方、しくみだと利益がでなくなってし

まうということだ。もう少しやさしくいう

と、今、松が直送体制を整えていることや

勇作が直接取引をしてることは鬼が島のお

得意様へよい商品を行き渡らせる便利な手

段を創ってることだ。もし違う会社や別の

組織が俺たち以上の便利さの追及の仕組み

を創ってきたら、うちの存在価値はなくな

る。倒産ということになる。

これからどうなってゆくか、何をするべき

か、ここからは俺にはわからない。視野を

広く、本土で何が起きていているかを頭に

いれて、今をもっとよくするにはどうした

らいいかを常に考えることが必要だと思う

。」

「ありがとうございます。勉強になりまし

た。まず今の仕事を便利にしてゆくかを考

えていかなければなりませんね。」

「松は今のうちの商品の中でどれが好きだ

?」

「やっぱりお菓子ですね。ファミリー商事

さんの展示会へいかせてもらってから、お

菓子に興味があります。お年寄り向けや昔

菓子はちょっと苦手なんですけど、大手四

大メーカーの商品はいつも注目してます。

ふぁみりー商事の中野さんに聞いたんです

が四大メーカーは掛け率が高くて利益がで

ないみたいで扱うのに大変みたいですね。

大村製菓のおばけ揚げせんを見つけたのも

いい機会でした。勇作さんや近藤さんもそ

うだけど、商品に惚れることは大切ですよ

ね。愛着がでてきますし、なんとしても売

らなきゃいけないっていう気持ちがでてき

ますよね。」

「そうだな。あとやってみたい商品とかあ

るか?」

「お菓子は輸入品をやってみたいです。な

んか聞くところによると、チョコレートは

ベルギーがおいしいらしいですよね。ベル

ギーの一番おいしいメーカーのチョコレー

トを日本全国に売ってみたいです。

自社製品も作ってみたいです。親方、越後

スナックさんのおつまみは、うちの自社製

品になるんですよね?」

「うん、そうだ。単におつまみを詰めた袋

にシールを貼っただけだが、あれは売れた

んだぞ!越後製菓の高木さんがまた同行を

お願いしてきたんだ。おつまみは単価が上

っていいんだ。」

「親方、単価が上るってどういうことです

か?」

「営業をやってると自然とでてくる専門用

語なんだが、松はこれからここを勉強して

おいたほうがいいぞ。単価が上るっていう

のは、一箱の金額ということなんだ。問屋

は一箱単位での取引が基本なんだが、やは

り売上がほしい。そうなると一箱あたりの

単価が高い商品を売るようにするんだ。う

ちは日用品から始めているから、単価が上

るのは、業務用の棚とか何万の売上になる

。でも棚なんか、しょっちゅう注文がある

商品じゃない。回転がよく単価が上る商品

をもっておくといいんだ。例えば、極東製

菓の百円のお菓子は、十二袋入りで八十円

で卸すと九百六十円の売上だ。越後スナッ

クの三個一〇〇〇円のさきいかは、一〇個

入りで二五〇円で卸すと二五〇〇円になる

。同じ一箱でも九六〇円と二五〇〇円だぞ

。二倍以上も違うんだ。単純計算で今回の

越後スナックの注文箱数は百箱だ。一箱二

五〇〇円とすると二十五万円の売上だ。営

業やってると、計算して売上が上がると、

うれしいものなんだ。逆に単価の低い商品

をたくさん売ってきた。計算してみると、

単価が低いんで思ったより売り上げが上が

らず参ってしまうことがあるんだ。」

「そうなんですか・・・。それは気づきま

せんでした。」

「単価の上がる商品は、うちには他にどん

な商品があるんですか?」

「ポリナミンEは単価が上って回転もいい

。五十本入りで七十八円で卸すと三九〇〇

円になる。ライオン缶詰もいいぞ。サバ缶

は通常で二四個入って一二〇円で卸して二

八八〇円だ。いかに単価の高い商品を売り

上げるかで売上が変わってくるんだ。」

「親方は、この本間重太郎商店をどのよう

にしたいと思っているんですか?」

「やはり一番に鬼が島の人たちの生活を豊

かにしたいことだ。戦争で物資が行き渡ら

に影響がまだ残っている。北部の分断され

た場所のように商品がゆきわたらない場所

がある。そんなところにまで、素晴らしい

商品を届けて、生活を豊かにしてゆきたい

。次には従業員の幸せだ。生活を向上させ

ることだ。例えば夕食の買い物に行って、

本間重太郎商店に勤めてるから、他の人の

買い物と比べて一品多く買うことができる

。そんな風なことが話にでてきたらいいと

思う。あと、若手のお前たちの能力を全部

だして世の中のために貢献させたい。極端

かもしれないが後世に残る仕事をしてもら

いたい。そんな風に考えてるんだ。」

「親方、そんな風に考えてくれてたんです

か・・・。ありがとうございます。」

「松、うちでいろいろなことを体験しろ!

思い切ってやれ!」


親方と松太郎の話はすでに深夜を過ぎ朝を

迎えようとしていた

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左近松太郎 失われた二次問屋の足跡 @kemirona1317

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